第4話 月
「沢井君、こんなとこで何してるの??」
「げっ!
「それ、私が聞いたんだけどなー」
そう言いながら天満はすとんと俺の隣に座った。俺達はしばらく黙って、吸い込まれそうなほど深い青色の空を仰いだ。深い空の奥にはどのくらい大きいのかも分からないくらい広い宇宙が待っている。
この世界の果てからだと俺達はきっと見えないんだろうな、と考えると自分がひどく小さく感じた。
「ねぇ、知ってる?月って、地球にいつも同じ面を見せて周りを回ってるんだってさ。」
「そんくらい、誰でも知ってるだろ。それがどうした。」
「もし私が地球で沢井君が月だとしたら、私は沢井君の一面しか見ることができなくなるる。地球......、私はとても損をする。月......、沢井君はずるいね。」
「はい??何の話して....、」
「私たちから見ると月は、欠けていることが多い。だけど月本体が欠けている訳ではない。」
「!!!!」
俺は思わずとなりにいる天満を見た。彼女は微笑んで俺の方を見ていた。
「それに、三日月はいつか満月になる。月はそうやって満ち欠けしながら私達に色んな顔を見せてくれる。......まるで、人みたいだよね!!」
天満の言葉がストンと心に落ちてきて、穴の空いた部分にかちゃりとはまった。人は、形を変えながら徐々に成長していく。その形が悪くても良くても、たくさんの形を知る事で自分というものを形成していくんだ。月も、もしかしたらそうなのかもしれない。俺は俺で良いし、俺が変わることもまた大切だ。
天満の言葉に背中を押されるようにして俺は、久しぶりにあの言葉を口にした。
「どうしてそんなに花が好きなんだ??」
天満の答えは、今まで聞いたことのないものだった。
「好きなものに、理由は必要ない!!好きなら好き、嫌いなら嫌い!......そうじゃない??」
小首を傾げる天満は、俺の幼い頃からの疑問をいとも容易く解消した。『理由なんていらない』。なんて簡単な答えだったんだろう。己の馬鹿馬鹿しさに思わず笑いが出てしまう。
「好きなものを好きと、嫌いなものを嫌いと表現するのは案外難しいものだな。」
「そうだねぇ。私もよく奇異の目で見られるよ。ちょっと傷付くんだよねー。でも、私はこの格好をやめるつもりはない。」
「好きだから?」
「そう!!だけどね、最近もう一つ理由ができたんだよね。」
分かる?と面白がるように目を細め、天満はくすくすと笑う。こういうところはちょっと腹が立つ。これは負ける訳にはいかない、と理由を一生懸命考えるも、分かるはずがない。俺はあっけなく敗北した。仕方なく首を横に振ると天満は途端にニマニマと憎たらしい笑みを浮かべ、俺の肩をぽんぽんとわざとらしく叩いた。
「そうかそうかぁ。なら、な・い・しょ・ねっ!!」
天満にはいろんな顔があることをつくづく思い知った俺だった。
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