7

「あれが、魂壊竜の卵だな」


 エボニーは空中で静止すると、卵の方を指さしながら確認した後、魔力を纏い勢いよく突っ込んだ。


 そして……バリーンッ!!


 卵に激突した瞬間、殻に大きな亀裂が入り、卵は砕け散った。その刹那、どす黒くいびつな姿をしたドラゴンが姿を現した。


「グオオオオッ!!」

「お前が、魂壊竜だな」

「グルルルル……」


 エボニーはゆっくりと歩きながら魂壊竜に接近していく。魂壊竜はエボニーに対して威嚇するかのように低いうなり声をあげた後、口を大きく開けて火球を放った。エボニーは咄嗟に魔法で防御しようとしたが、火球の速度が速すぎる余り間に合わず、そのまま直撃してしまった。


「ぐっ!? なんて速さだ……。それに威力も高い……」


 エボニーは苦悶の表情を浮かべながら呟いた。そして激しい後悔の念に駆られた。


(俺は何という事をしちまったんだろう。あの時、ちゃんと防御出来ていれば……)


 しかしもう遅い。今更そんなことを考えても後の祭りである。


(いや、違う。そもそも何で俺はこんな事やったんだ?)


 エボニーは自分に問いかけるが答えは出ない。何故ならばエボニーは自分で自分の行動原理が全く理解出来なかったからだ。魂壊竜の力を借りる? そんなの出来る訳無いだろう。出来るのならこんなに自殺者が続発している訳がない。自分が間違っていた。思考が意味不明過ぎる。ふと気付くと、魂壊竜が更なる攻撃を仕掛けようとしていた。


「とにかく今はこいつを止める事が先決だ。だが、どうやって止める?」


 エボニーは必死で頭を働かせようとした。しかし、焦りのせいか、なかなか良い案が浮かんで来なかった。そして、またもや攻撃をまともに喰らった。


「ぐわあああああああぁっ!!」


 エボニーは絶叫した。激痛のあまり、意識を失いそうになり、落下を始めた。


「……ダメなのか? 俺なんかじゃ何も出来ないのかよ!」


 そうだ、何も出来ない。俺は弱い。その事実を思い知らされて、エボニーは絶望―――する筈が無かった。エボニーの脳裏に浮かんできたのは、ウィスタリアの顔であった。


「諦めちゃダメ!! エボニー!!」


ウィスタリアの声が聞こえた気がしたのだ。エボニーは飛行魔法を発動しながら今一度考えた。どうすれば、こいつの力を借りられるのか。考えれば考える程分からなくなった。だが、ここで諦めたら全てが終わりだ。絶対に、何としてでも成し遂げなければならない。


「俺は負けられないんだ……。この世界を守るために」


 エボニーは静かに呟く。エボニーはウィスタリアの事を考えていた。


(そうだ。あいつみたいに……)


 エボニーは唸り声を上げている魂壊竜目掛け飛んだ。


「力を貸して欲しい!」


 魂壊竜の目の前まで飛んで来たエボニーは叫んだ。


「頼む! 俺の言うことを聞いてくれ!」


 エボニーの叫びを聞いた魂壊竜はピタリと動きを止めてエボニーを見た。


「俺は世界を救いたい! お前の力が必要なんだ!」


 魂壊竜は再びエボニーに視線を向けた。


「我の力を欲するか……」


 エボニーは魂壊竜の言葉が理解出来たことに驚いた。そして、今すぐにでも質問したい衝動を抑えて、まずは魂壊竜をどうにかしようと考えた。


「ああ、必要だ!」


 エボニーは力強く答えた。


「ならば、我が問いに応えよ。さすれば、汝の願いを聞き届けよう」

「分かった。何でも応える」


 エボニーは即答した。


「幼い少女は好きか?」

「……は?」


 真太は思わず間抜けな声で聞き返した。


「だから、幼女が好きかどうか聞いているのだ!」


 魂壊竜の真剣な声色と表情を見て、冗談ではなく本気で言っているのだとエボニーは思った。


(……は? えっと、何の話?)


 エボニーはその言葉の意味を考えるために思考を巡らせた。


 しかし、いくら考えても意味を理解することが出来なかった。


「ロリコンかそうじゃないかって聞いているのだ!」


 魂壊竜はエボニーに向かって大声で叫んだ。


 エボニーは目を丸くした。


「はぁ!? ロリコ―――」

「そうだ! ロリータ・コンプレックスの事だ!」


 魂壊竜がエボニーの言葉を遮った。


「おいっ! そんなことより、お前は何なんだっ! 一体何でこの世界に来たんだ!?」


 エボニーは焦りながら魂壊竜に尋ねた。


「我は魂壊竜だ! 質問に答えろ! 幼女が好きか! 嫌いか! どっちなのだ!」


 魂壊竜はエボニーの質問には耳を聞かずにエボニーに答えを要求した。


「さもなくばお前の魂を破壊するぞ!」


 魂壊竜はエボニーの目の前まで移動し、鋭い爪を立ててエボニーの胸倉を掴み上げた。


「おい! ふざけんじゃねぇよ!」


 エボニーは怒りの形相で怒鳴ったが、魂壊竜は一切怯むことなくエボニーを睨みつけた。


「ふざけているのは貴様だ! なぜ我の問いに答えぬ! 幼女が好きなのか!? 嫌いなのか!?」

「じゃあロリコンでいいよ! このバカ野郎!」


 エボニーがそう言うと、魂壊竜はエボニーの身体を解放した。


「そうか貴様もロリコンなのだな」


 エボニーは解放されるとすぐさま距離を取った。


「あれか。あの下にいるウィスタリアとかいう少女が好みか。確かに彼女は低身長で胸も小さい。おまけに性格も純真無垢で天真爛漫ときた。まさにロリコンが好きそうな奴だな」


 魂壊竜はウィスタリアの方へ視線を向けた。


「お、お前……べ、別に俺はウィスをそんな目では……」


 エボニーは言い訳をしようとしたのだが、魂壊竜はエボニーの言葉を聞く気などさらさら無いようだった。


「まぁいい。貴様もロリコンならば、力を貸してやろう。かくいう我もロリコンだしな。ふっ。それにしても、この国の人間どもは絶望しているようだな。我を封印するために多くの人間を差し出したのだから当然だろうが……。この世界は我が滅ぼした方が良さそうだ。どうせ遅かれ早かれ滅びるのだから」

「違う。滅びそうなこの世界を救うんだ。俺と、お前で!」


 エボニーは魂壊竜にそう言った。


 すると、魂壊竜は鼻で笑った後、こう答えた。


「ふん。どうせ我は貴様のモノだ。貴様の好きにするといい。ただし赤子はNGだ。流石に幼すぎる」

「俺は絶対に諦めたりしないぞ。絶望なんてしない。希望を捨てない。俺が世界を救ってみせる。赤ちゃんの下りは聞かなかったことにする」


 エボニーはいたって真剣な表情で力強く宣言するのであった。

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