第18話 太陽の戦い

 わたし達の戦艦は太陽に近づく。太陽は宇宙の星々を照らすために自ら光り輝いている。こんなにも巨大な存在なのに太陽はまるで自分の一部のように思えた。


「私達は太陽の光に育まれて育ってきたものね」

「この艦に太陽の力が加われば無敵だ!」


 艦長の言葉には強い意志が込められているように感じた。


「そうね、この艦の力を最大限引き出せるのは太陽だけよ」

「そうだな。それにしても暑いな」

「エアコンのスイッチ切ってるんですか?」

「いや、入れてる。最大限にな。それだけ太陽の熱が凄いという事だ」

「ああ、暑い~~~」


 マリナちゃんがまたとろけそうになっている。すると彼女の持っている海神の鉾が青く輝いた。水の力で空気が冷えていく。


「おお、凄い。これがポセイドンさんの力」

「そうよ。もっと感謝しなさいよね」

「使えるならもっと早くやってくれればいいのに」

「あたしだってあまり使い方を知らないのよ」


 役に立つのか立たないのか。緩みかける空気をすぐに緊迫した声がかき消す。


「艦長、太陽からの攻撃がこちらに向かってきます。迎撃準備を」

「よし、全員配置についてくれ」


 太陽から無数の赤い光線が放たれ、わたし達の艦に降り注ぐ。激しい爆発音が響き渡り、艦が激しく揺れ動いた。


「被害状況を確認しろ」

「艦首装甲板が損傷。シールド発生装置の一部が破損しました」

「大丈夫なのか?」

「はい、まだなんとか。しかし、攻撃の勢いが増しています。このままでは持ちこたえられません」

「どうする、艦長? アポロンの奴め、このまま太陽にこもって攻撃を続けるつもりだぞ」

「太陽が弱まるまで待つしかないか。だが、そんな時が訪れるのか?」


 太陽はずっと宇宙の星々を照らしてきた恒星だ。そのエネルギーが途切れる時なんて宇宙が終わる時ではないだろうか。

 太陽からの攻撃が激しさを増す。ここに太陽がある限り、相手のエネルギーは無限。まさにアポロンのホームグラウンドでわたし達は戦わされているのだ。


「太陽を冷やせばいいんじゃなかったの?」

「無理だ。たとえ水星からでも太陽までは遠すぎて水が届かない。届かせたとしても太陽の熱で一瞬で蒸発されるだろう。太陽の温度が大きすぎて冷却できないんだ」

「そっか……どうすれば……」

「ルナ、あれはなんだ? 何か太陽に近づいていくぞ」


 マルスさんの指差す先には真っ白な雲があった。それもただの雲じゃない。綿菓子のようなふわっふわの塊で空に浮かんでいるのだ。


「雲? いえ、あれはわたあめ君です!」

「え、わたあめ君!?」


 わたし達の前に現れたのはわたあめ君の群れだった。しかもかなりの数がいる。


「ルナさん、これはどういう事なんですか?」

「わからないわ。戦艦のAIが生み出したんだろうけど、わたあめ君は私達に力を貸してくれるみたいね」

「それは助かるけど、あんなに沢山でどうするんですか?」

「うーん、それは分からないけど成り行きを見守りましょう」


 AIが生み出したわたあめ君にはまだまだ謎が多い。だが、何か意味があって呼びだされたはずだ。わたし達は見守る事にする。

 わたあめ君が一斉にわたパチを発射した。わたパチは太陽の表面にぶつかるとわたあめになって溶けていく。そしてわたあめになった部分がわたあめ君になりわたあめ君が増えていく。わたあめ君達はどんどんわたパチを放ち続けた。


「艦長、太陽の表面の温度が低下していきます」

「そういえば、さっきから暑くないな」

「もうポセイドン様の冷却の力も必要ないみたい」

「まさか、わたあめ君が太陽を冷ましているんですか?」

「そうかもしれません。あのわたあめの量なら太陽全体を冷やせるはず」

「すごい、わたあめ君。わたし達の味方をしてくれるのね」

「ありがとう、わたあめ君。私達はあなた達に助けてもらった恩がある。今度は私達があなた達を助ける番ね」


 わたあめ君は次々と太陽にぶつかっていく。その数は増える一方だ。太陽はだんだん冷えていった。


「やった! これで勝てる」

「まだよ、油断しないで」

「艦長、未確認の艦隊が出現。高エネルギー反応あり。太陽に向けて発射されます」

「なに!?」


 太陽に放たれたビームはわたあめ君に直撃した。わたあめ君は一気に消滅する。


「なんだあの戦艦は!? アポロンが潜ませていたのか!?」

「いえ、違うわ。あれは地球のAI艦隊よ。私達の邪魔をしに来たんだわ」

「まずい、このままじゃ太陽の温度が戻ってしまう」

「艦長、太陽表面の温度が上昇しています」

「まずいわね。わたあめ君を呼び戻して」


 わたあめ君を呼んでも返事が無い。その数はどんどん減っていく。


「くそっ、あの艦隊を撃ち落とせ! 攻撃を止めさせるんだ!」

「無理です! ここで回頭すれば太陽と挟み撃ちにされます!」

「くっそ」

「あたしが出るよ!」


 ちづるちゃんが魔法少女に変身して宇宙に出る。だが、彼女の魔法のバリアでは全ての攻撃は防げずにわたあめ君は数を減らしていく。

 彼女のバリアで対処するには艦隊は数が多いし、太陽も広すぎる。


「この! あたしはここよ! どうしてこっちに撃ってこないの!?」


 AI艦隊はわたあめ君しか標的にしていなかった。ちづるちゃんでは脅威にはならないと判断しているのだろう。

 そして、ついに最後の一体となったわたあめ君から通信が入った。


「うぅ……ごめんなさい。僕達の力ではここまでみたいです……」

「わたあめ君……どうしてなの? どうして一人で突っ込んで……」

「太陽の熱に耐えられなかったんです……。僕は太陽を冷やす為に作られた存在だから、どのみちこの役目が終われば消える運命だったんですよ。それが少し早まっただけですから気にしないでください」

「そんなの嫌だよ。せっかく会えたのに、またお別れなんて絶対に嫌!」


 ちづるちゃんは魔法を放つが、それはもうわたあめ君を元気にする事はできない。


「ちづるさん……泣かないで下さい。あなたは泣いている顔よりも笑っている方が素敵ですよ」

「でも……」

「みんなに出会えてよかった。短い間でしたが楽しかったです。本当にありがとうございます」

「ああ、ここまでの戦いに感謝する」

「あなたの事は忘れないわ。後の事は任せて」

「あたしも楽しかった。こちらこそありがとう」

「艦長、ルナさん、ちづるちゃん……ありがとう。それに花子さんも」

「うん……」

「太陽の温度は今なら少しは弱まっているはずです。再び戻る前に……あなた達の勝利を願っています」


 わたあめ君は最後にふわっと笑うと消えてしまった。


「うっぐ、ひっく」

「ちづるちゃん、今は戦いに集中しましょう。わたあめ君の犠牲を無駄にしないためにも」

「わかってるよぉ。こんなところで負けたらわたあめ君に怒られちゃうもんね」

「そうだな、あいつらの仇を取るぞ」

「はい、必ず勝ちましょう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る