第19話
《五月雨》(和灯)side
「何でもないよ?それより、五月雨ちゃん」
「何でしょうか?」
「君は、殺華が好き?」
この人は何を言っているのだろうか?
けれど、そう思ったのは一瞬だけで、それからは先輩のことを考えてしまった。
大好きです
この言葉を飲み込み、出てきた言葉は少なかった。
「先輩は、強いです。そして、」
ただ、そう言って私の瞳は殺華先輩を捉えた。
先輩が空港で向けてくれた
「酷く優しい。私の尊敬する人です」
伝えられない、好きという2文字を笑顔に隠した。
この人の記憶に、思い出に残れ、欲望まみれの笑顔を向けた。
先輩。
私は欲張りなんです。
《殺華》(陽友都)side
五月雨の瞳が俺を捉えた。
離さないと言わんばかりに、強く。
「酷く優しい。私の尊敬する人です」
そういう答えを望んだんじゃない。
俺は、
お前に、
好き
と言われたいだけなんだよ。
俺はお前が
ただ、
ただただ、
愛おしいんだ。
「嬉しいよ」
その返ししか出来なかった。
そっと、死奇さんが耳打ちした。
「こいつを突き放せ。お前のみ逃げ続けろ」
その選択しかないです。
今からは、俺の復讐です。
心の中で死奇さんに答えた。
俺自身にも誓った。
「五月雨、お前は日本に帰れ」
そう言って、扉の取っ手に手をかけた。
「え、?」
「俺は逃げ続ける。俺の復讐に巻き込めない」
「待ってください!復讐って母さんのことですか!?
私が復讐を依頼しました!だから、私の願いに従ってください!」
「依頼された覚えはない」
本当は自分でも五月雨と居たいのを分かっている。
けれど、俺はお前の前では格好良く居たいんだ。
ドタンッ
後ろを振り返ると、五月雨が倒れていた。
「は、?」
急いで、五月雨に近寄って脈と呼吸を確認した。
脈安定、呼吸乱れなし
「今のうちだぞ?殺華。気絶しているだけだ」
「い、まから、でま、す、」
こんな別れでいいのか?
何か一言言わなくていいのか?
こいつにも言いたい事があったんじゃないか?
そう思うと、歯切れの悪い返ししかできなかった。
「あの、何か紙を持ってますか?」
「ほらよ」
そう言って、机の上の引き出しからA4のプリントをくれた。
半分に切り、汚い文字で五月雨への置き手紙を書いた。
お前は期待の新人だ。そして、俺が育てた。
1人前になっとけ。
俺と会えた時、お前はどれだけ成長してるか楽しみだ。
お前の課題はポーカーフェイスだな。頑張れ
もう1枚の紙を協会へ渡せ。
殺華
そして半分は協会へ。
いつも競っては勝ったり負けたりで。
一死は出世を望んでた。
だから幹部の一員になった。
一死。俺はお前を信じてる。
俺のペアは使えない。
俺一人で逃げる。
捕まえられるなら、来いよ。返り討ちにしてやるよ
冷酷殺神斬より
これでいい。
俺一人で逃げ続け、復讐を成し遂げればいい。
横になっている五月雨の頬に触れた。
愛おしい。
今触れられることが奇跡なんだ。
殺しとか知らずに、普通に、出会っていたならば、
お前に好きと伝えただろう。
何度ふられようとも。
想いを伝えただろう。
それが出来ない環境が辛い。
優しく、華麗で、元気づけられて、礼儀正しくて、
けどどこか抜けていて、笑えて、幸せで。
大好きで、愛おしいんだ。
これだけ許してくれ。
そう思いながら、
手の甲と額に口付けた。
「ありがとうございました、死奇さん。五月雨、よろしくお願いします」
ガッチャ
これからは逃げ続けて、協会の奴らを
殺すだけだ。
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