第5話 夏休みの計画

  早かったような遅かったような、よく分からなかった期末テストが終わった。期末テストが終わればもう夏休み。最後の科目が終わった瞬間、教室内では夏休みの出かける約束の話で持ちきりだった。もちろんそんな話には無縁な俺は、さっさと帰る準備をしていたが。


 やけに塊になっている人の間をくぐり抜けてやっと靴箱にたどり着いた俺は、思わずため息を吐いた。やっと一人の時間だ。陽キャたちのいる場所に陰キャが紛れるのはかなり辛い。そいつらのキラキラオーラに圧迫死しそうになる。こういう静かな場所が俺の居場所だ。


「お〜い!!榛眞はるま〜!!置いてくなよー!!」

蒼月あいる!?なんでお前、ここに!?」

「なんでって、はぁ。ひどくない?榛眞と一緒に帰るためじゃん!!」

「は?お前さっき女子達と話してたじゃないか。」

「のんのん!話されただ〜けっ!」

「あーっそ。」


 俺の居場所を騒々しくするのはいつも決まって蒼月だ。小さい頃から変わらない。だけどそれが案外嫌じゃないことはよく俺が分かっている。もしかしたらそういう俺の事もアイツは見抜いているのかもしれない。とても腹立つような、少し嬉しいような、矛盾する気持ちが俺を取り巻く。


「あーーーー、でも............、」

 急に蒼月は立ち止まり俺から視線を逸らした。これは決まってアイツが何か後ろめたい事をした時の仕草だ。


「おい蒼月、お前、何をしでかしたんだ??」

「そ、それがさ、花火大会の事で女子達に、『沢井君と一緒なら良いでしょ?ね??』って押し切られちゃって......。」

「はぁーー!?ふざけんなよ??」

「ご、ごめんて!!許してぇ榛眞!!一緒に来てぇ!!!!!」


 街のど真ん中で、右腕にしがみついてくる蒼月を見下ろす姿になってしまった俺は、周囲からの痛い視線に耐えきれずしぶしぶ頷いた。蒼月は途端に目をキラキラとさせて俺を見つめてきた。

 そんな蒼月は側から見ればケモ耳としっぽのついた小型犬だが、俺には〝してやったり〟と悪戯が成功した時のチビのようにしか見えなかった。


ねぇねぇ、浴衣で行く??それとも普段着??うわぁ楽しみ〜、とはしゃぐアイツの額を今度こそデコピンし、痛いぃ!!と蹲りながらこちらを上目遣いで見上げてくるその面を俺は呆れながら見下ろしていた。


「あっ!!!........................すれば........、」

「今度は何だ!?」

「い、いや!?こ、こっちの話〜!ふっふふ〜ん」



何か、嫌な予感がする......。

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