第13話 わたあめ君と魔法の杖

 ある日、わたしは再びわたあめ君と一緒に出撃していた。敵は現れていないがパトロールと訓練の為だ。

 わたしもスキル『収納』だけに頼っていられない。雑用係として戦闘機の操縦にも慣れていかなければ。


「ねえ、わたあめ君。今日は何をするのかな?」

「うむ……、今日は何もなさそうだな」


 わたあめ君が宇宙を見上げる。そこには星空が広がっていた。


「何もないと暇ですね……」

「まあ、そう言うな。こういう時こそしっかり仕事をしないと駄目なんだ」


 わたあめ君が真面目な事を言っている。わたしは少し感動してしまった。わたあめ君が成長しているような気がする。


「わたあめ君、成長したね。前はそんな事言わなかったのに」

「おい、俺をバカにしているのか? 俺はいつも真面目だろうが!」


 わたあめ君が怒る。わたあめ君が成長するなんて、きっとみんなとの触れ合いがわたあめ君を成長させたに違いない。


「えっと、確かわたあめ君って戦艦のAIから生み出されたんですよね?」

「何の話だ?」

「えっと、わたあめ君の話ですけどルナさんがそう言っていたので……」

「ああ、そういう意味か。そうだぞ。俺は戦艦のAIから生まれた。それが何か?」

「いえ、わたあめ君みたいな存在がいるなら、他の戦艦でも同じような子が生まれるかもしれないなと思って……」

「それはないと思うが。この戦艦は特別製だからな」

「はい、ルナさんの星のもう滅んだ文明の遺産なんですよね」

「その通りだ。アガルタはもう滅んだ。だからこうした特別な戦艦がまだ生き残ってでもいない限りは俺のような存在は生まれないだろう」

「へぇ~、そうなんですかぁ……。それにしても何も現れませんね」

「あんな怪獣みたいな奴が宇宙に何匹も現れても困るだろう。そろそろ帰投するか」


 わたあめ君は旋回して母艦へと戻っていく。わたあめ君は相変わらず雲の姿のままだ。わたあめ君には戦闘機や宇宙服は必要ないらしい。わたしも自由に宇宙が飛べればもっと楽になるんだけど。


「わたあめ君、空を飛ぶ魔法とかありませんか?」

「あるわけがない。お前は魔法使いじゃないんだろう」

「はい、スキル『収納』だけは使えるんですけどたいして役に立たない雑用係のスキルでして。せめてちづるちゃんみたいに変身できればいいのですが……」

「魔法少女になりたいという訳か。悪いが無理だと思うぞ」

「やっぱり無理ですかねぇ」

「いや、可能性はあるかもしれない。ちょっと待っていてくれ」


 わたあめ君は雲になって艦内に消える。しばらくしてわたあめ君は戻ってきた。


「これをやるから試してみると良い。うまくいけば空を飛べるようになるはずだ」


 わたあめ君は小さな玉を渡してくる。これはなんだろうか? わたしはわたあめ君から渡された物をじっと見つめた。


「これは一体何なのですか?」

「見ての通り魔法の杖だ。これを使えばどんなものでも魔法を使う事が出来る」

「ほ、本当ですか!? 何でこんな物があの戦艦に」

「みんな気づいていないようだが、あの戦艦には結構いろんな物が眠っているぞ」

「さすが失われた文明の戦艦……」

「ただし気をつけないといけない事がある。魔法少女の素質が無い者がそれを使うと暴発する恐れがある」

「暴発ですか……」

「それにこの魔法の杖は使う度に使用者の魔力を吸い取るのだ。長時間使い続けると魔力切れを起こして倒れてしまう。まあ、死ぬことはないが、かなりの苦痛を伴うので注意してくれ」

「うわっ! なんか怖いですね」

「なら滅多な事では使わないことだな。いざとなったら俺が守ってやろう」

「よろしくお願いします」


 わたあめ君の言葉を聞いてわたしも安心した。

 わたあめ君は優しいな。わたあめ君がいれば安心だ。

 わたあめ君と一緒にわたしも艦内に戻る。わたあめ君から貰った魔法の杖を大事に抱えてわたしは自分の部屋に戻った。


「さて、どうしようかな……」


 わたあめ君から貰った魔法の杖を見つめながら考える。わたあめ君が言うように、わたあめ君から貰ったこの杖が本当にすごい物だったとしたら、わたしの願いが叶うのかもしれない。だが、もしも失敗すればとんでもない事になる可能性もある。


「う~ん……」


 わたしは腕を組んで考え込んだ。


「なあ、何を悩んでいるんだ?」


 艦長が部屋に来て声をかけてくる。


「えっと、わたあめ君からもらった魔法の杖の事なんですけど」


 わたしはわたあめ君から貰った魔法の杖を見せた。


「なんだそれは? 変わった形をしているが……、おもちゃかなにかか?」

「わたあめ君に貰ったんですよ。なんでも魔法の杖だそうです」

「魔法の杖か……魔法の事なら俺よりもちづるの方が詳しいだろうな。彼女は魔法少女だからな」

「そういえばそうですね。じゃあ、ちづるちゃんに相談してみます」

「そうするといい」


 わたしは魔法の杖を小さな玉の形に戻してポケットに入れて、ちづるちゃんの部屋に向かった。




「それであたしに相談に来たの?」

「うん、わたあめ君からこの杖を貰って、使い方がわからないんだけど……」


 わたしはわたあめ君のくれた魔法の杖を取り出して見せた。


「えっと、これは何かしら? 初めて見るタイプのアイテムだね」

「戦艦に眠ってたってわたあめ君は言ってたけど……」

「ふ~ん、そうなんだ……。ところでこの杖ってどうやって使うの?」

「それがよく分からないんだよ。わたあめ君も使ったことがないらしくて、わたあめ君は『魔法少女の適性があれば使える』って言っていたよ。無ければ暴発する可能性があるんだって。だからうかつに使えなくてこうして相談に」

「そう……。でもこの杖があれば宇宙を飛べるようになるのよね?」

「わたあめ君はそう言っていた」

「宇宙を飛ぶ魔法かぁ~、ちょっと憧れるよね。あたしもちょっとぐらいなら飛べるけど宇宙船ほどには飛べないしどんな景色が見えるのかなって思うもん」

「そうだね。わたあめ君も空を飛んでみたいと言っていたし……」

「空を自由に飛び回るか。いいなー。わたあめ君は魔法少女に変身しなくても飛び回れていいなー」

「ちづるちゃんは魔法少女になったらすぐに空を飛び回れるようになったの?」

「どうなんでしょう。まだ小さかったからその時の事はもう余り覚えてないけど、そういう事になるかも。魔法少女になると身体能力が上がって普通の人間より強くなったり、空を飛べるようになったりするらしいの」

「へぇ~」

「あと変身している間は、意識的に空を飛ぼうとしなくても体が勝手に飛んでくれるようになるの。不思議だよね」

「それは便利だね」

「でしょ?」

「わたあめ君も魔法が使えるようになれば今よりもっと自由になれると思うんだけど……」

「あの子ならきっと大丈夫だよ。わたあめ君は特別製だって話だし」

「わたあめ君が特別な存在なのはわたあめ君自身からも聞いたよ。わたあめ君から貰ったこの杖は本当に凄い物なのかな?」


 わたしはわたあめ君から貰った魔法の杖をじっと見つめた。

 わたあめ君から貰った魔法の杖は本当にすごい物なのだろうか? わたあめ君の話だと、この魔法の杖を使えばどんなものでも魔法を使う事が出来るという事だったが、その効果は本当なのだろうか?


「ねえ、ちづるちゃんはこの杖を使えばどんな魔法が使えると思う?」

「うーん、空を飛ぶのはもちろんだけど、他にもいろいろあると思うよ。例えば武器と合体させて剣や槍とかにして攻撃に使うこともできるし、盾と合体させれば防御にも使えるし、防具と合体すれば鎧になったりするんじゃないのかな? それと後は回復系の効果もあるんじゃないかな? 怪我をした時の回復薬みたいな感じで」

「なるほど……」


 わたあめ君が言っていた通り、わたあめ君がくれた魔法の杖は色々な効果があるようだ。


「ありがとう、ちづるちゃん。勉強になった」

「役に立てたなら良かった。それにしても不思議な形の杖だね」

「わたあめ君もそう言っていた」

「まあ、わたあめ君が言うなら間違いないだろうけど、でも本当に凄い杖ならあたしも欲しいな」

「わたあめ君が言うにはこの戦艦にはこうした物がいろいろ眠っているらしいけど」

「失われた文明の遺産か。ありそうだけどルナお姉ちゃんはきっとこうした物を使うのは嫌がるだろうね」

「確かに……これも戦艦と一緒に戦いが終わったら眠らせる事になるのかな」

「でも、もし本当にすごい杖だったら……あたしがこっそり貰っちゃおうかな……」

「えっ!?」

「冗談だよ、冗談。そんな変な顔しないでよ。あはは」

「ちづるちゃんが冗談を言うなんて……」


 そうして話し合っている時だった。艦内放送があってみんなブリッジに集まるようにと連絡があった。


「何があったんだろうね」

「行ってみよう」


 ちづるちゃんはすぐ真面目な顔になる。こういうところは見習わないとなと思いながらわたしもブリッジへと急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る