第20話 到達点

 アポロンを相手にマルスさんとヴィーナスさんは劣勢に回らされている。艦長とルナさんも打つ手が見つからないようだ。わたしはここで提言する事にした。


「艦長、ここでもうあれを使ってしまいませんか?」

「あれだと? 何かあるのか?」

「忘れたんですか? わたし達は別にここにアポロンと戦いに来たんじゃありません。太陽の力を得る為に来たんです。そして、その太陽はわたしがもう『収納』してあります」

「そうか。この艦を覚醒させるのだな」

「でも、危険よ。太陽の力を『収納』から取り出せばアポロンがすぐに取り戻しにくるかもしれない。太陽を取られたら今度こそ収集が付かなくなるわ」

「はい、だから気が付かれないようにそっとしないといけません」

「なら、どうすればいい?」

「簡単な話です。この艦のシステムを完全に掌握すればいいんです。それが出来るのは艦とAIに詳しい艦長とルナさんと妖精ロボ子だけです。後はわたしの方で上手くスキルを操作できればアポロンに気付かれずにこの艦を覚醒させる事ができるはずです」

「いちかばちかというわけか」

「でも、お姉さんそういう賭けは嫌いじゃないわ」

「仕方ないわね。神の力のコントロールはあたしの方でしてあげるわ」

「魔法でサポートするよ」

「ありがとう、マリナちゃん、ちづるちゃん。さあ、始めましょう」

「よし、始めるぞ」


 わたし達の作戦が始まった。まずは妖精ロボ子が艦長室にあるシステムの管理権限の全てを手に入れる為にハッキングを開始する。


「出来るの? 妖精ロボ子が優秀なのは知ってるけど、前にわたしとルナさんがやってもこの艦の全てを掌握する事は出来なかったのに」

「大丈夫ですよ。ロックされている箇所はいくつもありますけど、ここまで来たら妖精ロボ子も限界MAXで頑張ります」

「凄い。わたしの何倍もの早さで進んでる」

「流石だわ、妖精ロボ子」

「いえ、それほどでもないですよ。それより今はシステムの掌握に集中します。まずはラピスの妨害を破らなければ」

「任せたぞ、妖精ロボ子!」


 妖精ロボ子は艦のシステムを『解析』しながらシステムを掌握していく。


「艦長、これで艦内のシステムがほぼ全て使えるようになりました。後は太陽のエネルギーで眠っている箇所を起こすだけです」

「わかった。では、次は俺の番だな」


 艦長はキーボードを操作して戦艦のシステムにアクセスする。


「よし、エネルギーを通す用意は出来たぞ。次は花子、お前の番だ」

「はい、太陽のエネルギーをアポロンさんに気づかれないようにこっそり『収納』から流します」

「頼むぞ」

「はいっ!」


 わたしが太陽の力を『収納』から解放すると、その力は一気に流れようとした。急いでマリナちゃんが海神の鉾で半分ぐらい堰き止める。


「ちょっと、花子。いきなり流しすぎ」

「ご、ごめん。ちょっとずつやるつもりだったんだけど大きすぎてあっつ」

「魔法の力で抑えるよ」

「ありがとう、ちづるちゃん」


 マリナちゃんとちづるちゃんの協力でなんとか暴走を止められた。落ち着いてちょっとずつ流していく。


「花子、無理するな。いざとなったら俺達が何とかする」

「ありがとう、艦長。でも、これはわたし達の仕事だから」


 太陽のエネルギーが徐々に艦に流れ込んでいく。高まっていくエネルギーにさすがのアポロンも気づいたようだ。


「な、なんだ? 一体何をしている!?」

「おっとお前の相手は俺達だぜ」

「艦長さんの準備が整うまで私達の遊びにつきあってもらうわ」


 マルスさんとヴィーナスさんがアポロンの進路を妨害する。その間に艦長はエネルギーの充填を進めていく。


「まずいな、アポロンに気づかれたようだぞ。くっ……まだなのか?」

「もう少しです、艦長。あと少しで完了します」

「もうすぐよ。頑張って」

「うん、わかってる。もうちょっとだな」


 わたし達は必死に作戦を続けた。アポロンのフェニックスがマルスさんとヴィーナスさんを払いのける。射線ができた。


「何をやろうと無駄だ。太陽を返せ! アポロン・ダイ・レーザー!」


 フェニックスから放たれる必殺の光線が戦艦に命中する。


「フッ、神の力を知ったか!」

「もう! 神の力はこっちにもあるって忘れないで!」

「ポセイドンの結界か!」


 青い結界がアポロンの攻撃を遮っていた。おかげで艦は守られたが、こちらの制御が厳しくなった。


「花子! 太陽のエネルギーは!?」

「完了しました! もう『収納』します!」


 太陽のエネルギーはやはり人間が扱うには過ぎた力だった。マリナちゃんが艦の防衛に回ったせいで危うく暴走しかけたけど、何とか充填と『収納』が間に合った。


「ちづるちゃんもありがとう。これで準備は完了だよ」

「艦の機能、全ての解放を確認。艦長いつでもいけます!」

「よし、戦艦イスカンダルよ。今こそ真の姿を見せる時だ。覚醒せよ!」


 ステラさんが艦の状態を確認し、艦長が起動キーを回すと戦艦が変形を始めた。


「おおっ!」


 戦艦が目映く輝き出すと船体の各所から光が溢れ出した。変形が進んでいく。それはまるで巨大なドラゴンのようにも見える。


「戦艦イスカンダルよ。目覚めるのだ!」

「艦長、艦の名前を考えてください」

「え!? 今!?」

「本艦のAIラピスからそう指示が来ています。早く決めないとエラーを起こす恐れがあります」

「そうだな……よし、この姿に相応しい名前を授けよう。この名は『聖龍シン・イスカンダル』。そう、これこそ伝説の始まり。この名は『聖龍シン・イスカンダル』だ!」

「聖龍シン・イスカンダルの認証を確認。これより本艦は聖龍シン・イスカンダルとなります」

「やりましたね、艦長」

「ああ、後はあの野郎を倒すだけだ」

「艦長。主砲のエネルギー充填が完了しました。いつでも撃てます」

「わかった。では、行くぞ! シン・イスカンダル、ギャラクシービーム発射!」

「了解。主砲、発射します」


 戦艦の頭部にある主砲が光を放つと極太のビームが放出された。


「バカな!? 神であるこの私を上回る力だと!?」

「これで終わりだ、アポロン!」

「馬鹿め。太陽の力ならこのフェニックスにもあるという事を忘れるな!」


 アポロンのフェニックスからも極太のビームが発射される。二つのエネルギーはぶつかり合うと激しくスパークした。


「今だ、花子! 太陽を解放しろ!」

「え!? 『収納』から出していいんですか?」

「構わん! 今の太陽ならシン・イスカンダルの力になれる。俺を信じろ!」

「分かりました! 『太陽の解放』!」


 わたしが『収納』の口を開けると太陽は一気に出てきた。凄い力だ。マリナちゃんとちづるちゃんの助けが無ければこんなに凄い物だったんだ。

 宇宙に太陽が戻ってきた。すると、その力は一気にシン・イスカンダルに流れ込んできた。凄まじい力が艦内を満たす。


「エネルギー120パーセント! 再び主砲を発射できます!」

「よし! 撃て!」

「私の太陽……私の太陽だぞ!」


 太陽に気を取られてアポロンはその攻撃に対処できなかった。フェニックスが光の粒子となって消滅した。これでこの戦いは終わったんだ。

 マルスさんとヴィーナスさんがその宙域から何かを回収して戻ってくる。この話にはまだ少し続きがあった。




「はいはい、この度はご迷惑をお掛けしてどーもすみませんでした!」

「いえいえ、こちらこそ。太陽の力をわけてもらえればよかったので」


 わたし達の前でふてくされたように頭を下げさせられているのはさっきまで戦っていたアポロンさんだ。

 煌びやかだったその姿は光と爆発に呑まれてボロボロになっていたが、彼はまだまだ元気そうだった。

 マルスさんとヴィーナスさんが謝らせようと連れてきたのだが、そんな事をされても艦長もわたし達も困ってしまう。


「ほら、もう謝ったんだからいいだろ?」

「それが神の態度かよ」

「そうねえ、もう少し誠意を見せてもいいんじゃないかしら」


 マルスさんとヴィーナスさんは彼をどうしようか考えているようだ。艦長も考えて大人の態度を取る事に決めたようだ。


「協力に感謝します。これで我々は地球を支配する超AIに戦いを挑む事ができます」

「フン、太陽の力を与えてやったんだ。きちんと勝ってこいよ。くそっ、お前達に負けるようではゼウスに勝つなど夢のまた夢だ。こっちはまた一から考え直しだぜ」

「あの……頑張ってくださいね」

「言われるまでもない。お前達の頑張りも宇宙の中心から見ているからな」


 こうしてわたし達はアポロンさんと別れて太陽の宙域から離れ、今度は地球へ向かう事にした。

 戦艦は真の力を取り戻し、太陽を一時的に『収納』していた事で地球は冷えてAIの活動は鈍ったはずだ。

 AIから地球を取り戻す戦いがいよいよ始まる。

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