第1章・7

 おっと、話を戻さないと。

 

「アナタ方が何をしたいのか、わたしにはなんとなく分かります。ですが、そんなことよりも早くどうにかして鉄道を開通させたいところなのですが」

「おや、魔法使いが、それも大統領の親族がそんなことを言っていいのか?」

「ダメでしょうね」


 わたしは、彼を見る。

 強く、彼を見る。


「応援はしません。でも否定もしません。わたしにだって世界の行く末はわかりませんから」

「ふん」


 ホヅディルさんは、鼻を鳴らした。

 その音は、なんだか笑っているようにも聞こえた。


「ねえ、訳の分かんない話ばっかしてないで、さっさとやろうぜ。こんなとこに座ってないでさ」

「ユール、お前はこんな時間も座ってらんねえのかよ」

「つまんないんだよ、さっさと行こう。んで、さっさと工事を始めようぜ、オヤジ」


 男勝りな口調も相まって、父親に遊びをねだる子どものようだった。

 何か楽しみを放っておけない子ども。

 それがユールにとっては、機械いじりであり、工事なのだろう。


「じゃあ、さっさと行くぞ。エディル、ゼンダル、足りてなかった資材を外に運び出しておいてくれ」

『おいさ』


 そこからの指示は的確だった。

 二人のドワーフが大きな資材を外に運び出しているうちに、他の人間たちが仕事道具をまとめる。また何人かで食料を雑多に籠に積んでいく。わたしも何か手伝おうと思ったのだが、そこに入る隙間は無かった。

 まとめ終わった荷物は、かなりの量になった。

 大きな荷車が二つ分。これを運ぶだけでも大変なはず。


「じゃあ、ジャルジュル、よろしく。ゼンダルもな」


 ジャルジュルという声で反応したのは、この中の誰でもない。この部屋の外にいた男だった。いや、男ではあるのだが、正確には巨人である。座っているだけでこの工場の屋根よりも大きな巨人。

 さっき入り口の上の窓に映った影は、彼だったのか。

 背丈はわたしたちの5倍はある。

 頑丈そうな巨体は、引き締まっていて、浅黒く毛深い。

 彼らはドワーフの山を越えた、更なる北方の深い山に生きる者たちだ。ドワーフの山を越えた先は寒く、生き物は何もかもが大きい。そんな中で適応した彼らは、平均して我々の5倍の背丈を持つ。

 そして、彼らよりもさらに大きな獣の毛皮を着込んでいると聞いていたのだけど、彼の上半身は裸だった。たしかに彼らの国と比べれば、ここは暑いのかもしれない。


「任せてくれ、オヤカタ」


 大きく、ゆっくりとした声だった。それに微妙ななまりもある。


「あと、先回りも頼む。ゼンダルを肩に乗せて走っても、馬よりも早いはずだ」

「ああ、わかッた。ゼンダルさん、乗ってクレ」


 老ドワーフが肩に乗ると、巨人はすぐに走り出した。

 狭い道を、うまく掻い潜って抜けていく。

 わたしたちは、素早い移動のためには、馬に乗るしかない。

 けれど、巨人の長い手足の走りは、馬のそれとは比べものにならない。あっという間に、巨人の姿は見えなくなってしまった。


「さて、俺らも行くぞ」

「ところで、どこに行くんです?」

「バーカ」


 またユールだった。

 わたし、怒りをなんとか抑え込む。


「出発点は、南の端に決まっているだろ? 最短距離で進むんだ」

「そうか。じゃあ、南街ですね」


 都市の南は、商業の盛んな地区だ。

 ますはそこに向かうらしい。

 ホヅディルさんは、小さな乗合馬車を止めて、さっさとそれに乗り込む。

 わたしとユールがそれに続く。

 乗り込む前に、ふと目が合った。なんか、また睨まれた。

 なじめる気がしないよ。


「俺たちはな」とホヅディルさんは説明を続ける。「南門近くに、小さな出城を作ることを後々提案している。今はまだ掘立小屋になっているけどな」

「それがどうして必要なんですか?」とわたし。

「そこが駅に成るんだってよ」


 彼女は言う。


「駅?」

「ああ、機関車の道の基地となる場所さ」


 ユールは言う。

 さっきまでとは違い、楽しそうだ。

 面白いものを見つけた女の子のように。

 聞いたことのないその単語に、わたしもなんだかとてもワクワクした。

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