第19話 太陽の神
わたあめ君のおかげで太陽の表面温度はかなり下がった。だが、それでもまだかなりの高温だ。わたあめ君が命懸けで頑張ってくれたおかげで多少の時間ができた。
「アポロンは太陽のどこにいるんだ? 引きずり出してやる」
「艦長、敵艦から高エネルギー反応。来ます!」
「くっ、そっちもいたか。どこから?」
「上よ!」
「なに!?」
見上げると二隻の戦艦が飛んでいた。その主砲の先にエネルギーが集まる。
「わたあめ君に続いてこの艦も沈めるつもりか。まずい、全員防御姿勢!」
「ダメ、間に合わない!」
「ちくしょう!」
わたし達は身構えた。次の瞬間、凄まじい光が襲ってくる。
「きゃあぁー!!」
その光は一瞬でわたし達の艦を飲み込んだ。全てが終わったかと思った。だが、青い結界が艦を包んで助かった。
「これって見た事があります。ポセイドンさんの」
見るとマリナちゃんの持っている海神の鉾が青く輝いている。彼女も終わったといった顔をしていたが、すぐに自信を取り戻して言った。
「見た? これがポセイドン様の力よ。感謝しなさいよね」
「ありがとう、ポセイドン様」
「たかしが謁見したのは無駄ではなかったようね」
「うむ。それより太陽の方で動きがあるようだぞ」
見ると太陽の表面の空間が揺らぎ、そこに黄金の鎧を身に纏った美男子の姿が映し出された。
「驚いたぞ。まさか人間どもがポセイドンと手を組んでいるとはな。あやつが手を貸すとはお前達はただの人間ではないようだ」
「俺達はただの人間さ。みんなで協力してここまで来たんだ。お前が太陽神か」
「いかにも。我が名はアポロン。この太陽系を支配する神である。お前達には二つの道がある。ここで死ぬか、我に服従するかだ」
「服従だと?」
「そうだ。我はゼウスに復讐する為の手駒を欲している。ポセイドンを認めさせたお前達ならその強さ申し分あるまい。従えば太陽の力を分けてやってもよいぞ」
「ふざけるな! 俺達は支配なんてされない。AIにも神にもだ!」
「フフッ、やはり人間は傲慢だな。だが、もう口を開く事は無い。ここで燃え尽き、宇宙の塵となるがいい!」
アポロンの映像が消えた。太陽が輝きを増し、再びわたし達に襲いかかってくる。
「くそっ、またあの攻撃が来るのか!?」
「でも、さっきよりは温度が下がっていてマシになっているわ」
「わたあめ君の為にもここで負けるわけにはいかない!」
「ここが正念場だ!」
わたあめ君のお陰で少しは太陽の表面温度が下がっている。だが、それでもかなり熱い。それにマリナちゃんでも使い方がよく分かっていないポセイドンさんの結界にもあまり頼るわけにはいかない。
「艦長、敵艦から高エネルギー反応!」
「また来るわ!」
「地球のAIはどうしてわたし達を狙ってくるの? 元は人間と暮らすために造られたAIなのに」
「それが暴走してるって事だろ。今は考えるよりも生き残る方法を考えないとな」
「そうですね。わたあめ君のお陰で少しはダメージを下げられましたが、このままではいずれ押し切られてしまいます」
ポセイドンさんの結界はまだ張られているが、太陽の熱を防ぐだけで精一杯のようで、敵艦からの攻撃を完全に防ぐ事は出来ない。
「マリナちゃん、跳ね返せないの?」
「無茶言わないでよ。これでも踏ん張ってるんだから」
マリナちゃんは海神の鉾を立てて精一杯頑張っている。わたしも同じ雑用係として何か頑張らないといけない。でも、わたしに出来る事なんてスキル『収納』しか……
「艦長、太陽のエネルギーが増大しています」
「ちくしょう、せっかくわたあめ君が与えたダメージが戻っていく」
「どうしよう……」
「とにかく耐えましょう。焦っては相手の思う壺です」
わたあめ君は命懸けで太陽を弱らせてくれた。今度はわたし達が頑張る番だ。わたしは決意を込めてマリナちゃんに聞く。
「マリナちゃん、『収納』って何でも仕舞えるスキルなのよね?」
「ええ、そうよ。まさか、あなた、何をするつもり!?」
「あの太陽があるから、アポロンさんは無限の力を手に入れる事ができる。だったらあの太陽を『収納』しちゃえばいいんじゃないかと思って」
「いや、そんな無茶でしょ。いえ、もしかしたら可能なのかしら」
「きっと難しいと思う。やった事が無いから分からないけど。だから協力して欲しいの」
「分かったわ。あなたの作戦に乗りましょう」
「ちづるちゃんもお願い。これにはきっと魔法の力がいると思うから」
「うん、一緒にあの太陽を何とかしよう」
「ありがとう。それじゃあ、行くね」
わたしは精神を集中させ、自分の中に眠るスキルの力を呼び覚ましていく。太陽の周囲の空間に何かが発生していくのをさすがのアポロンさんも気づいたようだ。
「なんだ、この力は? 貴様は何をするつもりだ!?」
「太陽を『収納』します」
「はぁ!? 何を馬鹿な。そんな事は神か魔法の力でもないと不可能だ!」
「残念ながらこっちには神の力も魔法の力もあるんだよ! 雑用係を舐めるなあああ!!!」
わたしの身体から膨大なスキルの力が溢れ出し、太陽へと向かっていく。そして、太陽の周囲を包み込むように水流の幕と魔法陣が現れた。
「これは!?」
「太陽が吸い込まれてく!」
「うおおぉー!! これで終わりだ!」
わたしの手には余る大きさだけどマリナちゃんとちづるちゃんが力を貸してくれる。それにみんなも。
太陽が徐々に呑み込まれていく。さすがのアポロンさんも焦りを見せてきた。
「ええい、艦隊よ。何をグズグズしているのだ。早くそいつを撃ち落とせ!」
だが、その言葉とは裏腹にAIの艦隊は攻撃を止めて退いてしまった。
「なんだ? なぜ攻撃を止めるんだ。お前達にとってもそいつらは敵なんだろうが。太陽の力を渡してもいいのかよ!」
「残念ながらAIはあなたの私物じゃないの。考える頭を持っている。どうやら彼らは私達を阻止するよりあなたに服従する方が嫌だと判断したようね」
「おのれ、どいつもこいつも俺に従わぬ馬鹿ばかり。そこまで死にたいのならば灼熱の地獄を見せてやるぞ」
「無駄だよ太陽はもう『収納』した」
さすがに苦労する大きさだったけど、みんなが手伝ってくれたおかげで上手くできた。でも、しまうだけで精一杯でここから持ち運ぶ事は今のわたしのレベルでは無理そうだ。もっとスキルを上手く使えるように精進しないとね。
しっかり『収納』したからアポロンさんはもう太陽から力を引き出せないはずだけど、それでも彼の余裕は崩れなかった。前方の空間で不気味に笑ってたたずんでいる。その場所に向かって誰かが飛び立っていった。マルスさんとヴィーナスさんだ。
「アポロン、もう終わりだぜ。太陽が無ければ俺は惑星の崩壊なんて気にせずここで力を振るう事ができる」
「おとなしく艦長さん達に協力するなら同じ神のよしみで私は許してあげるわ」
「マルスにヴィーナスか。お前達もいたとはな。ゼウスを倒す前哨戦としてはちょうどいいか」
アポロンさんが指を鳴らす。すると彼の周囲の空間が歪みだした。
「何をするつもり?」
「まさか太陽を引っ張りだすつもりなのか?」
「馬鹿が。この俺が太陽が無ければ何も出来ない引きこもりだと思うなよ。準備していたのだ。外宇宙の神々に打って出る為の兵器をな」
現れたのは巨大な火の鳥の形をした巨大ロボットだ。全長は100mぐらいあり、その全身からは高密度のエネルギー体が放出されている。あれはヤバイ。直感的にそう感じた。
「アポロン、お前まさかこの宇宙を滅ぼす気か?」
「滅ぼすだと? 違うな。これは神同士の戦いだ。神さえ滅びれば残ったカスのような人間など私に従うしかなくなる。さあ、このアポロン・ダイ・フェニックスの力を見せてやるぞ。ゼウスの前にお前達が滅べ」
翼から発せられる光がマルスさんとヴィーナスさんを飲み込んだ。二人はそのまま近くにあった隕石に叩きつけられてしまう。なんとか立ち上がったけどボロボロだ。
「くっ、ここまで強いのか」
「このままじゃ勝ち目がないわ。逃げましょう」
「逃げるのかよ」
「作戦を考えようって言ってるの。突っ込むだけが戦いじゃないわ」
「そんな時間を俺が与えると思っているのかね?」
アポロンの操縦する巨大ロボットはすぐに追いついてくる。
「くっ、大きい上にスピードまで速いのかよ」
「ゼウスを倒す為の兵器だぞ? お前達ザコの神々など試運転の相手にしかならないのだ」
フェニックスが翼を広げる。そこから放たれたのは炎の槍だ。それが何本も降り注ぐ。マルスさんとヴィーナスさんはそれを必死に避けていく。
「くそったれが。これじゃあ反撃できない」
「何とか動きを止めないと」
「なら、俺に任せろ!」
準備していたのは艦長だ。主砲の充填はすでに完了している。
「人間を舐めるなよ、太陽神。こっちには優秀なメカニックがいるんだぜ」
「妖精ロボ子がチューニングを済ませました」
威力と精度の上がった主砲は太陽の熱の影響もあまり受けない。照準を合わせるとアポロンに向けて砲撃を開始する。だが、それは簡単に回避されてしまう。やっぱり速すぎる。
「無駄だ。そんな攻撃が通用すると思うか!」
「思わないさ。だからこれは陽動だ!」
マルスさんの振るう武器に火星の力が収束する。そして、主砲の力を打ち返した。再びアポロンに向かって飛んでいく。だが、その攻撃も避けられてしまった。
「ちぃ、まだ駄目か」
「マルス、あなただけじゃないわよ」
今度はヴィーナスさんの攻撃だ。彼女の手には光の剣がある。それを頭上へと掲げると宇宙に光のカーテンが現れ、アポロンの周囲を囲んだ。主砲のエネルギーが光のカーテンによって乱反射する。さすがにこれはかわせずにアポロン・ダイ・フェニックスにダメージを与えていく。
「ぐおおぉー! なんだ、その力は!?」
「太陽神が聞いて呆れるわね。こんなものなの? もっと全力で来なさいよ」
「黙れ、たかが小者の分際で。こんな物で私がやられるはずがないだろう」
フェニックスの胴体から炎が膨れ上がり、わずかに付けたダメージが回復していった。
「乱反射させた分、威力が落ちたようだな。当たればいいというわけではないぞ」
「まずいわね。このままじゃジリ貧だわ」
「何か手は無いのか?」
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