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「ギャッ!!」
颯爽と目の前まで行くと、ストーカーは蛙みたいな悲鳴を上げて。國将は呆れたようソレを見下ろす。
正に蛇に睨まれたそれの如く鋭い眼光だった為、ストーカーである女は肩を竦めたが…國将には威嚇してるつもりなど微塵も無かった。
「ああ…不和君が、私の前にっ…」
怯えていたとかと思えば、次には興奮したよう歓声を上げたストーカー女は。
それなりに華やかに飾りつつも、フォーマルな服装ではあったから。年上で社会人なのだろうとは推察出来たのだが…。
それ以上に説明するような特徴は、残念ながら見当たらない。
かといって、根暗で陰湿な雰囲気でもないので。
一見すると、コイツがストーカーか?と首を傾げてしまったくらいに。
平凡な女だなと國将は失礼にも思ってしまった。
そのストーカー女が、國将をキラキラとした眼差しで舐め回す。
「誰だ、お前…?」
特徴も無いから、全く記憶にもないのだが。
とりあえず質問すれば女はキャーっと悲鳴を上げ、早口で答える。
「私っ
最後に大好き!と脈絡なく告げてくる女。
田代木と名乗ったストーカーの話に、國将は疲れたよう溜め息を漏らした。
バイト先でも告白されたり、頻繁に店へ押し掛けては携帯番号を教えろだの抱いてくれだの、言い寄る客が大勢いたが。それがストーカーになるだなんて…。
言われてみれば、その中に、こんな女もいたかもしれないが…。
「あんた社会人だろ?よくもまあ、毎晩毎晩…」
仕事帰りなのだろうが、こうも連日のように尾行に勤しむだなんてどうかしてるだろう、と國将。
その異常さが、まさにストーカーだからこそ…なのだけど。
「私なら平気!國将君への愛があれば徹夜くらいどうってことないわ!」
大好き!と、名前呼びに早々シフトチェンジしてきた清子。図々しい女だなと呆れたが…
これはあまり関わらない方が正解だったかと悟った國将は。とっとと片付けてしまおうと、本題を切り出した。
「正直ウゼェんだけど?」
え?とすっとぼけた清子を、國将は険しい目で睨み付ける。大抵の人間なら、これだけで逃げ出すのだが───…
相手がストーカーとなると話は違ってくるようだ。
「ああっ…その野性的な表情も格好いいわ~!」
抱いて!と発言も段々と気持ち悪くなる清子に、かなり苛立ってきた國将。
女だからと思って今まで優しくしていだが…これじゃあ埒があかねぇなと至り、嘆息を漏らした。
「あっ、待って國将君!」
話すだけ無駄だったと、踵を返す國将の後を追いかけてくる清子。その間にも、國将に対する情熱をペラペラと息継ぎもなしに語ってくる。
時刻は後数時間で夜が明けようとしていたし、大学生な國将は学校だって行かねばならないのだ。短気な性格の割には結構頑張った方だと誉めたいが。
ここまで図々しいと、さすがの國将も限界なわけで…。
ブチリと堪忍袋が切れた瞬間、彼は再度女を────…
「あ?」
怒りをぶちまけるべく、振り返った國将は拍子抜けしたよう声を漏らす。
辺りを見やればいつの間にか消えてしまったマシンガントークと清子の姿。今までずっと後ろにいた筈なのに。
首を傾げ眉を顰める國将が、ふと下を見ると…。
「おい、どうしたよ?!」
「きゅ…急に目眩がっ…」
…どうやら連日の徹夜に加え、息継ぎなしに喋ったのが祟ったようで…。
清子は酸欠に陥り、倒れてしまった様子。
そうして何処までもウザイ女に対し、國将は怒りを通り越し…同情すら覚えるのだった。
「たく…家は何処だよ、近ぇんだろ?」
いくらストーカーといえど、体調を崩した女を放置するような人間ではない國将は。
腑に落ちないと表情で語りながらも清子の前にしゃがみ込み、背を向けて乗れと告げる。
そんな行為は、清子を益々調子づかせてしまうのだろうけど。案の定、彼女は凄く嬉しそうに目を輝かせて。フラフラながらも背中へと飛び乗って来たのだが…。
「ああっ…國将君の背中で死ねるなら本望だわ…」
「人の背中で勝手に死ぬんじゃねぇよ…」
人生で初めて、この顔に生まれた事を嘆く青年は。
鼻息荒くしがみつく背中の存在にうんざりしながらも。根っからの男前故に、ストーカーをきっちりと家まで送り届けるのであった。
そのストーカーが、後に運命の出会いを招くとも知らずに…。
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