逃亡編

第20話

《五月雨》(和灯)side


「殺華先輩……」


呼びかけても、先輩の声は聞こえない。


「なんで居なくなるんですか、?」


「五月雨ちゃん?殺し屋には情は要らないんだよ?」


分かってるけど、

隣に置いてあった紙を手に取った。


こんな紙が欲しいんじゃない。


ただただ、嗚咽と共にどうしようもない感情を吐き続けた。


「なあ、五月雨ちゃん。殺華は自分で選んだんだ。好きなら、応援してあげなよ」


いやだ。そんな事を応援したくない。


「さ、つかせん、ぱい」




「弱いな」




私の心を深くえぐった。


「え?」


「弱いな、と言ったんだ



 日本に戻れ」


憎悪で満ち溢れた目だった。

今までの人とは到底思えなかった。

わざとだ、そう分かっていても体が全く動かなかった。


「今、あいつが居ない中、おまえは何ができる?泣き叫ぶこと?違うな。

 あいつを想うなら分かるだろ?あいつは何を望んでいる?」


殺華先輩は、


「強くなってほしい」


そう願っている。


わたしの瞳は死奇さんを捉えた。


「ん。それでこそ、殺華が認めた後輩、五月雨ちゃん」


―――不敵な笑み


ふっ、と笑う姿は母に似ていた。


「ありがとう」


母にも、死奇さんにも。



* * *


そして、旅の帰りを一人で過ごした。


「隣にいたはずなのに…」


予約を取っていた隣の席の座席に触れる。


「泣かない。涙はっ、殺華先輩と、会えた、時に、」


そう誓って、顔を上げた。




* * *


コンコンコン


「爺さん。久しぶり」


「五月雨か…」


「これ、私のペアの人から。《殺華》って人から」


「殺華とペアなのか⁉」


「殺華先輩のこと知ってるの?」


「もちろんじゃ。の耳に入っておるしのぉ」


「殺華先輩、凄いんだね。爺さんに知られているなんて」


私の爺さんは《じん磨軌まき》という。

ただ私が爺さんと慕っているだけだが、

なぜか爺さんはそれを気に入って私を孫のように可愛がってくれる。


私が自分自身で血の繋がった父親を殺したから、

殺し屋と関係をずるずると持ってしまった。



「ねえ、明日義母さんの誕生日、私墓参りに行くね?」


「儂もあいつに会わんと力も出ん。わしも行こうかのぉ」


「じゃあ、また電話するよ」


「楽しみにしておこうかのぉ」

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