第21話 (五月雨の過去)


(和灯)side


* * *



小学4年生の時、父母に虐待を受けていた。


父親から蹴られて、殴られて、

母親から罵倒され、

体中ボロボロだった。



いつも一人になれる公園に行くのが日課だった。


―――先に先客がいる。


ベンチに一人座っている女の人がいた。


「お姉さんどうしたの?」


「ん。ああ、大丈夫だ」


「お姉さん。気を付けてね。ここ治安悪いし」


その一言だけを残し、公園を散策した。


ブランコの近くにガラスの部品が落ちていた。

―――公園に落ちてるとか危ないし…

公園のごみ箱に捨てようとした時に思った。


―――殺せる……?


そしたらこの生活からも逃げ出せる。


そんな考えが浮かんだ。


「もう、何でもいいや」



ガッチャ


「おせーぞ⁉今まで何してやがった⁉」


家に帰ると、酒に酔った父がいた。

母は夜の仕事か、他の男の人の所。


「ごめんなさい」


「さっさと飯、用意しろ!!」


ガン


「いたっ」


おなかを殴られた。

殴るだけ殴ってすぐに酒を飲み、テレビに体を向けていた。


―――もういいや。


ポケットからガラスの破片を取った。


グサッ


「お前、何やってんだ⁉」


浅かったのか⁉

私が死んでしまう。そう父親の目を見て直感的に―――判った。


―――包丁は⁉

台所から包丁を取り出し、その包丁を父親に向けた。


「ふうっ、ふうっ、」


「俺に楯突く気か⁉⁉」


グサッ


「で、きた。はぁ、はぁ」


血が目に見えて少しだけ足がすくんだ。

けれどそんなことよりも、この生活が終わったという事に安堵していた。


「これからどこに行こう?」


ひとり呟いた。


「あの公園に行こう」



―――あのお姉さんまだいる。


「お姉さん何してるの?いつまでいる気?」


「ああ。昼間の。お嬢さんこそどうして?」


「…私の質問に答えてくれたら答える」


「ハハハッ。こりゃあ、気の強い嬢さんだ……なんとなくここにいるだけだよ」


ここは満月が美しい、そう言って、空を仰いだ。


「私は、父親を殺した。そう思っている、哀れな子」


「へえ。創造の話がうまいね?どんな感じに?」


「知らね」


ハハハッ、また笑って、


「君の家まで送らせておくれ。お嬢さん一人じゃあ、危ないからね」



「嬢ちゃん!!親父さん!!死んでるよ!!」


「え、」


家に帰ったらすぐに、大家さんに言われた。

知らないふりをした。

勿論、その為の準備もした。


「泥棒が入って、金目の物を探している時に見つかって殺されたんじゃないか?」


部屋を見せてもらうと、大荒れ。

そう仕向けたんだから。

洗ったばかりのハンカチを自分の手に被せて荒らしたんだから。


「ひどい!!」


そして盛大に泣く。


哀れな子供が完成。

ついでに、父親が暴力を振るっていたことも分かる。

一石二鳥!









「「え?」」


大家さんと私で驚いた。


「疑問が出てくるんッスよ。

 ①なぜ入れたか

 ②このガラスの破片はどこのものか」


「鍵は付いているんだし、窓を壊した時の音でわかるでしょ?

 もし鍵がすべて開いていたとします。けれど、面格子があって入れませんよね?

 ここ全部面格子があるから、入れるとこ、どこもないんですよ。

 そしたらドアからしかないんですよ」


「た、確かに!」


納得すんな!大家!最初の推理でいいんだよ!


「ガラスの破片も一体どこから?ガラスも割れていない」


私の正面に来て膝をついた。


「この人、働いているようには見えない。一体誰が一緒にいたんでしょうか?

 ねえ嬢さん。このお父さん、兄弟いる?」


「…縁切った、って言ってた」


「そ。…じゃあ、嬢ちゃんしか殺せないんだけど…どこにいたのかな?」


「嬢ちゃんは!みんなに可愛がられてた嬢ちゃんにそんな事出来ない!」


そう。。それでいい!


「警察は?」


「あ!まだ呼んでねえ!」


そう言って、大家さんは私たちから離れた。

どうしようか、警察にばれたら。

そう考えると、うつむくことしかできなかった。




プルルルル プ グッサ


「ぐわああっ」


大家さんの方から叫び声が聞こえた。


「っえ、」


私が目にしたのは、だった。

紛れもなく大家さんの顔だ。


「なんで…?」


「君が親父さん殺してるから隠してあげよ、って思ってね」


後ろから耳に息が掛かりそうな近さで言われた。


ビュン


「わ!すごい身体能力!」


今当たったと思ったのにっ!


一度しゃがんで、足を蹴ろうとしたら避けられたのだ。



「君が殺したのはわかってる」



満月を味方につけたような背景とともに、妖艶な笑みで手を差し伸べた。



「私と来るかい?」



「私は殺してない」


「んー。証拠があるんだけどな~?」


「だから私は殺してないって」


「お、口車に乗らなかったか」


ハハハッ、そう笑ってもう一度私に膝まづいた。


「それでは、私が欲しようか?

 君の居場所はもう私の手にある。



 


何か言いたかった。

別にあなたに求められなくても、


そう言いたかった、けど言えなかった。



「行く」



そう決めたんだ。


初めて自分で何かに応えられた気がしたんだ。





この後この人が殺し屋だってことを、


死見音だってことを、


母親になってくれた優しさにも触れた。




幸せを作ってくれた義母さんに。




最高の誕生日を。



きっと、


殺華先輩も居たらうれしいだろうけど、


無理だったみたいだ。



グロリオサを置いておく。

私から貴女に初めてあげた花。





花言葉―――「栄光、華麗」




私にとって貴女は永遠の光だ。


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