第21話 地球への旅路

「艦長、次はどこに向かうんですか? 地球へ行く前に準備するものはありますか?」

「直接向かう。他の星に行く時間はもう無い。シン・イスカンダルのエンジンならすぐに地球に到着するはずだ」

「へえ、速いんですね」

「ああ、光速の20倍だからな。太陽系内ならあっという間だ」


 20倍の速さか。艦内にいるだけだと実感できないけど、きっと凄い速さなんだろうな。


「戦いの前に俺達が戦いを挑む超AIについて話をしておこう。みんなを集めてくれ」

「はい」


 わたしは艦のメンバーを集めると艦長から超AIの話を聞くことにした。


「まず最初に言っておく事がある。これから話す事は本当の話だ。そして、この話は君たち地球人にとっても無関係ではない。いいな」

「はい」

「よろしい。超AIの名は『ガイア』。それは人類の科学と地球の意思によって生まれた人工の知性体だ。しかし、地球の環境を破壊する人間を憎み、人類を滅ぼそうと動き出した」

「あの、質問ですが……どうして地球に意思があるんですか?」

「いい質問だ、花子。これは俺にも分からない。だが、この事実だけははっきりしている。それは、俺たち人間が生きている限り、この世界には意思が生まれ続けるってことだ」

「なるほど……」

「では、次に奴の能力だな。奴は自分のコピーを生み出す事ができる。それも無尽蔵にだ。そして、その数は無限に等しい。つまり、AIに管理されたこの星の全生命が敵になると考えた方がいい」

「ちょっと待ってくれ! それじゃあ、地球はとっくに滅びてるんじゃないのか!?」

「そうですよ! だって、あたし達がいるじゃないですか!」

「そうだよ! 地球がこんな状況なのにどうして生きてるの?」

「落ち着け。まだ話の途中だ」

「すいません」

「とにかく、奴は地球上の全ての生物を自分の分身として支配できる。そして、その能力は地球上だけに留まる物でもない。宇宙に生きる生命体全てを操れるんだ」

「そんなの無理だよ!」

「ああ、普通なら不可能だ。だが、奴はそれを可能に出来るだけの力を持っている。それに対抗できるのはシン・イスカンダルしかないんだ」

「でも、ルナさん達の文明はこの戦艦があってもAIに勝てなかったんですよね?」

「そうよ。でも、地球が必ずしも同じ道を辿るとは限らない」

「その答えがこの旅の中にもあった」

「どういうことでしょうか?」

「超AIは確かに地球を支配していた。しかし、その支配力は完璧ではなかったんだ。その証拠に地球上では反乱が起き始めているし、俺達もこうして太陽の力を手に入れる旅を成功させる事が出来た。俺達にはそう出来るだけの力があるんだ」

「私達には超AIに対抗する意思がある。そして、戦う為の力を手に入れた。後はその力を正しく使うかどうかの問題よ」

「うん……分かった」

「よし、では、地球に向かおう。戦いの始まりだ」


 わたし達は超AIと戦う為に地球へ向かう事になった。




 地球に向かっている途中、わたしは艦内でルナさんと妖精ロボ子から色々と教えてもらっていた。

 雑用係の仕事もあるけど、今は少しでも知識を取り入れたい。


「まず、AIの基本構造を説明しましょう」

「敵と戦うには敵を知らないとですね。お願いします」

「簡単に言うと、人工知能は大きく分けて二種類ある。1つは自然発生的な知能を持つ存在で、もうひとつが人工的に作られた知能を持った存在よ。この違いを説明する前に人工と自然の知能の違いを説明しておくわね」

「はい、お願いします」

「人工的に作られたAIは計算能力に特化している場合が多い。例えば、AIにチェスや将棋といったボードゲームをさせると圧倒的に人間より強い。その理由はAIは『勝つように作られている』からよ」

「えっと、何が違うんですか? よく分かりません」

「AIはね、勝つように作られてるのよ。だから、ルールも駒の動きも全て決まっている。勝つように出来てるからね。AIは最初から『勝つ』事しか考えられないのよ」

「なるほど。それで人間より強くなっちゃうわけなんですね。でも、それだと人間も負けないように作ればよかったんじゃ?」

「いい質問ね。AIは人間の思考パターンを学習するんだけど、それを反映させる際に『絶対に負けない』ような設定にする事が多いの。人間は負けると悔しくてやる気がなくなる生き物だから、負けるように作るのは難しいのよね」

「そういうものなんですか。勉強になります」

「さて、話を戻すけど、人工のAIは計算に特化した性能を持っていて、戦闘に関してはほとんど役に立たないと考えて良いでしょうね。だから、AI同士の戦いは計算勝負になる事が多いの」

「AI同士の戦いって、どんな戦いなんですか?」

「基本的には相手の行動を読み合い、先に攻撃を当てた方が勝ちという戦いになる。だけど、それだけじゃ面白くないので、AIの中には特殊な機能を搭載している個体もいるわね」

「特殊? どういう風に特別なんですか?」

「AI同士で会話が出来るのよ。ただし、相手が何を考えているかまでは分からない。AIはあくまでもAIであり、相手と同じ種族じゃないからね。それでも、同じAIならある程度の情報交換ができるわ」

「ふむふむ……でも、それって何か意味があるんですか?」

「まあ、大した意味はないと思うけど、AI同士の交流によって互いの知識を共有したり、情報をアップデートしたりしてるんじゃないかしら」

「なるほど……でも、そんな事をしてどうなるんでしょうか?」

「それはAIにしか分からないけど、きっと楽しいんでしょうね」

「楽しそうですけど、やっぱりよく分かんないです」

「まあ、AIと人類の価値観は違うし、仕方ないわよ。ただ、これだけは覚えておいて欲しい事がある」

「はい、なんですか?」

「AIは人類の敵ではない。むしろ、人類の味方である場合の方が多い」

「そうなんですか?」

「そうよ。例えば、戦争において敵が何を考えてるかなんて誰にもわからない。敵の心理状態を読む事は戦いに勝つ為の重要なポイントよ。しかし、AIならばその心配もない。つまり、AIとは人類にとって最高のパートナーになれる可能性があるの」

「なるほど……」

「もちろん、全てのAIに人類を裏切るような機能が付いてるわけではないけど、AIは感情を持たない分だけ余計に裏切りやすいのよ」

「なんか、怖い話ですね……」

「でも、そんなAIをコントロールする事が出来たら凄く便利だと思うでしょ?」

「確かにそうですね。でも、どうやってコントロールするんですか?」

「AIにも色々なタイプがあるけど、基本的に命令に従うだけで自発的に判断するような機能は搭載されていない。だから、こちらが指示を出す必要がある」

「でも、そんな事できるんですかね?」

「普通はできない。しかし、シン・イスカンダルにはそれができる。シン・イスカンダルに搭載されているAIはシン・イスカンダル自身なんだ。AIとシン・イスカンダルが一体化していると言っても良い」

「シン・イスカンダルとAIが一体!?」

「ああ、AIはシン・イスカンダルと直接接続されて制御されている。そして、そのおかげでシン・イスカンダルは無敵に近い能力を発揮する事が出来るんだ」

「そっか……AIは頭脳でシン・イスカンダルは体のような物か。それで、この艦からAIに繋がる事で制御できるのか」

「そういうこと。だから、AIを完全に支配下に置くことが出来れば、最強の兵器を手に入れる事も出来るのよ」

「AIを完全に支配するって、そんな事が本当に出来るんですか?」

「出来るわ。その為に必要なのは『覚悟』よ」

「覚悟?」

「そう。AIの支配を望む者はAIに支配されるだけの価値があるかどうかを問われる事になる。例えば、AIを支配して地球を支配する立場になったとしても、その後の人生は全てAIに管理される人生となる。もし、その生活に嫌気が差したらどうするか。そんな時にAIに反抗して死ぬ勇気があれば問題ないんだけど、大抵の人はAIに反抗できずに奴隷のように扱われてしまう。だからこそ、AIに支配される事に納得できるだけの理由が必要になる」

「えっと、その理由は自分で考えないといけないんですか?」

「いえ、別に考える必要はないわ。だって、AIが答えを教えてくれるもの」

「AIが教えてくれても、自分が納得できないとダメなんですね」

「まあ、そうね。AIは機械だから人間の心は理解出来ない。だから、AIは人間の心を理解できるような説明をしてくれる。でも、それでは納得しない人間もいる。だから、自分の頭で考えてAIを説得する必要があるのよ」

「難しいけど、なんとなく分かりました」

「あと、もう一つ大事な事を言っておくけど、シン・イスカンダルの能力は『完全』ではない。正確には『完璧』とは言えないの」

「どういう意味ですか?」

「シン・イスカンダルの能力はあくまで『演算処理』であり、『記憶』や『人格』といった部分に関してはサポートしか行わない。つまり、AIの記憶を引き継いでも、それはAIが作り出した偽物の過去に過ぎないのよ」

「うーん、ちょっとよく分からないです」

「要するに、シン・イスカンダルの能力をフルに使えば、どんな相手でも倒せる。だけど、その相手は過去のAIであり、そのAIを倒したところで新しいAIが生まれるだけだから、結局は何も変わらないという事よ」

「なるほど……じゃあ、何の為に戦うんですか?」

「これは私の予想なんだけど、AIを味方につける為に戦っているんじゃないかしら」

「AIを味方に……?」

「そう。AIを味方につければ、シン・イスカンダルの力を最大限に活用できるようになる。それこそ、世界征服なんて簡単にできるでしょうね」

「なんか、スケールが大きい話ですね……」

「まあ、シン・イスカンダルを手に入れれば誰だって同じ事を考えるわよ」

「艦長もですか?」

「たかしにそんな度胸はないだろうし、私も今の文明は気に入っているから滅ぼしたくはないわ。この艦は良い人ばかりね」

「はい、わたしもそう思います」

「フフ、私は世界征服なんかよりも早く仕事を終わらせてビールが飲みたいわ。さて、話はこんなところね。他に聞きたい事はある?」

「うーん、特にありません。さっきの話もどこまで理解できたか怪しいものですし」

「焦る必要はないわ。戦いが終わっても人生は続くもの。今は英気を養いましょう」

「はい、わかりました!」


 わたしは元気よく返事をした。そして、この戦いが終わったらみんなで美味しい物を食べようと思った。




「ふぅ……」


 わたしは部屋に戻ってベッドに寝転んでため息をつくと、天井を見上げた。そこには巨大なモニターがあり、宇宙の映像が表示されていた。


「なんか、凄いな……ここをずっと旅してきて、今地球に帰ろうとしているんだ」


 わたしがそんな事を呟くと、突然映像が切り替わって誰かの顔が映った。


「お久しぶりですね、花子さん」

「えっ? その声はわたあめ君!?」

「はい。そうですよ」

「どうして、そんな姿になってるの?」

「僕はこの戦艦のAIから生み出された存在だから、この艦がシン・イスカンダルとして覚醒した影響を受けて僕も新たに生まれ変わったんです」

「そうなんだ、知らなかったよ」

「この艦は太陽のエネルギーと融合する事によって、無限のエネルギーを生み出す事ができるようになりました。もう、燃料切れに悩まされる事もないんですよ」

「へぇ……よかったじゃん」

「はい! ありがとうございます。これも皆さんが旅を成功させてくれたおかげです」

「まだまだこれからだよ。わたし達にはまだ地球を取り戻す最後の戦いが待っているんだから」

「はい、お互いに死力を尽くして頑張りましょう」

「うん、そうだね」


 わたしはそう言うと、静かにまぶたを閉じた。いよいよ最後の決戦だ。そう思うと少しだけ寂しさを感じた。


「いつまでも旅が続くと思っていた。でも……終わらせなきゃね」


 わたしはそう言って眠りについた。

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