第13話 何もない世界

 自分の体も五感そのものも何も感じない。

 ただ意識というのがそこにある感覚。

 真っ白い空間が無数に広がり続けている。

 

【ここは何もない世界。そして君の世界。君は知っているかい生命の体には1つの星があり、その星には神がいる】


「どういう意味なんだ。なんだこの感覚、言葉が頭の中に流れていく感じだ」


【その通り、僕は君、君は僕】


「君が俺なのか?」


【違うかもしれないと思うのもまた正しい、そして僕は君の中にいる神だ】


「僕の中に神? まず説明してくれ」


【それも僕の仕事だね、君の中にいる神が僕なのだから、うんうん、まず宇宙ってわかる?】


「この大陸は球体になっていて、その球体の遥か上に行くと空気もなにもない空間にでて、そこが宇宙だろ」


【その通り、その宇宙には無数の星があるだろう】


「ああ、あるね」


【あれの1つ1つが生命1つ1つの世界、つまり星なんだ。その星々には神々がいて、1人1つの神となる。生命が朽ちれば、魂は神と融合して流れ星となる】


「つまり人が死ぬと神と融合して星が消えるって事ね」


【その通り、普通は意識しないうちに進ものだが、君は例外だ】


「それは僕がバカだからか、神様の呪いを受けたからか」


【それも1つだ。だが君はバカじゃない、フレンダイサーという勇敢なる男だ。君は神々の遊びに巻き込まれて、また箱舟を起動させてという同じサイクルをやるつもりではないだろう】


「あ、ああ」


【君はフレンダイサーだ。君はバカ姫ことレイファを愛してしまっているのだろう】


「そんなにまっすぐに言わなくても」


【何をいうか、お前のハートがレイファにぞっこんなのは分かっているのだ】


「まぁ、そんなところだ。ガキの頃だったかな、あいつがいると元気になる自分に気付いた。いくら雑魚と呼ばれても、レイファが笑ってくれた。そうだな、レイファを助けたい。神々の遊びで殺されるのなんて嫌だ」


【なら生き返ればいい】


「できるのか?」


【この何もない世界、つまり君の星を破壊しろ】


「そんな事をしたら僕は死ぬんじゃ」


【星とは神だ】


「それは……まさか」


【僕の命を君にあげる】


「そんなのもらえないよ」


【僕は君そのものだ。そして僕はなくならない、人間半分神半分になるだけだ。君は星を破壊して融合するんだ】


「で、出来るのか」


【星を破壊して星の欠片で体を再構築してくんだ。何もない世界に君の体が誕生する。さぁ、集中してレイファが君をまっている】


 ゆっくりと呼吸をイメージする五感がまったくないので集中する事がとても難しい。

 頭の中で星をイメージしても何もない世界に浸食されて意識がなくなっていく。

 そんな中で唯一消える事がなかったのがレイファという女性だった。

 沢山の思い出を浮かべると、星が形をつくる。

 連鎖のように星が橋を繋いでいく。

 橋と橋が繋がり、星と縫われていく。


 次の瞬間、内側から爆発するように、四方八方に星の欠片が吹き飛ぶ。

 星を何もない世界にイメージする事に成功し、それを爆発させる事にも成功する。

 俺の中にいる神が消滅する。

 それは俺自身の神だった。 

 神々の遊びとほざいている神様達ではなかった。


 星の欠片は形を作り出す。

 何もない世界に無数にはびこる星の欠片。

 まるで鳥のように飛翔し、形を再構築していく。

 凝縮され圧迫されていく。

 そこに立っていたのはまぎれもなく俺だった。


 俺は一度消滅した。

 しかし半分が人間で半分が神になる事で、俺は蘇る。


 五感のない俺はその体に五感が宿るのを感じた。

 次の瞬間には体の中にいた。

 ゆっくりと右腕と左腕を動かす。 

 右手と左手をグーパーする。

 両手で空間に手を突っ込む。


 激しいスパークする音。

 空間そのものを斬り裂く。

 眩しい光が俺の体を覆う。

 

 そこに立った瞬間、自分が死んだ場所だと悟る。

 チェロロスの背中が見えた。

 ギルドマスターの老師は窓から外を見ていた。 

 とても余裕そうだ。


「レイファさん、逃げないでくださいよ、フレンダイサー君は死にましたよ、体が消滅したのは謎でしたがね」


「あ、俺の事か」


 その場が一瞬で凍り付いた。 

 本当に凍り付いたかのように停止したチェロロス。

 チェロロスとレイファ、チェロロスと俺との距離はほぼ同じ。

 

 彼はゆっくりと後ろを振り返る。 

 もちろんギルドマスターの長老も窓から視線をずらしてこちらを見る。

 ギルドマスターは腰を抜かして尻餅をついている。

 チェロロスは眉間に皺をよせてこちらを必死な形相で見ている。


「おおお、おまえ、お前どういうことだ、なんで死んでないんだよ」

「ああ、死んだよ、蘇っただけだ」


「ふ、ふざけるな、あ、ありえない、ありえないぞおおおお」


 チェロロスは透明で見えない透明な剣と盾を構えているようだ。


「もう一回殺してやりますね」


 先程までチェロロスは驚きっぱなしであったが、今はとても冷静そうにしていた。


 俺は散歩するかのように歩きだした。


【久しぶりだね君、俺は僕、本神の神の声じゃなくて、君の中にいる神だ。僕は君にいくつかの力の使い方を伝授できる。まず【絶望の声】を発動させるといい】


「とりあえず絶望の声と」


【四方10メートルの範囲ないにある意図したものの耐久を強制的に変更する事が出来ます。もちろん0にする事も出来ます】


「なら【人間殺し】の剣や盾を耐久0にする」

 

 チェロロスは意味の分からない顔をしていた。

 奴の顔が真っ青に歪む、先程までの余裕はなくなり、必死であたりを探している。


「う、うそだああああ。人間殺しの剣と盾が全部消滅したああああ」


【おめでとうございます。レベルが55718になりました。100個の人間殺しの剣と盾が消滅しました】


 何気に100個も操作していたのだろう、尋常じゃない集中力がいるはずだ。

 伊達にレベル90という訳ではなさそうだ。


 ギルドマスターの老師に続いてチェロロスまでもが腰を抜かしていた。

 俺はゆっくりと一歩一歩チェロロスに近づいていく。

 右手で触れようとする。

 別に絶望の声で消してやってもいい、だけどこいつは自分の手で消滅させたかった。


 その時扉が乱暴に開かれた。

 そこに立っていたのは苦行のランラと神秘のメアとアルフレッドであった。


「若様、ご無事ですか」

「フレンダイサーお前、なに若様に尻餅つかせてる」

「お前説明しろ」


 この三名が俺の事をののしる。

 片っ端から消滅させてしまうのもいいが、それはやってはいけない事だと自分自身ながらに納得していた。

 レイファはぶるぶると震えて優しい目でこちらを見ていた。


「レイファいくぞ」


「おい、まて」


 尻餅ついているギルドマスターの老師とチェロロスは放心状態であり、アルフレッドの呼び声を無視して俺とレイファはギルドマスターの部屋から出た。


「まずこの村と街から出ると、逃げ続ける。お前は俺が守る」


 レイファは無言だった。

 でもその瞳には希望の光のようなものが輝いていた。


「おいおい、どこいくんだい」

「そこの女を渡してもらおうか」

「ここで2人とも殺してもいいぜ」

「ぎゃはははは」


 冒険者ギルドの外に出た瞬間に数えきれない人間達が集まっていた。

 

【絶望の声は1日に1回しか使えないからな】


「了解だ。レイファおんぶさせてくれ」


「私は結構おもたいぞ」


「それでも俺は強くなったから安心してよ」


「まったく君はどこまでも成長するね」


「君ほどじゃないさ」


「「「何をちちくりあってるんだ」」」


 無数の冒険者達がレイファを殺してレベル1億になる事を夢見ている。

 チェロロスという若様の話によればレベル1億になるという事は神になるという事らしい。


 レイファの温もりを背中で感じて、地面を蹴り上げた。

 

【【スキル:空気飛び】を使用する事をお勧めする。何度でも空気を飛ぶことが出来る】


 俺は空気を蹴り上げてさらに飛び上がる。

 

「あ、あいつ空気を階段のように飛びやがった!」


 地上から大勢の冒険者が空に逃げていく俺を見ながら悔しがっている。

 俺はその光景をジャンプしながら地上を見る事で理解した。


 ひたすら空気飛びを続けて、どこか分からない辺境の湖に辿り着いた。

 湖の真ん中には巨大な島のようなものがある。1万人は生活出来るくらいの広さだと思う。


 力がまだ残っていたので湖の真ん中にある巨大な島にたどりついて俺は力尽きた。

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