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エボニーは辺りを見渡すと、誰かがこちらに走ってくるのが見えた。その人物はどんどん近づいてくる。
「ポコー! 大丈夫?」
「シンタ! 大丈夫ブヒよ」
現れたのは小柄で黒い髪を少し伸ばした中性的な顔立ちの少年だった。少年はポコと目が合った瞬間、ポコと抱き合った。
「よかったぁ……。心配させないでよぉ」
「ごめんブヒ。でもこの人が助けてくれたブヒ」
「えっと、あなたは?」
少年に尋ねられたため、エボニーは軽く息を吸った後、口を開いた。
「俺はエボニー。最強の魔術師だ!」
「エボニーかっこいー!」
エボニーは胸を張って言った。ウィスタリアはそれを聞いて隣でぴょんぴょん跳ねていた。
「僕は
藤原真太と名乗った少年は深々とお辞儀をした。
「フジワラシンタ……? 珍しい名前だな」
真太はそれを聞いて少し困り顔をした。そしてポコと軽く顔を合わせた後、エボニーに言った。
「はい……。信じてもらえるかわからないんですけど……実は僕たち、地球――この世界とは異なる世界から来たんです」
「地球……確かマゼンタ王女が行ってたっていう異世界だったか……?」
エボニーは腕を組みながら思い出していた。こんな事になるならもっと真面目に講義も受けておくんだったと少し後悔した。
「マゼンタ王女……? よくわかりませんが、とにかくこことは別の世界から来たんです」
「ってことは異世界人!? なんでこの世界に来たの!? どうやって!? 目的は!?」
エボニーが顎に手を当てて考えていると、ウィスタリアが凄い勢いで真太に尋ねていた。
「まず落ち着い――」
「落ち着いてられないよ!! だって別の世界だよ! どんな世界なの!? 食べ物とかはどうなってるの!? 魔法はあるのかな!?」
「えっと……魔法は無いですが、僕個人にはちょっとした能力があります」
「能力?」
ウィスタリアは興奮気味だったが、真太は落ち着いた様子で答えた。
「はい。僕は人の手に触れる事で、その人の記憶を見る事ができるんです」
「それってかなり高度な魔法じゃねえか!」
それを聞いてエボニーも興奮し目を輝かせた。この世界に魔法は数多くあるが、人の記憶や心に干渉できる魔法を使える人間は限られているし、そもそもそんな魔法を使えるような人間はこの国では全員自殺してしまったからだ。
「魔法……って言っていいのかどうかはわからないんですけど、この能力は使用するとかなり激しい頭痛を伴うので、普段使いはしないようにしています」
「じゃあ握手とかするとヤバいんだ!」
ウィスタリアがそう言って真太に手を差し出したが、真太は「ヤバいです」とそれをあしらった。
「なるほどなぁ。色々大変なんだな……」
エボニーがまた考えるポーズに入ると、真太は他の質問に答え始めた。
「僕たちがこの世界に来た理由なんですけど……正直、わからないんです。気づいたらここにいたって感じで……」
「でも、ブヒの偽物に真太がやられていたのを見て、そこからブヒね」
真太の言葉を受けてポコが続けた。
「ブヒたちは元の世界で強い心魔怪を見つけて倒そうとしたんブヒが、一瞬離れ離れになっちゃったんだブヒ。そしてブヒが再びシンタを見つけた時には、シンタの側には! なんと! ブヒの偽物がいたんだブヒ! そしてその偽物は心魔怪だったんだブヒ! でも真太はやられちゃったんだブヒ……ブヒもそこで意識を失って……」
「で、気づいたらここにいたと」
ウィスタリアが最後に纏めた。
「はい……そうなんです……僕としたことが……」
「そんなに落ち込むなって! 大丈夫だって! 根拠はないけど!」
エボニーが元気づけるように言う。
「ありがとうございます」
「ねぇ、それよりさ、これからどうするつもりなの?」
ウィスタリアがポコを撫でながら尋ねた。
「はい。心魔怪は人の心の闇。それがこの世界にもいるとわかった以上、僕たちは世界を回ってそれと戦いたいと思います。それに世界を回る事でこの世界についても知ることが出来ますしね」
「そっか……」
「他にやる事もないし、やれる事をやろうと思うブヒ」
真太に続いてポコが言った。
「だったら、俺も手伝うぜ!」
エボニーが力強く答えた。
「え!? 本当ですか? でも……」
「俺の事は心配するな。俺は最強の魔術師だから負けたりはしねぇよ! ダンケルヘイトっていうのも人間の闇が具現化した奴なんだろ? それならそいつを倒せばこの絶望に包まれた世界も変わるかもしれないしな」
エボニーはそう言ってニッコリ笑った。
「そういってくれるのなら……よろしくお願いします!」
「ああ、任せてくれ!」
エボニーは自信満々に胸を張った。
「なら私も行く!」
ウィスタリアも大きな声で言った。
「ウィス!?」
「私だって……魔法は使えないけど! 力になれる! と思う!」
「ウィス……マジ!?」
「マジだよ! それにもう……置いてけぼりにされたくないもん!」
「ウィス……」
エボニーとウィスタリアは顔を見合わせた。しばらくそうしているうちに、やがて二人とも笑顔になった。
「よし! 一緒に行こうぜ!」
エボニーが右手を差し出した。
「うん!」
ウィスタリアはその手をしっかりと握った。
「そうと決まれば早速、バー爺に言いにいかねえとな!」
エボニーは嬉しそうに言った。
「そうだね!」
こうして二人は家に向かって走り出した。
「あ! 待ってくださーい!」
真太が慌てて、それを追いかけた。
「バー爺! バー爺!」
「アンバー!」
家の扉を開けると同時にエボニーとウィスタリアが叫ぶ。
「何じゃ……。まあ、何が言いたいかは顔を見ればわかるんじゃが」
アンバーは優しい眼差しで、二人を見つめた。
「俺……心魔怪を倒すために旅に出る!」
「心魔怪……あの黒い影の事かの」
「ああ! 俺はあいつらを倒して、この国の人達の心にある悲しみとか苦しみとか……そういう心の闇を消していきたいんだ!」
エボニーは力強く言った。
「そうか。正直言うともう少しゆっくりしていけと言いたい。じゃが……行くのじゃろう?」
アンバーは微笑みながら聞いた。
「もちろんだぜ! バー爺! ウィスと一緒にな!」
エボニーは満面の笑みを浮かべて答えた。
「ふむ。なら、止めても無駄じゃのう。ウィスタリア。エボニーを頼んじゃぞ」
「もちろん! 任せてよ!」
「そこは逆じゃないのかよ!?」
エボニーが慌ててツッこんだ。
「えへへ。エボニー。私が守ってあげるから安心していいよ!」
ウィスタリアは得意げな顔で言った。
「まぁ……そこまで言うなら、頼りにしてるぜ!」
「うん!」
「それで、まずはどこに行くつもりじゃ?」
アンバーがエボニーに質問した。
「そうだな……まずはクィールに行ってみるかな。あそこなら港町だし、色々情報も手に入るかもしれないしな」
エボニーは顎に手を当てながら考えた後、答えを出した。
「クィール……。確か……まだ何とかギリギリで踏みとどまってる町だね」
ウィスタリアは不安そうな表情でエボニーを見た。
「大丈夫だって! 俺は最強の魔術師なんだからそんな心配しなくてもいいぜ!」
エボニーはウィスタリアの頭を優しくポンポン叩いた。そしてエボニーはウィスタリアの頭に置いた手を離すと、アンバーの方に向き直った。
「じゃ、行ってくるぜ、バー爺!」
「気をつけるのじゃよ。それと、わしはいつでもお前らの味方じゃからな」
「ああ、わかっているさ」
エボニーは笑顔で言うと、ウィスタリアと共に歩き出した。
「え、もう話終わったんですかー!?」
「待つブヒー!」
外で待っていた真太とポコも連れて。
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