第17話 太陽へ

 わたし達の戦艦は水星を出発して、宇宙の旅を続けていく。

 太陽が近づいてきて、艦内の温度が上がってきた。


「暑い……」


 うだるような暑さに一番に悲鳴を上げたのはずっと水の星で暮らしてきたマリナちゃんだった。彼女は「暑い、暑い」と言いながら寝室のベッドに倒れ込んだ。

 わたしは同じ雑用係を務める者として見ていられなくなって言った。


「艦長、なんとかしてください」

「ああ、わかったよ」


 艦長はエアコンの設定温度を下げる。すると、涼しくなってきた。


「ああ、涼しい。人間もやればできるじゃない」

「もっと早くやってくれればよかったのに」

「決戦を前にしてあまりエネルギーの無駄遣いはしたくなかったんだ」


 艦長の見る先にはいよいよ近づいてきた目的地、太陽がある。わたしは改めて確認しておくことにした。


「太陽に着いたらこの艦を太陽のエネルギーで覚醒させるんですよね?」

「ああ、そうだ。太陽の力は強大だ。この艦の真の力を引き出すにはあれぐらいの力が必要だ。そして、太陽の光を浴びてパワーアップした戦艦で地球のAIに決戦を挑む」

「勝算はあるんですか?」

「あるとも。ここまでついてきてくれた皆がいるのだ。どんな敵だって倒せると俺は信じているよ」


 艦長の言葉にわたしの不安も晴れていくようだった。


「この旅もいよいよ終盤ですね。あと一息がんばりましょう」

「ああ、もちろんだとも」

「ふぁ~。眠いわ。太陽に着いたら起こしてね」


 マリナちゃんはそう言ってベッドに潜り込むとすぐに寝入ってしまった。

 艦長は彼女の無防備さに呆れたようにため息を吐いた。


「やれやれ、エアコン切ろうかな」

「艦長、かわいそうだからそれは止めてあげてください」


 わたし達は決戦に向けて英気を養う事にした。

 しばらくは平穏な時間が続いた。




 太陽が目の前に迫る。艦内は慌ただしくなり始めた。太陽の熱を遮断するために窓にシャッターが降り、空調装置からは冷風が出るようになった。


「これで大丈夫なのかしら?」

「さて、どうだろうな」


 ルナさんと艦長はそんな事を言い合っていた。わたしは二人の後ろについて歩き回るだけで雑用係としての仕事しかできない。

 専門的な技術や知識があればもっと手伝える事もあるだろうに。それが少し悔しいと思った。


「わたしに何かできる事はありませんか?」

「いや、ないよ。じきにアポロンが仕掛けてくるはずだ。今は備えていてくれればいい」

「アポロン……太陽の神様か。おとなしく太陽のエネルギーを分けてくれないかなあ」

「そうはいかないようだな。太陽の活動が活発になってきている。太陽神は俺達が近づくのがお気に召さないらしい」


(アポロンってどんな神様なんだろう? 人間を好きなってくれないのかな)


 その疑問を口に出す前にマリナちゃんが答えてくれた。


「太陽神アポロンは、水星が水の星になった元凶よ。ポセイドン様によれば、かつて宇宙を支配しようと企んでいた神で、最後はゼウス様に倒されたとか何とか」

「え? アポロンさんって宇宙を支配しようとしたんですか?」

「そうよ。中心である太陽を治める自分こそが宇宙の支配者だと主張してね。もちろんそんな事を他の神々が許すはずがない。ポセイドン様もお怒りになって太陽に近かった水星は水に沈んだのよ」

「へえー。知らなかったです」

「海の神がなぜ水星も治めているのか。そういういきさつもあったのだな」


 艦長が感心した様子で言う。


「でも、それならどうして太陽を支配したままにさせているんですか? ポセイドンさんやゼウス様ほどの力があるのなら太陽なんて簡単に支配できそうな気がしますけど」

「それは神々の得意分野の問題よ。太陽はまさにアポロンのホームグラウンド。あそこにいる限りポセイドン様でもうかつに手は出せないわ。太陽が乱れれば惑星全体が弾ける可能性もあるしね」

「強すぎる力も使うのが難しいんですね。じゃあ、無力な人間のわたし達は太陽をどう攻めればいいんでしょう。ポセイドンさんでも難しいのに」

「それをこれから考えるのさ」

「私達がついてるわ」

「艦長、ルナさん」

「魔法なら任せて。冷やす事だって出来るんだから」

「妖精ロボ子のAIにお任せ」

「ちづるちゃん、妖精ロボ子」

「俺の事を忘れてるんじゃないか」

「今度こそ神と喧嘩できるなんて腕が鳴るじゃないか」

「わたしのゲーム、あなた達に賭けるわ」

「わたあめ君にマルスさん、ヴィーナスさんも」


 そうだ、何をくよくよしてたんだろう。ここにはこんなにも強い仲間達がいるのに。


「ポセイドン様が味方してくださっているんだから負けないわよ」

「ありがとう、マリナちゃん」

「艦長! 太陽の支配圏に入りました。至急ブリッジにお戻りください」


 通信士のステラさんから連絡が入る。いよいよ来たか。わたし達は決戦に挑むのだった。

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