第4話長い夜

「皆さんは食堂へ戻って下さい。僕が警察を呼びます。警察が到着するまで、田崎先生。生徒さんをお願いします」

田崎は生徒を連れて、食堂へ移動した。

「ワトソン君、死体にはまだ触らないでね。この部屋の不審な箇所が無いかだけ探して!僕は警察を呼ぶ」

黒井川はワトソンこと戸川を残し、丸田の所へ向かった。

「丸田さん、事務所の電話お借りします」

「……あ、どうぞ」

丸田は放心状態だった。3人の従業員も事務所にいた。

「もしもし、僕は愛知県警の黒井川と申します。今から、飛騨山荘にお願い出来ますか?殺人事件です。……はい、はい。1時間後ですか?分かりました。現場保存はしています。私と医師の友人が生死を確認するために入っただけです。お願いします」

黒井川が電話を切ると、丸田は口から声を絞りだした。

「……脅迫状は本物だ」

「皆さんも、食堂に集まりましょう」


「舞、舞どうして……死んだぁぁ!オレが仇を取るからな」

顧問の田崎は佐々木に近寄り、

「君の気持ちは理解できる。だけど、警察に任せましょう」

「うぅぅっ」

小田切春おだぎりはると和田由美は抱きあって泣いている。竜神たつがみ洋平と山本進也はうつ向いたままである。

黒井川はワトソンの所へ戻った。

「何か不審なモノは?」

「今のところ無し。心臓を一突きだ!即死だな」

「岐阜県警が1時間後に到着する。この大雨で到着も遅れるかもしれない。一旦、食堂へ行こうか」

「はい」


美術部一行と丸田支配人、従業員3人、そして黒井川と戸川は食堂に集まっていた。

「先ほど、岐阜県警に連絡しました。約1時間後に到着予定です。今日は夕方から大雨です。多少は警察の到着が遅れるでしょう」

みんな、黙り込んでいる。

初めて殺人事件に出くわし、死体を見たのだから無理もないだろう。

みんな、警察の到着を待った。一時間が物凄く長い時間に思えた。


プルルルル、プルルルル


事務所の電話が鳴る。黒井川は走って事務所へ向かった。

「もしもし、黒井川です。……何ですって!……あ~そうですか。遺体はどうしましょう?夏ですからね。……はい、了解しました」

黒井川は食堂に戻ってきた。

「黒井川さん、どうでした県警は」

「この大雨で山道の道路に土砂が崩れて、到着の目処が付かないそうだ」

「わたし達はどうすれば」

田崎が不安げに、指示を待っていた。

「今夜から必ず部屋の扉を施錠してください。皆さんは2階ですから外からの進入は難しいですが、2階の窓は開かない様に施錠して下さい」

高校生らは、各自部屋に戻った。


「丸田さんと従業員の方々も同じく」

「夕飯下げていいですか?」

田山が続けて、

「朝ごはんはどうしましょう?」

「普段通りで、あと大きな保冷庫ありますか?」

「……ありますよ。食料庫にしているプレハブがあります。結構、広いですよ。何か?」

「遺体を置きたいのです。夏は腐敗が早いので」

「じゃ、冷凍室におきましょう。いいですよね、支配人?」

山口が尋ねる。

「……か、構わんよ」


「山口さんと永吉ながよしさんに、お願いがあるんですが来てもらえます?」


黒井川はスマホで202号室の遺体と位置関係の写真を撮った。

遺体をシーツの上に乗せて山口と永吉に冷凍室まで運ばせた。


「ワトソン君どう思う?」

「外は大雨ですよね?現場には水滴ひとつも無かったんですよね」

「じゃ、犯人はこの山荘の中の人間と言うことか」

黒井川はタバコに火をつけた。








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