第3話序曲

黒井川が大型バスを眺めていると、学生服を着た高校生が次々に降りてくる。生徒たちは、各自荷物を持ちはしゃぐ姿があった。

顧問だろうか?小柄な大人の女性が生徒に指示を出している。

「みんな、わたしの手作りのしおり読んでくれたぁ?」

「先生の文字かわいい」

竜神たつがみ君、冗談言わないの。遠足じゃないんだからね」

「へ~い」

「先ずは各自しおりに書いてあると通り、部屋に行き、着替えて山荘から見える風景をスケッチして、12時から食堂でお昼ごはん。それから、夜7時の夕飯までにお風呂入っておくのよ。空いた時間はスケッチの続き。1人1室だから集まって遊ばないように。分かった?みんな。あと、ここはかなりの山奥だからスマホは使えません。公衆電話が山荘にあるから、緊急時はそれを使って下さい」

……

「返事はっ!」

ハイッ


高校生がぞろぞろ山荘に入っていく。

顧問を入れて7人だった。


入口で生徒たちは、丸田支配人に


宜しくお願い致します


と、言って各々の部屋に向かった。

顧問の女性は、宿帳に団体名と自分の携帯電話番号を書いた。

ロビーで女性顧問に黒井川は声を掛けた。

「先生」

女性は振り向いた。

「何か?」

「美術部の生徒さんたちですか?」

「はい」

「残念でしたね。昼から雨が降る予報です。スケッチは難しくなりそうですね」

「もう、変更が聞かなくて」

すると、戸川が近付いてきた。

「若い先生ですね」

「は、はい。田崎優子と申します」

「私は医師です。たまたまこの飛騨山荘に宿泊しています。あ、彼は安心してください。刑事さんです」

「……あぁ、安心しました。ナンパかと思いました」

黒井川は頭を掻きながら、

「こんな小太りでも、妻子持ちです」

「一番ナンパなのは君だよ、ワトソン君」

「わ、わたしは忙しいのでまた」

残された2人は、田崎に手を振っていた。


夕方6時。


黒井川と戸川は大浴場で湯船に浸かっていた。

そこへ、3人の男子高校生が入ってきた。

ワイワイ楽しそうだ。

「君たち、美術部の生徒だよね?」

「はい」

「でっかいチンコ、排水口に詰まらせないでね」

生徒はゲラゲラ笑った。

「田崎先生が言ったんですけど、お二人はお医者さんと刑事さんなんですよね」

すると、戸川が

「僕が医師の戸川、こちらが刑事の黒井川警部」

「カッコいいな~」

「何で刑事さんと医師の方がこの山荘に泊まっているんですか?」

「……休暇だよ」


夜、7時前。

「みんな、揃ったかな?」

田崎が部員に尋ねた。

「あれっ、まいがまだだね」

「うん、お風呂には一緒に入ったのに」

黒井川と戸川はビールを飲みながら、生徒を気にしていた。

「小田切さん、和田さん、お風呂までは一緒にいたの?」

「はい」

「はい」

「じゃ、小日向さんを呼んでもらえるかな。202号室」

「先生、オレが呼んできます。心配なんで」

「彼女思いなのね、佐々木君は」

「じゃ、呼んで……」


きゃあぁぁぁ


「叫び声だっ!」

美術部は全員、小日向舞の部屋に向かった。

黒井川、戸川も走って追いかけた。

佐々木がドアノブに手を掛けると、施錠されておらず、そっとドアを開いた。

そこには、胸にナイフが刺さった状態の小日向舞の姿があった。

佐々木が部屋に入ろうとすると、黒井川が腕を掴んだ。

「皆さん、部屋には立ち入らないように。現場保護の為に。刑事の僕と戸川医師のみとします。戸川君、その子どう?」

「ダメです。もう、死んでます」

部員たちは、泣き叫んだ。

佐々木は呆然としていた。


これが、連続殺人事件の始まりであった。





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