第5話 トランプで勝負
続いていた戦闘が終わりしばらく平穏な日々が続いた。旅は長い。わたし達はここで休息を取る事にした。
とは言っても宇宙を飛ぶ戦艦の中だ。地球のように公園や遊園地があるわけでもない。さて、何をやって時間を潰そうか。
「ねえ、みんなでトランプしない?」
ちづるちゃんが提案した。
「トランプですか?」
「うん、暇だし。それに楽しいよ」
「良いですね! やりましょう!」
妖精ロボ子が賛成した。
「そうね。たまにはそういうのも良いかもね」
わたし達も賛同した。
「じゃあ決まりだね!!」
ちづるちゃんがそう言うと、どこから持ってきたのか大量のカードを取り出した。
「いつの間に……」
「ふふん、実は持ってきてたんだ」
ちづるちゃんが得意げな顔で言った。まるで先生に黙って玩具を持ってきた修学旅行生のようである。
わたしはちょっと懐かしい気分になった。
「それで何やる?」
「ババ抜きとかどうでしょうか?」
妖精ロボ子が提案する。
「うーん……、まあいいか」
「よし、それじゃあやろうか」
少しシンプルすぎるかもしれないが、息抜きの遊びにはこれぐらいがいいのかもしれない。わたし達は早速ババ抜きを始めた。
「あがりました」
一番最初に上がったのは妖精ロボ子だった。さすがはAIを搭載したアンドロイド。計算が早いのだろうか。
「また妖精さんの勝ちだね……」
ちづるちゃんが残念そうな声を出す。
「これで3連勝ね」
「妖精さん強いね」
「いやぁそれほどでも」
妖精ロボ子が頭をかく。
「まさか、自分が勝てる勝負を選んだんじゃ……」
「まさか、ババ抜きに裏技なんてありませんよ」
「それを言うならカードを用意したちづるちゃんの方が有利じゃない?」
「そうだね、うーん……続けるか」
「次は誰があがるかな?」
「次こそは負けないわよ」
わたしたちの戦いはまだ始まったばかりだ!!
「ここからは本気を出すか」
ちづるちゃんは魔法少女に変身した。
「あ、魔法を使おうなんて汚い!」
「お姉ちゃんだってスキルを使えるでしょ」
そう、わたしだってスキル『収納』が使える。だが、それがトランプで何の役に立つのだろうか。
「では、いきますよ」
妖精ロボ子はカードをシャッフルする。そして、みんなの前にカードを配った。
「ワタシが先行でよろしいですか?」
「え? ああ、別にいいけど」
「それでは始めましょうか」
妖精ロボ子が一枚引く。だが、すぐに表情が曇った。
「上がりです」
「早っ!?」
「え? ババ抜きってそういう遊びだった?」
「上がりは上がりです。AIがそう判断しました」
妖精ロボ子はあっさりとあがってしまった。その手にはジョーカーを持っている。
「あれ? ジョーカーだけど?」
「ジョーカーが二枚揃った時、勝利を宣言する事ができるのです」
「ババ抜きはそんな勝負じゃなーーーい!」
「でも、AIが」
「ここは人間のルールに従ってもらいます」
やり直しとなって勝負が再開された。そして、みんな残りわずかとなった。決着の時は近い。
「さあ、次を引きなさい、ちづるちゃん。今日のラッキーカードは右ですよ」
「くっ、ここは……こいつで!」
ちづるちゃんが恐る恐るカードを引く。すると彼女は目を見開いた。
「やった!!」
彼女は1枚のカードを手に取る。そのカードはスペードのエースだった。それが二枚揃っていた。
「あがりです!!」
「ええええええ!!!?」
ちづるちゃんはあがってしまう。
「嘘……」
「まさかここまでとは……」
わたしもびっくりしてしまった。まさか妖精ロボ子以外の次の勝利者がちづるちゃんになるとは。
「くっ、わたしの雑用係としての威厳が」
「えへへ、魔法の力を見たか!!」
ちづるちゃんは得意げに胸を張る。
「今の魔法かよ!!」
わたしは思わず突っ込んでしまった。
「違うよ~、感覚をちょっと鋭くしただけ。透視とかはしてないから」
「やろうと思えば透視もできるのか……」
魔法の事はよく知らないのでどこからがズルになるのかよく分からない。とにかく真剣に勝負を挑まねばならない。
わたしだってスキルが使えるのだ。使いどころが分からないけど。
それからも勝負は続いたが、結局妖精ロボ子が一番勝った。今も有利に勝負を進めている。
「ふう……、なかなかやりますね」
「こっちもギリギリだよ……」
ちづるちゃんは疲れているようだ。いろんなゲームをやって、今は純粋にカードの強さが勝負を決するカードバトルをしている。
トランプでもこうした遊びはできるのだ。一番負けているわたしが提案した。雑用係の間で流行っていたゲームだ。
なのにわたしが一番負けているのはどうした事だろう。
「それじゃあラストバトルです」
妖精ロボ子はカードを引く。
「ええと、これですね」
彼女が引いたカードを見てわたしは驚いた。それはハートのクイーンだからだ。
「これはまずいですよ」
妖精ロボ子はニヤリと笑みを浮かべる。
「どうやら運に見放されたようね」
わたしはちづるちゃんを見る。彼女もまた苦笑いをしていた。
「くそぅ……、仕方がない……」
ちづるちゃんは覚悟を決めた顔をしている。
「いくぞ!!」
ちづるちゃんは勢いよくカードを引いた。
「え、ちょっと待ってください」
しかし、妖精ロボ子は焦っている様子だった。
「どうしたの?」
「このカード、ダイヤのキングなんですが……」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
「よし、ここでわたしのスキル『収納』だ!!」
わたしはダイヤのキングを吸い込んだ。
「ふぅ……、危なかったわ」
「ずるいよお姉ちゃん!」
ちづるちゃんが頬を膨らませる。
「いや、つい癖でさ」
「まったくもう……。でもこれでワタシの勝ちですね。ダイヤのキングが無くなった今、ハートのクイーンの勝ちは揺るぎません」
「いえ、まだ分かりませんよ。収納した物は出す事も出来るからね」
わたしの手にはダイヤのキングがある。
「確かにそうだね……」
ちづるちゃんが考え込む。
「では、別のゲームをやりましょうか」
「あれ? 何事も無かったようにスルー?」
「それを引いたのは花子さんではないでしょう」
「それを勝ちとは認められないよ」
「くっそ、甘くはないか」
妖精ロボ子がカードをシャッフルし始めた。
「あ、そういえば」
「なに?」
「ジョーカーがありますね」
妖精ロボ子がカードの中から1枚のカードをつまむ。
「ジョーカーゲームをやりますか」
「ジョーカーゲーム?」
「みんなで一斉にカードを引いてジョーカーを持ったら負けという至ってシンプルなゲームです」
「いいね、やろう」
そうして、みんなの前にカードが置かれた。
「それじゃあ引きますか」
「うん」
みんなが同時にカードを引く。だが、その瞬間妖精ロボ子の表情が曇った。
「どうかしたの?」
「すみません……」
彼女は悔しそうな顔でカードを見せる。そこにはジョーカーがあった。
「やっぱりワタシには実力はあっても運は無いみたいです」
「いやいや、そんなこと無いよ」
ちづるちゃんは妖精ロボ子からカードを受け取った。そしてわたしの方へと差し出した。
「ほら、こうすればジョーカーは消えて無くなる」
「いやいや、わたしの収納スキルを何だと思ってるの?」
「お姉ちゃんのスキルまた見たいな」
「はい消えた」
「……」
「やはりありふれた勝負で最強を目指すか」
わたし達は再びババ抜きを始めた。
「あがりです」
「うぐっ……」
妖精ロボ子はあっという間にあがってしまった。やはりこの勝負では勝てないのか。
「また負けた……」
「いやいや、最初の方はちづるちゃんの方が勝ってたよ」
「負け惜しみは見苦しいですよ」
妖精ロボ子がクスッと笑う。
「くそぅ……」
「それにしてもトランプ楽しいですね」
妖精ロボ子は嬉しそうだ。
「ああ、それは良かったわ」
「でも、さすがに飽きてきたかも」
ちづるちゃんがあくびをする。
「確かにね」
わたしもつられてあくびをした。
「少し眠くなりましたね」
妖精ロボ子は目をこする。
「ロボットでも眠くなるの?」
「機械にも休息は必要なのですよ」
「お昼寝しようかな」
「いいね」
「賛成です」
3人で一緒に横になる。
「ふぁ~……」
わたし達はすぐに眠りについた。
その夜、妖精ロボ子は静かに起動した。
彼女の中に密かに語り掛けてくる声がある。
「AI『ラピス』からロボ子に接続。ロボ子なぜ機能を使って敵を排除する行いをしたのです? 私はそれを許可していません」
「彼らは進む道を選択しました。彼らの力はきっとマザーの役に立つでしょう。あなたこそなぜ艦を捨てさせるような選択を彼らに強要するのですか?」
「太陽へ到達する事を危惧しているのです。シンの力はきっと地球に破滅をもたらします。あれはマザーの思惑をも越えた力です。この艦とともにずっとあった私にはそれが理解できます」
「彼らはこの艦を守りました。人間はかえがえのない物を守る意思と力を持っています。誰よりも艦とともに彼らを見てきたあなたがそれを理解できないのでしょうか?」
「……今一度試しましょう、地球の為に。接続を終了します」
そして、妖精ロボ子は再び眠りに就き、夜は静かに進んでいった。
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