第12話

和灯 子供時 side


ドンドンドンドンドン


幼かった私はその音に体を強張らせた。


玄関先で誰か男の人が言った。



『君のお義母さんは死んだよ。でね?』



あまりにも優しかった。その声が。


ドアスコープを覗くとたった一人だけだった。

ドアを叩いたのもこの人。


“変”


子供の私は言葉がうまく思い浮かべられ無かった。

今でもそれは同じだけど、あの時より、が理解した。


言葉では表せない。


“変わり様が……ぐちゃぐちゃする”



サングラスを付けて。

身長は高くて。

少し痩せていて。


それ以上に、


あの悪魔の様な笑みが。



頭から離れない。






こびり付いて、こびり付いて






『殺意』


少なからずこの人に抱いた感情だった。




この人を見つけるまで、




死なない。




嬢雨じょう》side


「あのよぉ、《死見音》って知ってるか?」


「は?」


仲間割れか?


今しかない。



ダァン




私の拳銃は女―――五月雨に向けていた。


「がっ」


あ…たっ…た。


私の拳銃が当たった。


太腿から血が出ている。


狙いは外れたが。



地下三階あいつ等に聞こえるといいな。



「命令!死ぬな!ここにっ!奴らがっ!―――」


ガッ


ああ。ここで死ぬのか。


「い、ま…までっ。ありっが、と」






“今までありがとう”




殺華さつか》(陽友都ひゆと)side




「殺ってやるよ」



* * *


拳銃で《五月雨和灯》が打たれた。


結局、銃持ちには何も聞けなかった。


だがそれ以上に、和灯が情報をくれた。


そして、チビが声を荒れげた時、すぐに物を投げた。


「死んだな」


当たる場所が悪かったのだろう。


そして、和灯に応急処置をしている時、


ドタドタドタ


「 じょ、う‼」


床に転がる仲間を見て青ざめた。


「嬢雨‼‼」


泣き叫んだ。

そしたら奴らは俺を殺しにかかってきた。


約50人。和灯を守りながらか。


少しきつい。が、ここで引いたら名が廃る。




「殺ってやるよ」




それが宣言であるかのように、殺し合いが始まった。



* * *


「20分弱か…」


ビュン


「お前、動いていいのか?てか、動けるのか?」


俺にものを投げたのは《五月雨》だった。


「それより、なぜ私の母の名を…?」


「死見音か、」


「だからっ!なぜ私の母の名を!」


「死見音は恩師だ」


「は?兄弟子?貴方が?」


俺が先に稽古を付けて貰ってるから…


「そういう事になるな」


「いや、あなたの年は30代とかじゃないんですか?」


「失礼だな」


俺は20だ。そう言い、《五月雨》―――和灯なおに説明しながら、あの瞬間を思い浮かべていた。





* * *




殺し屋全体で広がる謎の死。


それは、協会本部が全てを仕掛けていた。


それが分かった死見音と俺。

先陣を切って、協会本部に乗り込もうとしていた。


協会本部に乗り込むと、殺し屋らしき人達が巡回していた。


「私が先に乗り込む」


「やめろ。今行けば「死ぬ。そう言いたいんだろう?」


俺の言葉を遮り、放った言葉は『死ぬ』。


「じゃあ!今行くなよ!」


「それじゃあ、遅い」


「何で!」


「義娘が居るって言っただろう?私も守りたいんだ」


その笑顔は、殺し屋としてではなく、子どもを持つ一人の母としての笑顔だった。


「会えなくなるぞ」


その言葉は最後の警告でもあった。


「いい。今ここで全てを終われば」


「臭いこと言うなよ」


「私の合図があるまで待て」


そう言って、本当に一人で行ってしまった。


死ぬな。




死ぬな。死ぬな。死ぬな。死ぬな。死ぬな。死ぬな。死ぬな。死ぬな。

死ぬな。死ぬな。死ぬな。死ぬな。死ぬな。死ぬな。死ぬな。死ぬな。





何度願ったことだろうか。




プルルルル


プルルルル プルルルル


プルルルル プルルルル




突然の呼び出し用携帯が鳴って驚いた。


「もしもし」


『本部に来い』


ブチッ プーップーッ


「あ、りえない、よな?死見音。しんで、なんかないもんな、いつも通り俺に話しかけてくれるよな…」


嗚咽を吐いた。


その空間が耐えられなかった。


静かで、




誰もいなくて、





あの孤独に戻った、









死見音。





また、








帰ってきて、








笑ってくれるよな?





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