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「姉さん!?」


背中の上でキャーキャー喚く女を、何度投げ捨てようかと思った國将だったが…。女の言う自宅が思いの外近くだった為、なんとか無事送り届ける事となる。



閑静な住宅街にある、清子の自宅の呼鈴を鳴らすと…夜明け前の微妙な時刻ではあったが、暫くすると中から足音が聞こえてきた。






「どうしたの一体?ここの所、毎日遅くまで帰らないから…心配してたんだよ?」


玄関を開けたのは清子の両親…ではなく、高校生ぐらいの少年で。どうやらストーカー女の弟らしく、ぐったりとした様子で帰宅した姉に血相を変え、近寄る。


少年はその姉を抱える國将に対し、戸惑いの表情を浮かべたが…





「とりあえず、コイツ下ろしてぇんだがな。」


「あっ…部屋まで、連れて…」


二階を示し、姉を受け取ろうとする少年に國将は目配せで制して。そのまま邪魔すんぞと靴を脱ぎ、二階への階段を登り始めた。








「あの…姉がご迷惑をお掛けしました…」


清子を自室のベッドへと運んだ後、今までの経緯をかいつまんで説明した國将。さすがにお前の姉貴にストーカーされたなどとは言えず、通りすがりに偶然助けたのだと適当に話を見繕ったのだが…。





「この所、なかなか帰ってこなくて。ろくに寝ずに仕事してたみたいだから…」


心配してたんですと、恩人である國将に何度も頭を下げる少年は。ストーカー女・清子の弟で、ぜんと名乗った。

確かに、平凡な顔立ちは姉と似ているなと國将は思ったが。ストーカーなんぞに講じる姉とは、似ても似つかぬ印象だなとも感じた。


何故なら…





「本当にごめんなさい!姉さんがご迷惑をお掛けして…」


國将さんのおかげですと、更に深々頭を下げる善。

外見は申し訳ないくらい普通の少年だったけれど。

中身は誠実そのもので…『善』という名前にも負けてないんじゃないかと國将。


加えてあどけなさのある表情だって、平凡なりに愛嬌さえ感じたし。あの姉と比べればもう、好感しか持てなかった。







「あのっ!不和さんには是非お礼がしたいのですが…」


「ん?別に礼なんざいらねぇけどよ。」


ストーカーなんかに絡まれ、最初は傍迷惑だと思っていたが…。善を見ていると、なんだか悪い気はしない。


だからといって恩を売るような性格でもなかったし。少年にも学校があるだろうからと、早々においとましようとしたのだが…






「あ…お腹…」


タイミング良く鳴り出した腹の虫に、お互い顔を見合せて。國将は照れ臭そうにははっと笑い、ガシガシと頭を掻く。


そんな青年に、少年はくすりと笑みを溢して。






「良かったら、何かご用意するんで。」


どうぞとリビングの方へ招かれる國将。

健気な弟にこれ以上手を掛けさせるには、少しはばかれもしたのだけど。





「なら、遠慮なく。」


気紛れにも國将は、にやりと笑って。

少年の好意を甘んじて受ける事にしたのだった。

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