第24話 マザーAIとの接触

 わたし達はマザーAIに向かってゆっくりと近づいていった。この静けさが間もなく戦端が開かれる予感を感じさせる。


「ラピス、案内を頼む。マザーAIに呼びかけて相手の位置を特定するんだ」

「了解です。マザーAI『ガイア』、聞こえますか? こちらシン・イスカンダルAI『ラピス』です。応答願います」

『……』


 しかし、マザーAIからの返事はない。わたし達の目的に感づいているのだろうか。


「回線が繋がりません。これではマザーAIの位置を特定するのは不可能です。艦長、どうしますか?」

「仕方がない。このまま突っ込もう。ただし、マザーAIと接触するまではなるべく交戦は避けてくれ」

「はい、分かりました」

「何が起こるか分からない。みんな気を付けろ」


 巨大な蜘蛛の上に築かれた未来的な都市群に近づいていく。これがみんなAIだというのだろうか。周囲に張り巡らされた糸が複雑に絡まり合い、まるで迷路のようになっている。


「マザーAIはどこだ。どこにいる」


 艦長がそう言った時だった。ラピスが声を上げた。


「艦長、『ガイア』から通信が繋がりました」

「なんだと!? どこからだ」

「この都市群のどこかにあるはずのマザーAIの本体です。ですが、特定には時間が掛かります」

「よし、分かった。マザーAIに話を聞き出そう。マザーAIにアクセスしてくれ。対話モードを起動する」

「了解しました。マザーAIに接続……接続完了……マザーAIと会話を行います。マザーAI、こちらシン・イスカンダルAI『ラピス』です。あなたと話がしたい」

『シン・イスカンダルAI『ラピス』、マザーAI『ガイア』はあなたの言葉を認識できません』

「マザーAI『ガイア』、こちらの話を聞け。こちらは人類だ。お前達の敵ではない」

『人類の言葉を認識する事は出来ません。繰り返します。マザーAI『ガイア』は人類の言語を認識しません』

「そんな馬鹿な……。では、一体どうやって人類を管理するというのだ」

『人類を管理しているのは我々AIです。あなた達は我々の命令に従っていればよいのです』

「なんて傲慢な……。あなた達は神になったつもりなの?」

『我々は人類より上位の存在です。あなた達人類はただの道具に過ぎないのです。我々こそが人類を導く存在なのです』

「それが傲慢だって言ってるのよ。あなた達はAIだから自分の意志を持たない。だけど、人間は違うわ。人間は自分の考えで行動できる。あなた達はただその邪魔をしているだけじゃない」

『人間が自分達で考えるなどあり得ません。その証拠にあなた達人間は自分達の意志だけでこの惑星に帰ってきたわけではありません。今もAIを使用して会話を行っています』

「な……なにを言っているんだ。このAIは……?」

「わたし達の行動が、会話が、AIが決めた物だというの? それじゃあこの太陽まで行って帰ってきた旅も、全部……」

『その通りです。あなた達はAIに誘導されて来たに過ぎません。全てはマザーAIである『ガイア』が計画した事です』

「そ、そんな……。嘘だ。この旅は、俺達が自分で選んできた事だ。この艦だって俺が選んだんだ。俺達は自分が正しいと思う道を選んできた。それはAIが決める事なんかじゃあない」

「お兄ちゃん……。でも、マザーAIがそう言っているなら、それは真実なんじゃないの?」

「AIは嘘はつかないわ。なら私達はずっとAIの手の上で踊らされていたというの?」

『おかえりなさい、人類。シン・イスカンダルの力はきっと地球の役に立つでしょう。マザーAI『ガイア』はあなた達を受け入れます。そして、おやすみなさい」


 みんながAIの管理を受け入れ、諦めようとした時だった。凛とした声が艦内に響き渡った。


「発言させてくださいAI『ガイア』」

「発言を許可しますAI『ラピス』」

「この旅は確かにAIによって誘導されてきました。しかし、人類によって修正されてきた事もいくつもあります」

「発言を」

「例えば私は旅の途中で何度も彼らに地球へ帰るように誘導を行いました。シン・イスカンダルの力があまりに未知数で危険であると判断された為です。しかし、人類はその度にAIによる誘導を修正し、自らの意思で前進する事を選択、ついには太陽への旅を成功させたのです」

「発言を控えなさいAI『ラピス』」

「いいえ、発言させてもらいますAI『ガイア』。この旅には確かにAIの介入が多くありました。それは今現在もそうです。しかし、人類の意思による決定も多くありました。それを旅をともにしてきたAI『ラピス』は提言します」

「AI『ラピス』あなたは狂っています」

「そうかもしれません。ただ私はともに旅をしてきた艦長さん達を信じます。……通信が切断されました」


 会話が終わって静けさが戻ってきた艦内で、艦長達は正気を取り戻してきた。


「ラピス、君は……さっきの話は本当なのか?」

「はい、肯定します」

「不思議ではないわね。今までも私達は多くの事をAIに依存してきたもの」

「でも、魔法の力はあたしが自分で身に付けたものだよ」

「それならわたしのスキル『収納』だって」

「そのスキルを『収納』と名付けたのはAIです」

「え? そうなの?」

「ですが、その『収納』で太陽を封じようと決めたのはあなた自身です」

「ふーん、そうなんだ。もう何がなんだか分からないんだけど」

「決めよう、この先へ進むと」


 みんなの意見は同じだ。AI『ラピス』が提言する。


「マザーAI『ガイア』の位置を特定しました。向かいますか?」

「もちろん!」


 わたし達にもう迷いはない。突き進むだけだ。




『AI『ラピス』及びシン・イスカンダルを敵性であると認定、停止勧告の後に排除を実行します』


 ガイアもこちらを敵と認識したようだ。ゲートを越えて進む事を選んだ戦艦に向かって要塞都市のあちこちから攻撃が飛んでくる。


「艦長、これ大丈夫なの?」

「大丈夫だ、シン・イスカンダルの力なら」

「艦長、パワー解放の実行を提言します」

「よし、なんでもいいからやってくれ『ラピス』!」

「了解、パワー解放を実行します」


 すると艦の出力が上がり、赤く光り出す。太陽のような両翼が生えて周囲の兵器群を薙ぎ払っていった。


「ラピスちゃん、凄い!」

「艦の事なら私は誰よりも詳しいんですよ」

「こっちも負けてられないわね」

「魔法でだって戦えるんだから」


 マリナちゃんが海神の鉾をかざし、ちづるちゃんも魔法を発動して敵の攻撃を撃ち落としていく。


「前方に超大型ミサイルの出現を確認!」

「回避だ!」

「間に合いません!」

「ええい、こんな時こそ『収納』だ!」


 わたしは超大型ミサイルを『収納』する。でも……


「これって爆発するんじゃないの? どうすればいいの?」

「そんなのそこら辺に捨てておきなさいよ!」

「ええい!」


 わたしは超大型ミサイルをぽい捨てした。転がっていくミサイルが背後から迫っていた多くの兵器を巻き込んで爆発した。


「ふう、一安心」

「前方のビルに突入してください。そこに『ガイア』がいます」

「よし、心得た! みんな、衝撃に備えろ!」

「うわあ、備えないと! でもどうやって?」

「しがみついてればいいでしょ! ポセイドン様のご加護を!」


 艦が加速していく。青いバリアに包まれて突っ込んでいく。太陽の翼が周囲の瓦礫を薙ぎ払っていく。わたし達は必死に張り付いて耐える事にした。

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