5
エボニーたちが村と外界を隔てている門に向かって歩いている途中。村人達は皆、エボニーに対して冷たい視線を送っていた。しかし、それでもエボニーたちは気にせず歩みを続けた。
「皆、心の闇を抱えているって感じですね」
真太が村人たちを観察しながら言った。
「そうだな。魂壊竜が来てからずっとこんな感じさ」
エボニーは頭上に指を掲げながら言った。魂壊竜の事は、既に真太とポコにも話しておいた。家族が、友人が、ありとあらゆる人が多く自殺し、生きている村人たちも絶望に沈んでいる。村人は希望を失っている。村人たちは未来を見失っている。
「だからこそ、俺たちで何とかしようぜ!」
「はい!」
エボニーの言葉を聞いた真太が元気よく返事をした。
ここはクィール。かつては海産物が豊富であり、漁業が盛んだった港町である。
そんな町に到着したエボニー、ウィスタリア、真太、ポコの三人と一匹はというと。
「うわぁ! 魚市場ですよ! ……なんか寂しいけど」
「でも、美味そうブヒ」
「お腹空いたね。魚食べたくなってきちゃった」
「本当だな。もう昼過ぎか……じゃ、とりあえず何か食うか!」
こうしてひとまず町の食堂で昼食をとることにした。エボニーたちが店に入ると、
「…………いらっしゃい」
白髪交じりで、目に生気が無い店主らしき男が声をかけてきた。
店内は閑散としていて、客は他に誰もいなかった。かつてはここも客が多く、賑わっていたのではないかだとエボニーは思った。しかし魂壊竜が現れてから、どんな場所もこのように、生活するために営業こそしているものの、でもどうせ世界は終わるんだからとでも言いたげな絶望に包まれたような空気が漂っている。エボニーたちはテーブル席に座るとメニューを見て注文した。
「俺は三年替わり定食にするぜ」
エボニーは最早替える意味があるのかわからないような定食を頼んでみた。
「私は海鮮丼にしよっと」
ウィスタリアは港町らしく、海鮮丼にしたようだ。
「僕は焼き肉定食にしようかな。あ、あと豚汁下さい!」
真太は迷っていたが結局安定していそうなものを選んだ。
「ブヒは、真太のおこぼれでいいブヒ」
そうして、運ばれて来た料理を食べながら、会話をした。
「それにしてもこの町って、なんだか暗い雰囲気ですね……」
「この町だけじゃない。魂壊竜が現れてから、どこもこんな感じさ」
真太の言葉にエボニーは答えた。
「魂壊竜……魂を壊す竜……心魔怪よりもずっと恐ろしい竜ブヒねぇ」
ポコは呟いた。
「まぁな。でも、俺は負けねえ。希望の光を消させやしねえ」
エボニーは言った。
「うん。私たちで、絶対に止めようね!」
「そうだブヒ!」
ウィスタリアとポコは「お座り!」「ブヒ!」といったやり取りをしながら会話をしていた。
そうして食事をしていると、突如店の外から轟音と悲鳴が聞こえてきた。
「きゃああ!!」
「うわーっ!!?」
「逃げろおお!!!」
食事を中断し一行がすぐさま外に出ると、そこには黒い影に襲われている人々の姿があった。
「心魔怪ブヒ!」
町の人々は皆、恐怖していた。
「くそぉ! 一体何が起こってんだ!? なんであんな化け物が急に現れたんだよ!!?」
「誰か助けてくれえぇ!」
「いやああっ!」
その光景を見て、エボニーはすぐさま体勢を整え、
「バトルモード、オン!」
そう叫び、心魔怪に進撃した。
「ブヒたちも行くブヒ!」
「うん!」
真太とブヒも、それに続いた。
「私は町の人を避難させてくる!」
「頼む!」
ウィスタリアはエボニーにそう言うと、避難誘導をするために走り出した。
「今回は剣で行くぜ!」
エボニーは魔力で構成した剣を構え、地面を強く蹴り、心魔怪へと向かっていった。
「食らえっ!!!」
エボニーは掛け声とともに剣を振り下ろす。
「グオオオッ!」
重い一撃が命中し、心魔怪はよろめいた。
「今だよ、ポコ!」
「ああブヒ!」
その瞬間を真太とポコは逃さなかった。彼らは脇目も振らずに心魔怪目掛けて走っていった。
「ブヒィイイッッ!!」
「いっけえっ!!」
真太の拳と、ポコの体当たりが、同時に心魔怪の体に直撃した。
「グオオォ……」
心魔怪は断末魔の悲鳴をあげながら霧消した。
「よっしゃあ!」
「勝ったブヒー!」
エボニーたちは喜びの声をあげた。
だがその時だった。
「危ない!」
避難誘導を終えたウィスタリアが、エボニーたちに向かって叫んだ。
エボニーたちが振り向くとそこには、大きくどす黒い足が迫っていた。
「うわぁあっ!?」
エボニーは驚きながらも咄嵯に避けた。今まで立っていた場所には大きなクレーターが出来ている。
エボニーは冷や汗を流しながら真太に訊いた。
「あれも……心魔怪か?」
「うん。でも気を付けて。今倒したやつよりも……強い」
「そうか! ならさっさと倒さないとな!」
エボニーは拳を打ち合わせて魔力を身体に巡らすと、心魔怪に向かっていった。
「グオオッ!」
エボニーが接近すると心魔怪は腕を振り回してきた。エボニーはその攻撃を余裕でかわす。
「あんまり俺の趣味じゃないけど、この魔法でどうだ!」
エボニーは指を銃の形にし、それを素早く振った。
「ロックシュート!」
エボニーの手から無数の岩の弾丸が放たれ、心魔怪の不気味な体を撃ち抜く。
「グオオオッ!」
「次はこれだ!」
エボニーは再び手をかざし「ガイアバースト!」と唱えると、土の塊を作り出して心魔怪に投げつけた。その威力は凄まじく、心魔怪の巨体が激しく吹き飛んだ。
「すごい……いやいや感心している場合じゃないよね。僕たちも行こう!」
「ああブヒ!」
真太とブヒも心魔怪に向かって走り出す。
「グオオオッ!」
同時に立ち上がった心魔怪の鋭い爪が二人に迫る。しかし二人は軽々と攻撃をかわし、カウンターの蹴りを放つ。
「はあっ!」
「ブヒッ!」
二人の渾身の一撃を受けた心魔怪は仰向けに倒れ込んだ。
「グオオッ……」
「これで終わりだ!」
エボニーは両手を前に突き出すと、そこに魔力を集め始めた。
「いくぜ!
エボニーの掌の前に巨大な岩が現れる。それはみるみると大きくなり、やがて直径五メートル程の球体になった。それはまるで、そのままの状態で落ちてきたような隕石のようだった。
「うおおおおっ!」
エボニーはそれの岩石を思い切り投げ飛ばした。
「いけえーっ!」
岩石が勢いよく飛んでいき、心魔怪に直撃する。
「グアアアッ!」
巨大な体が圧迫されて破裂し、弾けた肉体が砂のように消滅した。
「やったブヒね!」
「俺は最強の魔術師だからな! それにしてもお前たちも強いな。驚いたよ。魔術師でも無いんだろ?」
「はい。僕は普通の人間ですけど、地球で心魔怪と戦っているうちにいつの間にか強くなってて……」
「経験の賜物ブヒね」
「努力の力か! とにかく助かったぜ。ありがとな!」
エボニーが真太に手を差し伸べ、真太もその手を取る。
「いやいや、こちらこそですよ。エボニーさんたちのお陰で被害を最小限に倒せたんですから」
「そうそう! 私も、町の皆を助けたよ!」
ウィスタリアもエボニーに向かって笑顔を向けた。
「ああ。頑張ったな」
エボニーはウィスタリアの頭を撫でた。
「へへ~♪」
ウィスタリアはとても嬉しそうに笑った。
すると、町の人たちがエボニーたちの元へ駆け寄ってきた。
「ありがとうございます!」
「助けてくれて本当に感謝します!」
人々は口々に感謝の言葉を述べた。
「気にするな。それより、怪我とか無かったか?」
「はい! あなた方がすぐに避難させてくれたので大丈夫でした!」
「ありがとうございました!」
そうしてエボニーたちにそれぞれお礼を言った後、町の人々は再び元の生活へと戻っていった。お礼に来た人は決して多い人数では無かったが、絶望だらけの世界でも、そうやってお礼を言ってくれる人がいることにエボニーは喜びを覚えた。
「ふぅ……これにて一件落着……じゃないブヒよ!」
ポコはため息をついた後に、呼吸を荒げていった。そんなポコの言葉を聞き、真太ははっと目を見開いた。
「そうだ! 心魔怪にはそれぞれ宿主がいるんだ。その人を探さないと」
「そうなのか!?」
エボニーは初めて知る事実に驚愕した。
「はい。心魔怪は人間の心の闇が具現化したものです。だから、心魔怪を産み出した人――心の闇を抱えている人が近くにいるはずなんです」
真太は真剣な表情を浮かべながらエボニーへと説明した。
「なるほど……」
エボニーは納得した後、ウィスタリアの方を見た。
「ウィス、避難誘導をしている中で何か心当たりは無かったか?」
ウィスタリアは少し考える仕草をして答えた。
「うーん……。特に思い当たる節は……あっ! もしかしたら!」
「何かあったのか?」
「うん。さっき私が助けた人たちの中にね、女の子がいたんだけどその子の様子がちょっと変だったかも」
「それはどんな様子なんだ?」
「なんか、ずっとぶつぶつ呟いていたの」
「何て言っていたんだ?」
「えっとね、確か『ごめんなさい……ごめんなさい……』って謝り続けてたなぁ」
「なるほど。それでその子はどこに?」
「確か……あっちの建物」
ウィスタリアが指差したのは、この周辺にある建物の中でも一番大きい建物であった。かつては教会として建てられていたようだが、今では誰も利用していない様子が見て取れた。
「よしっ! 早速行ってみるぞ!」
エボニーがそう言って走ろうとした瞬間「ちょっと待って」とウィスタリアが制止した。
「どうした? ウィス。早く行かないとどこかに行っちゃうかもしれないだろ」
エボニーの言葉にウィスタリアは不安げな顔をした。
「そうなんだけど……でも、本当にその子が心魔怪を産んだっていう確証も無いし……それに……」
「それに?」
「その子だけじゃなくて、みんながみんな、何かを抱えてるような……そんな感じがして」
ウィスタリアのその言葉を聞いたエボニーは頷いた。
「確かに全員暗い顔してるよな」
「でしょ? だから……」
と言葉を続けようとするウィスタリアを、今度はエボニーが制止した。
「つってもその子が産んだかそうでないかなんて、直接確かめてみないとわからないだろ?」
エボニーは自信満々にそう言った。
「それはそうだけど……」
「その子が宿主かどうかは、ブヒの嗅覚でわかるブヒ。とにかく行ってみるブヒ」
こうして、三人と一匹は教会へと向かった。
教会の中に入ると、そこには椅子に座って祈りを捧げている一人の少女がいた。
「あの子じゃないですか?」
真太はウィスタリアに尋ねた。
「あ、うん。その子だよ」
ウィスタリアが頷くと、エボニーはすぐに行動を開始した。
「おーい! 君!」
エボニーが声をかけると、祈りを捧げていた少女は振り返った。
「あなた達は……?」
「俺はエボニー。えっと…………」
「……?」
口ごもってしまったエボニーは、咄嗟にポコに耳打ちした。
「どうやって宿主かどうか確かめるんだ?」
「匂いを嗅いで確かめるんだブヒ。だからブヒの行動が変に思われないように振舞ってくれブヒ」
「えぇ…………まぁ、わかったよ」
エボニーは仕方なしに、何とか少女と会話を続ける事にした。
「えっと。君の名前は?」
「リル、です……」
「へぇ。いい名前じゃないか」
「ありがとうございます……。それで、何か御用でしょうか?」
「あ、いや。用ってわけでもないんだけど……」
エボニーが適当に話を切り出そうとすると、横にいたウィスタリアが割り込んできた。
「えーい!」
すると突然、ウィスタリアがリルの身体をギュッと抱きしめた。
「ふわっ!? な、なんですかいきなり!?」
驚くのも無理はない。急に見知らぬ人に抱きつかれたのだから。だが、そんな事は御構い無しでウィスタリアはリルの身体をまさぐっていく。
「うりゃりゃ! こちょこちょ〜」
「ひゃあっ! ちょっと! やめてくださいぃ……!」
(……何だこりゃ)
その光景を見てエボニーは呆気に取られていたが、すぐにはっとなり、ポコと目を合わせた。
「今ならいけるんじゃね?」
「そうブヒね。もうちょっと見ていたくもあるけど、仕方ないブヒ」
ポコはエボニーに頷くと、ポコもウィスタリアと同様、リルの身体に飛びついた。
「うりゃ! ここかぁ〜?」
「くんくん……くんくん……」
「きゃはははははははは!! そ、そこはダメですぅ!!」
「おぉ、ここが弱いのか! ここが弱点なのか!」
「くんくん……」
ウィスタリアがリルの小さな身体のいたるところを触り、ポコがいたるところの匂いを嗅いでいる。
「僕たち何を見せられているんでしょうね?」
真太はエボニーの横に立ち、小声で囁いた。
「これが彼女と世界を救うための手段だってんなら黙って見守ろうぜ」
「えぇ……。それでいいんですかね……。なんか、見てて恥ずかしいですよ……」
エボニーの言葉を聞いて、真太は困った表情を浮かべた。
「そんなこと言わずに、もっと見ようぜ」
エボニーは真剣な表情で、ウィスタリアたちの方を見た。
「くんくん……くんくん……」
「ひゃん!? ちょ、ちょっとやめてくださいよ!」
「ははは! やっぱり女の子なんだから、ここは敏感なんだな!」
「あうぅぅ……」
「あの……。本当に止めなくて大丈夫ですか? その……さすがにこれはやり過ぎじゃないでしょうか?」
「……それもそうだな。おいポコ。何かわかったのか?」
エボニーはリルの服を捲りお腹の匂いを嗅いでいたポコを捕まえて尋ねた。
「ま、間違いないブヒ。彼女こそがさっきの心魔怪の生みの親だブヒ」
ポコは妙にうっとりとした顔をして、そう答えた。
「でも、さっき倒したからもう彼女の心の闇は晴れてると思うブヒ。そうじゃないなら、くすぐられてもここまで笑えないブヒよ」
「確かにな。でも何で彼女に心の闇が?」
エボニーが不思議そうな顔で言った。すると真太が一歩前に進んだ。
「それは……あの……僕が確かめます」
真太はリルの方に向かって歩き出した。
「ちょっ! 待て! まさかお前も行く気なのか!?」
エボニーは慌てて真太を呼び止めた。
「はい。記憶を読むには、手に触れないといけませんし……まぁ、そうなりますね……」
エボニーの咄嗟の問いに真太は苦笑いで答え、そして、ウィスタリアとポコがリルの全身をまさぐっている中へと自らも参戦した。
「くんくん……くんくん……」
「うりうりぃ~」
「きゃぁ! やめてくださいぃ!」
リルは体を捩らせて必死に逃れようとしていたが、しかしウィスタリアとポコは全く意にも介さず、むしろ興奮した様子でリルの体を調べ回っていた。エボニーは少なくともポコはもう匂いを嗅ぐ必要が無いんじゃないかと思っていたが、呆気に取られて何も言葉が出なかった。
「えっと、あの……ごめん」
「きゃぁ! 一体何を……!?」
申し訳なさそうにリルの手を取る真太。
「ほんとごめん。ちょっと調べたいことがあって……。少しだけ我慢してもらえたらな……」
「……んっ……お触りする際は一言声をかけていただけると……ひゃん……」
「うん。本当にすみません……」
真太は目を閉じた。その様子を見たポコがリルの元を離れると、ウィスタリアもリルから離れた。
「なんであの子をいきなりくすぐるなんてしたんだ?」
エボニーは呆れた表情を浮かべながらウィスタリアに尋ねた。
「だって……。リルちゃん……笑うと可愛いかなって……」
ウィスタリアは子供のように口を尖らせていた。その様子を見ていてエボニーは再びため息をついたが、
「ま、あの子を笑顔にしたいっていう気持ちはよくわかるぜ」
と言ってウィスタリアの頭を撫でた。すると、ウィスタリアは顔を赤らめながらも嬉しそうな顔を見せた。
一方、真太は、しばらくリルの手を持ったまま動かなかったが、しばらくすると、
「ぐああああああああああああああああ!」
頭を押さえて、激しく叫んだ。真太の声を聞いたウィスタリアたちはすぐに真太の元へ駆け寄った。リルも突然の真太の動きに目をぱちくりさせていた。
「どうしたの!? 大丈夫!?」
「大丈夫です……よ。これが、能力を使うときに来る反動です……ので」
真太はそう言うと、大きく深呼吸をした。
「でも、大体何があったのかはわかりました……」
そう言って、真太は話し始めた。
「リルちゃんのお母さんは……とても優秀な研究者だったようです……そして、魂壊竜を封印するための方法も、研究していたようです……ですが……それは……事実上……大勢の魔術師たちを犠牲にする方法だった……そして……結果的には魂壊竜を封印できましたが……お母さんは……自ら命を絶った……多くの魔術師たちと共に……だから……リルちゃんは……たくさんの人たちを犠牲にしたという罪悪感を抱き……その結果……心に闇を抱えた……というわけですね……」
真太の言葉を聞き終えると、エボニーとウィスタリアはすぐに口を開いた。
「なるほどね……。でもさ、そんなこと気にする必要ないと思うんだけどなぁ。だって、そのお陰で俺たちは今生きてるんだしさ!」
「そうだよ。それに、魂壊竜の封印方法はリルちゃんが考えたものじゃないし。お母さんたちが魂壊竜の封印方法を考えて無かったら、今頃この国は滅んでたかもしれないんだよ?」
二人の言葉を聞くと、リルは目に涙を浮かべながら、二人に向かって言った。
「どうして……あなたたちはそこまで優しくしてくれるんですか? 私は……人殺しですよ? 人を殺したんですよ? 人を殺してしまったんですよ!? なのに……なんでですか! 私が殺したのは魔術師だけじゃない! お母さんもなんだ! 私のせいで……私なんかのために死んでいったんだ! 私のせいだ! ……私のせいだ! うっ……うぅ……」
すると、ウィスタリアはリルに近づいて抱きしめて、優しい声で語りかけた。
「大丈夫だよ。私たちはあなたのことを責めたりしない。私たちがついてる。そうだよね?」
ウィスタリアの問いに、エボニーは黙って頷いた。真太も、ポコも同様に頷く。ウィスタリアの言葉を聞いたリルは、涙を流しながら、小さくありがとうと言った。そしてしばらく泣いた後、エボニーたちの話を聞き、何かあれば協力しますと言い、教会から出ていった。
それからというもの、エボニーたち一行は引き続き心魔怪に関しての情報を集めていた。しかし、めぼしい情報は無く困り果てていると、一人の少女が声をかけてきた。
「藤原……くん?」
「成海さん?」
真太は目の前の少女を見て驚いている様子だった。知り合いなのだろうか。
「やっぱり藤原くんだ! 久しぶりー!」
「久しぶりって……なんでここにいるの……?」
「えっとね、私もね、この世界に召喚されたの」
「へぇ、そうなんだ……」
「あ、そういえばさっき――」
少女がそう言った瞬間、真太は少女の腹を拳で殴りつけた。
「し、真太……?」
温厚に見えた真太の突然の暴挙に、エボニーとウィスタリアは言葉を失った。
「ぐふぉっ!! 藤原くん……なんで……?」
「僕にこんな事をさせるな。偽物。成海さんは……僕の事を真太くんと呼ぶはずだ」
「偽物なんてひどいよ……。私は本物なのに……」
「なら訊く。君は何人きょうだいだ?」
「お兄ちゃんと妹と弟がいるよ」
「違う」
真太は少女の顔を殴り飛ばした。
「ぐはぁ!!」
「そもそも君が一番上なはずだろう? お兄ちゃんなんてどこから出てくるんだ」
「そんな……酷いよ……」
「黙れ。お前が偽物である証拠が、それだ」
真太が怒りに満ちた表情で少女に言うと、少女は態度を一変させた。
「はーあ。やっぱりバレちゃうのね。あの子、きょうだい多すぎてややこしすぎるのよね」
「な……!」
エボニーは驚愕した。なぜなら目の前にいる少女の姿が、見る見る内に変わっていき――。
「久しぶり……って訳でも無いわね」
村に帰ってきたときに見た、謎の少女の姿になったのだから。
「やっぱり……幻なんかじゃ無かったんだな……!」
「まったくその通りだわ。せっかくいいエサが見つかったと思ったのに、行動力がありすぎるんだもの」
エボニーの言葉に対して、謎の少女はため息交じりでそう言った。
「お前は何者なんだ!?」
「ふぅん。随分と私のことが知りたいのね。なら教えてあげる。私は心魔怪の女王、ヨルン」
「なっ……」
エボニーは絶句した。
「そして、そこの彼らと同じように、地球から来た存在」
「……シンタを騙して傷つけたのも、お前ブヒね」
ポコが唸り声を上げながらヨルに言った。
「ええ。でもまさか、こんなところで生きているとはね。本当に驚いた」
「お前がここに飛ばしたんじゃないのか?」
必死に冷静さを保とうとしている真太が尋ねた。
「ううん。違うわ。流石に私にもそんな力は無いもの。きっとこの世界の誰かが呼んだんじゃない?」
でも、とヨルが続ける。
「そんなのはどうでもいいわ。あなたたちはこれから死ぬもの。もうすぐ死ぬ人間には関係のないことなの。それより、あなたたちはどうやって私を殺すつもりなのかしら。殺意剥き出しだから一応聞いておくのだけど」
ヨルは見下したような目で真太を見つめた。
真太は、目を逸らし、エボニーに耳打ちした。
「……逃げましょう。僕たちが勝てる相手じゃない」
「いや、でも……」
「エボニーさんが強い事はもうわかっています。だけど、こいつは……他の心魔怪とは訳が違う。多分、魂壊竜の次に強いと言ってもいいです。僕たちでは絶対に勝ち目がありません」
そこまで言うのか、と正直エボニーは目の前にいる心魔怪の女王のヨルンと名乗った少女を見て思った。だが確かに他の心魔怪とは明らかに持っている力が違うと感じる。ここは確かに……逃げるのが得策かもしれない。
そう思ってからは早かった。エボニーは無言で転移魔法を発動し、遠く離れた場所へとウィスタリアと真太とポコを連れて転移した。
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