宇宙戦艦、太陽を目指す ~地球は超AIに支配されました~
けろよん
第1話 艦長と雑用係
わたしは佐藤花子である。宇宙船の雑用係をしている。
そんなわたしは今、宇宙船に乗って太陽を目指していた。
なぜかって? そんな事はわたしの方が聞きたい。
ただ時給がいいからって、いつもの雑用係の仕事だろうと思って受けたのに、まさか太陽まで行く事になるなんて。
「降ろしてください、頼みます」
艦長に頼んでももう遅い。銀河系は超AIの暴走によって滅びかけていた。引き返す時間などもう無いのである。
「さあ、行くぞ! 銀河系を救うのだ!」
艦長はやる気に満ちていたが、わたしにはそんなやる気はない。銀河系なんて誰か選ばれたヒーローが救ってくれればいいのだ。
雑用係はただ雑用係らしく、世界が終わる時まで自分の仕事が出来ればいい。それがまさか太陽まで行くことになるなんて……
艦長が檄を飛ばしたその時であった。
突如として船体が大きく揺れた。
「なんだ? 何が起きた?」
「わ、わかりません。ただ……何か巨大な物と接触をした模様です」
「巨大な物だと?」
通信士からの報告に艦長が聞き返した直後だった。
「うっ……な、なんだこの音は!?」
艦内から凄まじい轟音が響き渡った。
『緊急事態発生。緊急事態発生』
けたたましい警報と共に船内放送が流れ始めた。
『本艦は現在、未確認物体と衝突しています。乗員の皆さんは直ちに避難してください。繰り返します。本艦は現在、未確認物体と接触しています。乗組員の皆さんは直ちに避難してください。繰り返……』
「お、おい! これってまさか……」
「ああ。どうやら我々の乗る船が謎の物体に衝突したようだ」
「衝突したのかよ!!」
「ああ。そうらしい」
「なんで冷静なんだあんたは!! 早く何とかしないと俺たち死ぬんだろ!!」
「落ち着け。こういう時こそ慌てず騒がず落ち着いて対処するべきだ。おい、雑用係」
「はい、なんでしょう」
乗組員達が混乱する中、いきなり艦長に呼ばれてびっくりするわたし。
何の用なのだろう。ただの雑用係のわたしはプロの皆さんに現場を任せて早く避難したいんだけれど。
艦長はこんな時でも冷静なのでわたしも居住まいを正してしまう。
八木沼たかし艦長。彼は今までにも数々の難題をクリアしてきたベテランなので何か考えがあるのだろうか。
「お前、何かスキルを持っているだろう? 目立たなくて頼りなさそうなのにこの船に乗っている存在感。俺の目は誤魔化せんぞ」
「でも、わたしのスキルなんてここでは役に立ちませんよ。わたしのスキルって角まで綺麗に掃除できるぐらいで。面接でもそこを評価されたんです」
「それでもいい。役に立たなくてもいいから使ってみせろ」
「えーっと……じゃあ、やってみますけど。わたしのスキルは……」
そうしてわたしは自分のスキルを発動させた。
すると……。
「うおっ!? なんか変なものが出てきたぞ!」
艦長が驚くように言った。無理もない。だってわたしのスキルは……。
『あなたの目の前には様々な道具が出てきました。あなたはその道具を使ってどんな事ができますか?』
平たく言ってしまえば、わたしのスキルとはこのようなものだったからだ。
「ほら、役に立たないでしょ?」
「ふむ。恐らくだが、お前のスキルは【収納】だな」
「収納?」
「ああ。何でもしまえるスキルというわけだ」
「なんでもしまえる……ですか?」
考えた事もなかったな。ただチリトリに入らないようなゴミを入れるのに便利だなぐらいにしか。
ちなみに必要な物は入れていない。まとめてバサバサ入れてまとめてバサバサ出すのに向いている能力なので、うっかり紛失すると困るからだ。
わたし自身この能力の事はよく分かっていないんだけど、艦長の反応だと何だか凄いスキルだということが伝わった。
「しかし困ったな。この空間では使えるものがないぞ」
確かに艦長の言う通りだった。わたし達の周囲にはたくさんの物が浮いている。この中に使えそうなものは見当たらなかった。
収納してもどうにもならない。やはり役に立たないスキルなのだろうか。
「くそっ! こうなったら最後の手段だ」
艦長はそう言って懐に手を入れた。そして取り出したのはブーブークッションだった。座ってお尻を置いたらブーっと鳴るクッションだ。
「それで何をするつもりなんですか、艦長」
「まあ、黙って見ていろ。新人の雑用係のお前にベテランの艦長の仕事というものを見せてやろう」
「はぁ」
そんな事を言っている間にもどんどんと時間が過ぎていく。どうしよう、この間に避難しておいた方が良かったのではないだろうか。
艦長は艦と運命を共にするのが本望なのかもしれないが、わたしはただの雑用係なのだ。
仕事を投げ出したくはないが命より大事な物なんてない。このままだと本当に爆発に巻き込まれてしまう。
「よしっ! 準備完了だ」
艦長はそう言うと手に持ったブーブークッションをお腹に当てた。あれで何をするつもりなのだろうか。ここはベテランの艦長のお手並みを拝見するしかない。
「ほれっ、ブゥッ」
大きな音が鳴ると同時に周囲の物が次々と消えていった。その光景を見てわたしは思わず呟いた。
「すごい……」
それはまるで魔法のようであった。音が鳴る度に艦を取り巻いていた物が消えていく。やがて全て消え去った。
「これでどうにか脱出できたな」
艦長は額の汗を拭いながら笑った。
「はい。でも、わたしの仕事がありませんでしたね」
「気にするな。仕事ならこれからいくらでもある」
「そうですね」
「ああ。それにお前はまだ若い。これからいくらでも活躍の機会はあるさ」
「ありがとうございます」
この艦長となら良い旅ができそうだ。わたしは内心でワクワクとするのだった。
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