第12話 金星の女神
「ここが娯楽室で……あれ?」
艦長はドアを開けるとすぐに不思議そうな声を出した。わたしも覗いてみる。室内に誰もいないのだ。無人である。
「誰もいないわね」
「おかしいですね……。この時間はいつも誰かがいるのですが……」
「あら、本当ね。お姉ちゃん、どうしよう」
「うーん、とりあえず遊びましょうか」
「お姉ちゃん……」
ちづるちゃんが呆れた顔をする。ルナさんは何も気にせず遊具を手に取る。その時、わたしの横でマルスさんが動いた。
「茶番はそれぐらいにしようぜ、女神様」
「女神様!?」
わたしは驚いてルナさんを見る。ルナさんは困ったように笑ってその姿を変えた。そこにいたのは金髪の美しい女神。
「もうネタばらしが早いわよ、マルス君」
「お前もこの艦に来ていたとはな、ヴィーナス」
「ヴィーナス!?」
するとこの人が金星の女神というわけか。
「人間と会うのも久しぶりね」
「おい、何でお前がここにいるんだよ」
「もちろん、遊びに来たのよ。それと神の領域に踏み込もうとする人間達の顔を見にね。あ、いなくなった人達ならきちんとベッドに寝かせてあるから安心して」
「神の領域だと? どういう意味だ?」
「そのままの意味よ。あ、この暗闇で見えなかったのね」
ヴィーナスさんが指を鳴らすと天から光が降り注いで宇宙船を取り巻いていた暗闇が消え去った。窓の外に宇宙の星空が戻ってくる。それに前方に見えるのは、
「あの暗闇が結局何だったのか気になるけど、あれが金星なんですね」
「そうよ。綺麗でしょう?」
「はい!」
思わず返事をする。確かにとても綺麗だ。素直な返事にヴィーナスさんは微笑んだ。
「ところで、マルス。どうしてあなたはこの船にいるの? もうとっくに火星は過ぎたでしょ」
「ほっとけ。俺は俺で考えがあるんだよ。こいつらは地球を救おうとしている。だったら同じ太陽系に住む者として協力するのが筋ってもんじゃねぇのか」
「あなたの考えは立派だけど、それで何をするつもりなの?」
「決まってるだろ。俺も一緒に戦うって言ってるんだ」
「……へぇ、そういう事なの。あなた、自分が何を言っているのか分かっているの?」
「ああ、分かってるつもりだ」
「ふーん。ならここはあなたに任せてよさそうね」
「なに?」
マルスさんが怪訝そうに問うた時だ。突然艦内に警報が鳴り響いた。通信が入ってくる。
「艦長! すぐにブリッジに戻ってください! 本艦は怪獣の攻撃を受けています!」
「怪獣!?」
見ると金星から怪獣が飛び立ってきて戦艦にビーム攻撃を放ってきた。ヴィーナスさんは困ったように肩をすくめて言った。
「実は最近金星に怪獣が住み着いてね。その警告もしようと思ってきたんだけど。マルスが戦ってくれるならもう大丈夫ね。私は遊んでるから頑張ってね」
「ちょ、おま、ふざけんな!」
「ブリッジに戻るぞ!」
戦闘態勢だ。わたし達は艦長の後に続いてブリッジに戻った。
「状況は?」
「怪獣が三体。現在、交戦中」
艦長の問い掛けにオペレーターが答える。ちづるちゃんが首を傾げた。
「え、でもさっきの人……じゃなくて女神様の話だと金星にモンスターが住み着いているって言っていたよね。それなのにどうして宇宙の戦艦に噛みついてきたんだろう?」
「おそらくはヴィーナスが誘いだしてきたんだろうな。最初から俺達を戦わせるつもりだったんだ」
「そんな……」
わたしが絶句しているとルナさんが呟く。
「それだけじゃないわ。この艦にはモンスターを呼び寄せる力がある」
「あ、ルナさん無事だったんですね」
「ええ、ぐっすり寝ちゃってたけどこの騒ぎで起きたわ。ねえ、たかし……。私、何か悪い事したかなぁ……」
「いや、それは別に今回の事とは関係ないと思うぞ」
「お姉ちゃん美人だからきっとヴィーナスさんはお姉ちゃんを選んだんだよ。悪いのは全部お兄ちゃんだよ」
「そうか……俺が悪かったのか」
艦長がしょんぼりとする。そして、ため息をつくと言った。
「とにかく今は目の前の敵に集中しよう。みんな、出撃してくれ」
「はい!」
こうしてわたし達の宇宙戦争が始まった。
まずはマルスさんが飛び出していく。続いてわたあめ君とわたしが出撃した。
「よっしゃあ、行くぜ!」
マルスさんは怪獣に向かって突進していく。しかし、怪獣は素早く動いて攻撃をかわす。
「ちぃ、ちょこまか動き回りやがって!」
「どうするの? マルス君」
「こうなったら奴の動きを止めるしかないな」
「どうやって止めるの?」
「そりゃ、お前と一緒にいる奴が止めるんじゃねえの?」
「わたあめ君?」
そう言えばこのわたあめ君って何なんだろうか。戦艦のAIが生み出した新キャラだろうか。
「よし、いくよ、わたあめ君」
とにかく仕事仲間なら一緒に戦ってもらおう。わたしだって雑用をやっているのだ。
「ワタシハ、ロボットデハナイノデスガネ」
「いいから早くあいつの動きを止めて」
「ハイハイ、ワカリマシタヨ」
わたあめ君は巨大化する。わたあめ君の足下に巨大な雲が出来上がる。
「雲に捕まって!」
わたあめ君の言う通りわたしは雲に飛び乗る。するとわたあめ君は空高く上昇して怪獣の真上まで移動する。
「今だ!」
「はいっ!」
わたあめ君は足を畳み、急降下を開始した。怪獣もそれに気付いて反応しようとする。だが、遅かった。わたあめ君は両足で怪獣を捕らえたのだ。
「うおおおぉ!」
怪獣は地面に叩きつけられ、わたあめ君はそのまま着地。怪獣を地面と挟むようにして押し潰した。
「やった! わたあめ君凄いよ」
「イエ、ソレホドデモアリマセン」
「謙遜しないの」
わたしは怪獣に目を向ける。怪獣は苦しそうにもがくも抜け出す事が出来ないでいた。そこへマルスさんがやってきた。
「お前ら強いな。これなら俺が出る必要はなかったな?」
「いえいえ、マルスさんも戦ってくださいよ。怪獣はまだ二体いるんですよ」
「そうだな。じゃあ、火星の神の戦いというのを見せてやるか」
マルスさんが両手を構える。手の間に光が集束されていき、やがて一本の光の槍となる。
「喰らえ! 神の一撃を!」
マルスさんが光を放つ。怪獣は一瞬にして蒸発してしまった。
「すごい……」
わたしが驚いているとヴィーナスさんから通信が入ってきた。
「戦いは順調のようね」
「はい、思ったより楽勝でしたね。後一体倒せば終了です」
「でも、気を付けてね。怪獣は最後の一体になるとパワーアップするから。三体同時に倒せればいいんだけど」
「ええ!?」
見ると怪獣の首が三本になって巨大で獰猛になっていた。まるで仲間の怨念を吸収したかのように。
「そんな事は早く言ってくださいよ!」
わたしは何とか戦闘機のハンドルを回して怪獣のビーム攻撃を回避する。わたあめ君は雲に乗って回避行動を取った。
「あの怪獣、三体以上の力を持っていそうな勢いだぞ……」
マルスさんが苦笑いを浮かべる。彼の槍も合体した怪獣には通用しなかった。
「これは俺達が勝つのは難しいかもな……」
「そんな……」
わたしは思わず弱音を吐きそうになる。その時、ちづるちゃんの声が聞こえてきた。
「諦めないで! みんな!」
「え?」
見ると戦艦の上に魔法少女となったちづるちゃんが立っていた。
「みんなはあたし達の希望。魔法少女が道を切り開く!」
ちづるちゃんが叫ぶ。その声に彼女の魔法の杖が答えた。
「ミラクル・マジカル・ドッキング!」
「えっ? ちょっと待って、そんなの聞いていないぞ!」
艦長の慌てる声が響く。
「みんなの力で戦うんだもん!」
「やれやれ仕方ないですな。それじゃあいくか!」
わたあめ君が巨大化してわたし達を乗せる。そして怪獣に向かって突撃していった。
「うおぉぉぉぉ!」
わたあめ君は怪獣の顔面に張り付く。怪獣は激しく暴れるがわたあめ君を振りほどけない。わたあめ君の口からわたあめが発射される。わたあめは怪獣の体内に侵入していく。
「よし、いけ!」
わたあめ君が離れると怪獣の身体が発光し始めた。わたあめが怪獣のエネルギーを吸い取っているのだ。
「今のうちにとどめをさすのよ!」
娯楽室で遊んでいるヴィーナスさんが通信で指示を出す。わたあめ君が怪獣から離れるとわたあめ君は雲となって消えた。わたあめ君が消えても怪獣は輝き続ける。
「これで最後だよ!」
わたあめ君が再び現れる。わたあめ君が怪獣に触れると怪獣の体内からわたあめが飛び出して爆発を起こした。わたあめ君はわたあめ爆弾になったようだ。
「やったー!」
わたあめ君の勝利に大喜びするわたし。わたあめ君は雲の姿のままゆっくりと地上に降りる。わたあめ君の背中の上でわたあめ君とわたしはハイタッチをした。
「よっしゃあ! 勝利だぜ!」
わたあめ君が大声で叫ぶ。わたしは拍手した。
「やったね! わたあめ君!」
「さすがね、私が遊んでいるだけで終わってしまったわ」
ヴィーナスさんも喜んでくれて、ちづるちゃんもほっと息を吐いて変身を解いて艦内に戻っていく。
安心したのは艦長も同じだ。ブリッジの椅子に座って居住まいを正していた。
「一時はどうなるかと思ったが、なんとか戦艦の力を使わずに勝つ事が出来たな。わたあめ君か……」
「どうかされたのですか、艦長」
「いや、なんでもないよ。この調子で太陽までの旅も成功させよう」
「はい、頑張りましょう」
こうしてわたし達は金星の怪獣を倒して宇宙平和を守ったのだった。だが、わたし達の旅はまだ続いていく。
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