第2話 艦長の妹
そうしてわたし達は再び旅を続けていく。太陽を目指して。だが、宇宙の旅は厳しい。未知のロボットが襲来してきた。
「うわあああああっ!!」
「きゃああああああああ!!」
次々と襲い掛かってくる脅威。それをわたしはスキルを駆使してなんとか切り抜けてきた。時には危険な目にもあった。だけど、わたしはくじけなかった。
なぜならば、わたしの隣にはいつも艦長がいてくれたからである。
「大丈夫か?」
「はい! まだまだ頑張れると思います!!」
「そうか。それじゃあ行くぞ」
「了解です!!」
わたし達を乗せた宇宙船は更にスピードを上げながら進んでいく。
「うおおおっ!!」
「負けませんよ、艦長!!」
わたしは今日も元気に働いている。旅は順調だ。今頃地球が超AIの暴走によって滅びかけているなんて夢のようだ。
「ところで艦長。太陽に着いたら何をするんですか?」
「ん? そうだな。まずは太陽エネルギーを覚醒させる」
「それでそれで?」
「その後は、太陽の光を浴びてパワーアップする」
「へぇー」
「そうしたらいよいよ地球に向かうぞ」
「えっ、地球に行っちゃうんですか?」
「当たり前だろう。俺たちの目的は太陽系を救うことなんだから」
「はぁ。そうなんですねぇ」
わたしは地球で暴走している超AIさえ破壊すれば何とかなると思っていたが、艦長の思惑はもっと大きいようだ。
さすがは数々の難題を解決してきたベテランの艦長。たた旅をして自分の仕事だけこなせればいいと思っている雑用係のわたしとはスケールが違う。
「艦長。地球のことは艦長に任せます」
「何を言っているんだ、お前にも働いてもらうぞ」
「え? わたしも働くんですか?」
「当然だろう。この船に乗っているからには働いてもらうぞ」
「は、はい。わかりました」
何だか思ったより大きい仕事を押し付けられそうな予感がするんだけど。艦長に任せておけばいいか。
こうしてわたしと艦長の宇宙を巡る冒険が始まったのである。
旅は順調だ。太陽まではまだ遠い。お腹が空いてきた。
「そろそろお昼ごはんの時間ですね」
「うむ、そうだな」
時計が正午の時間を告げる。宇宙では時間が分かりにくいが、時計はあるし、体感でもなんとなく分かってしまう。
するとそれを見計らったかのようにメイドの少女がご飯を運んできた。
「お疲れ様、お兄ちゃん! 今日もお仕事ごくろうさま」
「ああ、ありがとな」
メニューはカレーライスだ。美味しそうな匂いで気になるがわたしには他にも気になる事があった。
「今お兄ちゃんって言った?」
「ああ、俺の妹だ。名前は……」
「ちづるだよ。よろしくね、新人さん!」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるわたし。ちづるちゃんは面白そうにクスクス笑った。
「あれ、なんか硬いなぁ。あたしの方が年下なんだし、もっとリラックスしていいんだよ」
「いえ、そんなわけにはいきません。ただの能無しの雑用係のわたしめが艦長の妹様にため口を叩くなど」
「またそんなこと言ってるぅ。いいからいいから。敬語とか使わなくていいよ」
「しかし」
「もう、細かいなぁ。そんなんじゃ立派な艦長になれないぞ」
「えっ!?」
艦長という言葉を聞いてわたしは驚いてしまった。
「ただの雑用係のわたしが艦長に成り上がる? そんな将来が?」
「そうそう、だって地球を救う旅だもの。成功すればいずれそういう道もあると思うよ。艦長は誰よりも責任感が強くないとダメだからね。でも、真面目なのは良い事だけど、もっと肩の力を抜いてもいいと思うよ」
「そうですか……」
「うん。だってお兄ちゃんは凄く頼りになるけど、ちょっとだけずぼらなところがあるもんね」
「な、なんの話をしているんだ、お前達は」
艦長が慌てた様子で言う。どうやらちづるちゃんの言っている事は図星だったようだ。
「まあまあ、照れなくてもいいって。でもさ、お兄ちゃんがもう少し他人を頼ってくれたら嬉しいなぁ」
「分かった。未来の艦長としてわたしが今の艦長をサポートする」
「うん、そうしてあげて」
「……お前はいつも一言多い」
艦長はそう言うと妹の頭をコツンッと叩いた。ちづるちゃんは嬉しそうに笑う。仲の良い兄妹のようであった。
「それで、この子は一体何者なの?」
さっきから気になっていたが彼女の近くに妖精のようなロボットがいた。人間でないのは分かるが、何の為に連れているのだろうか。
雑用するのは雑用係の仕事なんだけど。
ちづるちゃんはドヤ顔で紹介してくれる。
「ふふんっ、よくぞ聞いてくれました! この子はあたしの可愛い可愛いペットのロボ子ちゃんです」
「えっと、初めまして。ワタシは超AI搭載型アンドロイド、妖精ロボ子と言います。どうぞよろしくお願い致します」
「うむ。わたしはこの戦艦イスカンダルの雑用係佐藤花子だ。これからよろしく頼む」
「はい。雑用係さん」
「何でお兄ちゃん風?」
「今から艦長の練習をしておこうと思って」
「フフ、変だよぉ。普通でいいって」
「え!? 変かな」
「変ですね」
「ガーーーン」
ペットからも指摘されて思ったよりショックを受けてしまう。まあ、内心の動揺は置いておいて。
わたし達は握手を交わす。そして自己紹介が終わったところで食事を開始した。
「美味しいですね、艦長」
「そうだな」
「それにしてもこんな戦艦のブリッジで食事する景色なんて初めて見ましたよ」
「襲撃を受けたばかりだし、まだ敵が近くに潜んでいるかもしれんからな」
「あっ、艦長! このカレーライスすごく美味しいですよ!!」
わたしは興奮気味に言った。
「そうか、それは良かった」
「はい。おかわりしてもいいですか?」
「もちろんだ。好きなだけ食べてくれ」
「ありがとうございます」
わたしはスプーンを手に取り、カレーライスを食べ始める。美味しかった。とても美味しかったのだが、何か物足りない気がした。
「あの、艦長」
「うん? どうした?」
「これ、辛くないんですが……」
「辛くない? どうしてだ?」
「いえ、その。わたしの舌は地球人仕様になっているんですけど、このカレーライスはあまり辛くないような気がして……」
「そうなのか?」
「はい。カレーは辛いはずなんですが…… あれ、おかしいな。わたしの味覚がおかしくなったのかも」
「そうか……。実はな、このカレーにはスパイスを少ししか入れていないんだ」
「へぇ、そうなんですね」
「ああ。地球は今、食糧不足に陥っているからな。あまり多くの香辛料を使うと生態系を破壊してしまう恐れがある。だから最低限の量に抑えているのだ」
「なるほど」
確かに言われてみると、このカレーはそこまで強烈な刺激を感じなかった。これはこれで美味しい。だがやはり地球の料理に比べるとパンチが弱いというか、インパクトに欠ける感じがした。
「艦長、一つ質問があるのでよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「この船には調味料がたくさん積まれていましたよね? なぜ使わないんですか?」
「ああ、あれは……」
艦長が答えようとしたその時、突然艦内放送が流れた。
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