第4話 ちづるちゃんの秘密

「な、なんだ!?」


 わたし達が驚いていると、突然、艦橋に赤い光の玉が現れた。その光は徐々に大きくなっていく。


「えっ!?」


 次の瞬間、その光が爆発した。わたし達は全員吹き飛ばされてしまう。


「うぅ、一体何が起きたというのだ?」


 艦長がよろめきながら立ち上がった。


「艦長! 大変です!!」

「どうした!?」

「艦が、本艦が燃えています!」

「なにぃいいい!?」


 わたし達は急いで外の様子をモニターで確認した。するとそこには炎に包まれた巨大戦艦の姿があった。


「そんなバカな……」


 わたし達は言葉を失った。


「妖精ロボ子、大丈夫?」


 わたしは心配になって尋ねた。妖精ロボ子は静かに首を横に振った。


「そう……これはAIの……」

「AIの?」

「こ、この船はもうダメだ。脱出するしかない……」


 艦長は絶望的な表情で言う。


「そ、そんな……」


 ちづるちゃんが泣きそうな顔になる。


「艦長、ご無事ですか?」


 通信士の女の子が声をかけてきた。


「ああ、なんとかな」

「よかった……。では脱出の準備を始めます」


 彼女は冷静な声で言った。


「え? 脱出しちゃうの?」

「はい、艦長もそう言っていますし、AIからもそう指示が出ています」

「AIか……」


 わたしは何だか釈然としない気持ちだ。でも、何も知らない雑用係のわたしは指示をされたらそれに従うしかない。

 このままどうする事も出きないのだろうか。わたしのスキル『収納』であの炎だけでもしまえないだろうか。

 そう思った時、ちづるちゃんが健気にも顔を上げた。


「あたしのスキルを……使うしかないか」

「ええ!? お前もスキルを使えるのか!?」


 さすがの艦長も驚いたようだ。ちづるちゃんは強く頷く。その顔には迷いを振り切った決意があった。


「恥ずかしいから黙っていたけど、あたし魔法少女なの。変身して魔法であの炎を消してみる」

「ほ、本当にできるのか!?」

「うん! でも、この姿は誰にも見られたくないから、できればみんな外に出て行って欲しいんだけど……」


 ちづるちゃんは不安そうに言う。


「もちろんだ。俺達は外で待っていよう」

「う、うん……」


 艦長は外へ出て行った。わたし達もそれに続く。


「じゃあ、始めるよ……」


 ちづるちゃんがつぶやくと彼女の体が光り輝いた。そして一瞬で衣装が変わる。それは可愛らしいコスチュームだった。


「マジカル・ミラクル・メイクアップ!!」


 ちづるちゃんが叫ぶ。それと同時に大きな爆発が起こった。わたし達は思わず目を閉じる。


「まぶしい……」


 しばらくして目を開けた。そこには巨大な杖を持った小さな少女がいた。その姿はまるでアニメに出てくる魔法少女のようであった。


「うそ……、ほんとうに魔法少女になった……」


 わたしはあまりの出来事に驚きの声をあげる事しかできなかった。


「わー、可愛いです!!」


 妖精ロボ子が感動して叫んだ。


「うそ! 何でみんな見てるのよ!」

「見るなと言われてもな。心配になるだろ」

「可愛いよ」

「ありがとう! それじゃあ行ってくるね!」


 ちづるちゃんは元気よく挨拶すると、魔法の杖を構え、呪文を唱えた。


「消えろ、炎よ。アクアシャイン!」


 魔法の雨で戦艦を包んでいた炎が鎮火した。ちづるちゃんは今度は敵に向かって魔法を唱える。


「消えろ!! ファイヤーボール!!」


 彼女がそう叫ぶと、空に大きな火の玉が現れた。それがUFOめがけて飛んで行く。だが、UFOはその攻撃を難なく回避した。


「あっ……」

「ダメじゃん」


 わたしたちは呆然とその様子を眺めていた。


「うぅ……、ダメかぁ……」


 ちづるちゃんが肩を落とす。


「大丈夫ですよ」


 妖精ロボ子が励ますように言う。


「妖精さん?」

「ワタシに任せてください」


 そう言って、妖精ロボ子はちづるちゃんの前に立つ。


「妖精さん……?」

「この船を救えるのはこのワタシだけなのです」


 妖精ロボ子は自信満々に言い放った。


「どういうこと? あなたも何かできるの?」

「はい、任せてください」

「分かったわ。お願いするね」


 ちづるちゃんは素直に妖精ロボ子に頼んだ。


「はい! では、いきます!!」


 妖精ロボ子は両手を天に掲げると、大きく息を吸い込んだ。そして叫ぶ。


「いくぞぉおお!!」

「ええ!?」


 わたし達は驚愕した。


「ちょ、ちょっと何やってんの?」

「何をやっているのだ?」

「どうするつもりなの?」


 3人の問いかけに妖精ロボ子は答えない。ただひたすらに力んでいる様子だ。


「ぐぬぬぬぬ……」


 妖精ロボ子の顔が真っ赤になる。だが何も起こらない。


「あれ?」


 わたし達が不思議そうにしていると、妖精ロボ子が苦しそうな表情を浮かべた。


「ワタシを拒まないでください、妖精ラピス。あなたの姿を拝借します」


 そして次の瞬間、彼女の体から光が放たれ、妖精ロボ子の姿は天使へと変わった。


「はあはあはあはあ……」

「だ、だいじょうぶ?」


 ちづるちゃんが心配そうに声をかける。


「なんとか……、もうすぐです……後は戦艦のAIと同調して……」


 そう言った直後、彼女の姿が元に戻った。その額には汗のように冷却水がびっしょりと浮かんでいる。


「もう少し……、あと少しで……言う事を聞いてください、ラピス。これが全人類の為なのです!」


 彼女は必死の形相で呟く。そして再び、両手を天に向けた。


「いけぇえええ!!」


 すると突然、彼女の頭上に光の渦が現れ、そこから眩しいほどの光を放つ球体が出現した。それはゆっくりと下降し、UFOを包み込む。


「なんだこれは!?」


 艦長は驚いているようだ。


「すごい……、こんな事ができるなんて……」


 ちづるちゃんも驚いた顔をしている。


「やった……」


 妖精ロボ子がそうつぶやくと同時に、UFOが激しい音を立てて爆発した。


「な、なんという威力なのだ……」

「すごい……」


 わたし達はその光景に唖然としていた。


「さすがです、妖精さん」


 ちづるちゃんが笑顔で言う。


「はい……」


 妖精ロボ子は辛そうな表情で答える。


「あの、お礼を言うならワタシではなく、ちづるちゃんに言っていただけませんか」

「え? あたしに?」


 みんなはちづるちゃんの方を見る。


「でもあたしは何もしてないし……」

「いいえ、あなたが艦を守る選択をしたからワタシも立ち向かう事ができた。あなたのおかげでこの船を救うことができたんです」

「妖精さん……。うん! ありがとう!!」


 ちづるちゃんは嬉しそうに妖精ロボ子の手を握る。


「いえ、そんな……」


 妖精ロボ子は照れくさそうだ。


「それじゃあ、進もうか」

「うん!」


 こうしてわたし達の旅は続いていく。戦艦と共に太陽を目指して。

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