第3話 緊急事態
『緊急連絡!! 緊急事態発生!!』
「な、なんだ!?」
「わっ!」
わたし達は驚く。オペレーターから落ち着いた声が届いた。
「艦長、落ち着いてください。おそらく宇宙海賊の奇襲攻撃でしょう」
「うむ、それだといいのだがな」
「海賊だといいの?」
「奴らは略奪行為を行う悪質な連中だ。だがこの戦艦の戦闘力を考えれば返り討ちにできるはずだからな」
「そうですね、宇宙で未知の敵と出会うよりはやりやすい」
わたし達がそんな会話をしていると、通信士の少女が慌てた様子で艦長に話しかけてきた。
「あ、あの、大変です! レーダーに未確認物体の反応がありました。どうやらこちらに向かってきています」
「な、なんだって!?」
「えっと、どうやら巨大な宇宙船みたいですね……」
「くそっ、まさか本当に幽霊海賊が現れたっていうのか?」
「幽霊海賊!?」
艦長は悔しそうに呟いた。ちづるちゃんが尋ねる。
「お兄ちゃん、幽霊海賊ってなに? 聞いた事がないんだけど」
わたしも同感だ。聞いた事が無い。ベテランの艦長の話を伺おう。
「うむ、すまない。説明していなかったな。実は最近になって、この辺りの宙域に幽霊船が彷徨っているという噂が流れ始めたんだ。正体不明の巨大戦艦で乗組員はすべて機械人形らしい」
「なにそれ怖い。でも噂じゃなくて、実際に見た人がいるんじゃないの?」
「それが不思議な事に目撃情報が全くないんだよ。この宙域にも何度か調査隊が派遣されたが、結局何の成果もなく戻ってきた。まあ、所詮はただの噂話さ。気にする必要はないと思うがね」
「そうかなぁ……」
ちづるちゃんが不安げに言う。
「……それで、その船は今どこにいるんだ?」
艦長が通信士の女の子に声をかける。
「えっと、もうすぐ肉眼で確認できる距離まで接近します。……あっ! 見えました!!」
「こ、これは……!?」
モニターの映像を見た瞬間、わたしは思わず絶句してしまった。なぜならそこに映っていたものはUFOだったからだ。
それもただの金属製の円盤じゃない。
「うわっ、なにあれ気持ち悪い」
ちづるちゃんが嫌悪感をあらわにして言った。確かに彼女の反応は正しい。わたしも同じような感想を抱いたからだ。
なんとそこには全身に目玉がついたグロテスクな球体があった。無数の眼球でこちらを見つめている。
「ば、化け物だ!!」
艦長が叫んだ。
「な、なんて悪趣味なデザインだ」
「キモッ」
わたし達は口々に言った。
「あのぉ……」
妖精ロボ子が申し訳なさそうに手を挙げる。
「はい、どうしました?」
「あの宇宙人は人間ではないと思われます」
「えっ? どういう意味ですか?」
「はい。あの瞳孔はカメラレンズのような役割を果たしており、その映像を脳に直接送り込んでいます。つまりあの宇宙人は視覚によって周囲の状況を認識しているのではなく、脳に埋め込まれた装置を通して映像を認識しているというわけです。そのため視力はほとんどありません」
「な、なるほど」
「おそらくあの円盤状の物体は何らかのセンサーであり、情報収集用のドローンであると推測されます」
「情報収集用ドローン?」
「はい。恐らくあの宇宙人は偵察衛星のようなものを使用しているのではないかと思います」
「偵察衛星? それは一体どんなものなんだ?」
「偵察衛星とは宇宙空間から地上の様子を撮影するための人工衛星の事です。あの宇宙人は高度な文明を持っている可能性があります」
「なるほど……。では、あいつらは我々の事を監視していたという事か?」
「いえ、それは分かりません。もしかしたら偶然この船を発見しただけかもしれませんし、あるいは最初から我々を狙っていた可能性もあります」
「うーん、それは判断が難しいところだな……。よし、とりあえずあいつを撃沈しよう」
「了解」
「はい」
わたし達は主砲を発射した。だが、謎の飛行物体はそれを軽々と回避した。そしてそのままどこかへ飛び去って行く。
「くそっ、逃げられたか」
「艦長、レーダーに新たな敵影を確認しました!」
「なんだって!?」
「えっと、これは……」
「どうした?早く報告してくれ!」
「は、はい。敵は先ほどの未確認物体と同じタイプです。数は5機。本艦に向けて高速で移動しています」
「なんだと!?」
艦長は慌ててモニターを確認した。すると確かにレーダーに表示された敵機の姿が確認できた。
「なぜだ!? なぜ同じタイプの宇宙戦闘機がこんなにたくさんいるんだ!?」
「艦長! このままだと危険です! ここは撤退しましょう!」
通信士の女の子が提案する。艦長は少し迷った後、
「分かった。すぐに撤退だ!」
と言った。
「わ、分かりました! 全速後退します!」
「急げ!! この戦艦ではあいつら全部の相手は無理だ!!」
わたし達の乗る戦艦は全速力で後退した。だが、それでも敵の攻撃を回避し続ける事はできなかった。ミサイルが直撃して船体が大きく揺れる。
「きゃああああああ!!!」
ちづるちゃんが悲鳴を上げる。
「くそっ、ここまでなのか……」
艦長が悔しそうに呟いた。
「お兄ちゃん、諦めちゃダメだよ。まだ何か手があるはずだよ」
「ああ、分かっている。だが、どうすればいいんだ?」
艦長が弱音を吐く。その時、妖精ロボ子が声を上げた。
「艦長、ワタシに考えがあります」
「なに? 本当か!?」
「はい。まずは敵の動きを止めてください。そうしないと攻撃できません」
「よし、分かった。お前に任せよう」
艦長はすぐに指示を出した。敵を倒すのではなく、止める為の行動を行う。
さすがはベテランの艦長だ。敵を落とす事こそ出来なかったが、一瞬止める事には成功した。
妖精ロボ子はそれに答えるように叫ぶ。
「全砲門開けぇええええええええええええええええ!!!」
妖精ロボ子の叫びと同時に戦艦の全ての砲塔が開いた。そこから大量の砲弾が発射される。それらは敵のUFOめがけて飛んで行った。
「あぁああああああ!!」
ちづるちゃんが絶叫する。それほどの凄い爆発が宇宙で花開いたのだ。
UFOのボディが次々に貫かれていった。やがてすべての砲台が沈黙する。
「やったぞぉおお!!」
艦長が勝利の雄たけびをあげた。
「すごい……、あの幽霊海賊達を倒してしまった……」
「さすが妖精ロボ子ね。あれほどの砲門がこの艦にあったなんて知らなかったわ」
「ハイ、艦のAIにアクセスして情報を会得しました」
通信士の女の子の褒め言葉に妖精ロボ子は自慢気に答える。
わたし達も感心しながら妖精ロボ子を見つめた。
「これで安心ですね」
「うむ、そうだな」
艦長も満足そうに言う。ちづるちゃんも嬉しそうに笑っていた。わたし達も笑顔を浮かべる。だが、その時、艦内に警報が鳴り響いた。
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