8

 エボニーは魂壊竜を連れて、再びクィールへとやってきた。


「ああ。戻ってきたのね。てっきり逃げたかと思ったわ」


 クィールに戻ると、ヨルンが熊のような姿の心魔怪の背中に乗って不敵な笑みを浮かべていた。


「逃げるわけがないだろ。俺はお前を倒して世界を救うつもりなんだからな」


 エボニーがそう言うと、ヨルンは大声で笑い始めた。


「アハハッ! 世界を救うだって!? 本当にあなたは面白いわね! そんなの出来ると本気で思ってるの? あなた一人で?」


 ヨルンはエボニーの事を馬鹿にしたように嘲笑っていた。


「うるさい! 黙れ! 出来るかどうかじゃない。やるかやらないかなんだよ。俺は、世界を救いたい! その為だったら何だってするつもりだ! だからこそ、俺はこいつと共にいる!」


 エボニーはヨルンにそう叫んだ後、後ろにいる魂壊竜を指差した。


「我は魂壊竜だ!」

「魂壊竜……!? 魂壊竜!? こいつがあの魂壊竜なの!?」


 ヨルンは驚き、恐怖の表情を浮かべていた。


「ああ。そうだ。魂壊竜はこの国を滅ぼそうとしたドラゴンだ。だが、俺は諦めずにこいつと向き合い、分かり合えたんだ。まぁ、方法は気にするな!」


 エボニーはヨルンに対して得意げに言った。


「ははっ……それでまさか、私を倒すとか言わないわよね? この私が、負けるとでも言いたそうな口ぶりだけど……」


 ヨルンは焦りを隠せない様子であった。


「それは分からない。お前は強い。だから、油断はしない。全力で戦う。そして、勝つ! それが俺のやり方だ!」


 エボニーは真剣な眼差しでヨルンを見つめながら力強く宣言した。


「そして汝に問う! 幼い少女は好きか?」


 魂壊竜もエボニーに続けて言った。


「さあ答えるのだヨルン! 幼い少女は好きか?」


 ヨルンは二人の問いかけに対し、ニヤリと笑みを浮かべた。


「もちろん大好きよ! 私は幼女を愛している! 小さい女の子が大好きなのよ! だから私の邪魔をする奴は許さないわ!」

「本当にそうか?」

「当たり前じゃない! 小さい子供って可愛いし、守るべき存在だと思うのよね! だから私としては、あなたが、私の前に現れるのは迷惑極まりないことなのよ!」

「意味が分からん! 貴様、本当に幼女が好きなのか!」

「そうだと言っているでしょう! 私は小さい子が大好きなの! つまり、お前は私の敵ということよ! この世界を滅ぼしたいのならば、まずは私を倒しなさい!」


 ヨルンは両手を広げて叫ぶように答えた。


「ならば……」


 魂壊竜は小さく呟いた後、こう叫んだ。


「倒させてもらう!」


 魂壊竜はそう言うと、その巨大な翼を大きく羽ばたかせた。


 すると、魂壊竜の身体は宙に浮き上がり、そのまま上空へ上昇していった。


「エボニー。避難しておけ」

「ああ!」


 魂壊竜の言葉を聞き、エボニーは魔法を使いその場を離れた。それを確認すると魂壊竜はすぐさま行動に移った。


 魂壊竜は、自らの大きな口を開けて息を吸い込んだ。


 ドゴォオオオオン!

 

 魂壊竜は大きな音を立てて口から極太の光線を放った。光線は一直線に進みながらヨルン目掛けて飛んでいった。


「ぐあああああああああっ!」


 ヨルンは超高速で襲い掛かるその攻撃を避ける事が出来ず、まともに喰らい吹き飛ばされた。


「……くっ!」

「もう一発!」


 魂壊竜は再び大きく口を開けると、今度は先ほどよりも太いビームを発射した。


「うわああぁ!」


 ヨルンはまたしても避けることが出来ず、ビームをまともに受けてしまった。


「まだまだ!」


 魂壊竜は休む間もなく、再びビームを発射する。


「うぅ……。そんな馬鹿な……」


 連続してビームを浴びたヨルンは倒れ込み、次第に身体を崩壊させていき、やがて完全に消滅した。その様子を遥か上空から見ていたエボニーはあまりにも一方的な展開に唖然としていた。


「……倒したのか?」

「そのようだな」

「これで一件落着、なのか?」


 エボニーの問いを聞き、魂壊竜は答えた。


「貴様が世界を救おうとする限り、我もそれに従うしかない。だが、そうでないのなら、我は世界を滅ぼす事になるだろう」

「それならいいさ。俺はこの絶望に塗れた世界を救ってやる! 絶対にな!」

「そうか。ならば一件落着でいいだろう」


 魂壊竜はそう言うと、どこかへと飛び去った。

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