第2話脅迫状
ホンダのFITは、飛騨の山中を走っていた。
運転手は黒井川警部。助手席には戸川が座っていた。
「黒井川さん、何泊の予定ですか?」
「えーっと、言ってなかったっけ?三泊四日」
「その、飛騨山荘の支配人とはどういう関係なんですか?」
黒井川はタバコを灰皿に押し付けた。
「もと、高校弓道部の先生」
「へぇ~」
「で、ワトソン君は病院の方は?」
「尼ヶ坂病院はすっかり信用失くして、暇なんですよ」
「あんな、事件があったからねぇ」
間もなく、車は飛騨山荘に到着した。
2人が車から降りると、ツエをついた初老の男性が出迎えてくれた。
「お久し振りです。丸田先生」
「ホントに久しぶりだね。黒井川君。立派になっちゃって。今、警部補?」
「あれから、出世しまして今は警部です」
「そちらの方は」
黒井川が紹介した。
「医師の戸川君です。彼は頭が良く、2人で色んな事件を解決してきました」
「初めまして。戸川です」
「さっ、お二人とも入って」
丸田はロビーに2人を案内した。
従業員の山口と永吉が2人の荷物を運んだ。胸にネームプレートを付けている。
唯一の女性従業員の田山は客人にお茶を運んできた。
田山は実年齢より若く見えるタイプなのかこんな山奥の山荘には似合わない気がした。きっと40代だろうと勝手に推理した。さっきの、従業員は山奥が似合う。
田山が離れるとさっそく本題に入った。
「丸田さん、脅迫状が届いたとは?」
「うん、もう、1ヶ月前からずっと。最近は毎日、送られてくるんだ」
丸田は脅迫状の束を黒井川に渡した。
【この山荘を閉めると、お前を殺す】
「丸田さん、山荘を辞めるんですか?」
「もう、歳だし後継者もいない。赤字が続いていてねぇ」
戸川が、
「この山荘を閉める事を知っているのは誰ですか?」
「えっ?誰って仕入れ業者や常連さんには伝えているよ」
「そうですか~」
「段々、内容がひどくなって明日、名古屋からの高校生が宿泊に来るんでね。念のために黒井川君を呼んだんだよ」
「後で、周辺を見回ります」
「宜しく頼むよ。今夜は一杯やろうな」
「はい」
2人は各々の部屋へ向かった。片道3時間のドライブはキツい。
実は、指名手配犯がこの山荘近くで目撃されている。それが、絡んでいるのか?
夕方、黒井川と戸川は大浴場にいた。
「ワトソン君、キミはどう思うかい?」
「脅迫状の事ですか?私はかなり近くにいると思うんです」
「僕もそう思う」
「この山荘を閉めると不都合が起きる人物です」
2人はニコリとした。大体の目星はついたのだ。
「ワトソン君。丸田さんのおごりだから、この山荘の酒バンバン飲もうか?」
「いいですね」
その夜は、丸田と一緒に酒を散々飲み散らかした。
翌朝、黒井川は二日酔いで朝の10時に目が覚めた。
丸田がまた、脅迫状を持ってきた。
口にタバコを咥え、脅迫状を読んだ。
【必ず、殺す】
黒井川が車にタバコを取りに駐車場に向かうと、大型バスが止まった。
私立東南高校美術部御一行様
黒井川は何だか、胸騒ぎがした。
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