第12話 謀

 俺とレイファの眼の前にチェロロス貴族とギルドマスターの老師がいた。

 こちらを見てギルドマスターが深く頷く。


「先程、受付嬢から聞いたと思うがお主はS級冒険者になったおめでとう、そしてこの大貴族であられるチェロロス様がフレンダイサー君に用があるそうじゃ」


 俺の全身に嫌な感じが漂い始めた。

 全身から何かを警告しているような気配だ。

 眼の前の大貴族、通称若様は口元をにんまりと微笑みかけている。


 隣のレイファも何かを感じたようだ。


「君がフレンダイサー君か神々も恐ろしい遊びをするものだ。さてレイファ君をよこしてもらえないかなぁ」


 その殺気に俺とレイファは頭がかゆくなった。

 

「それは無理です。レイファをどうするつもりなんですか」


「それはもちろん殺してあげるのさ、レベル1億は魅力的だ。その力があれば私事としては神になれるのだから、聞いたことはないかね、レベル1億になると神様になれると」


「聞いたことはありませんよ」

「そうか、それは残念だ。君の配下に3000人以上の英雄達の配下がいるそうじゃないか、あれははったりかね? どこにもいないじゃないか、まったく君がめちゃくちゃ強いというのは目撃情報から知っているが、それも何かしらの条件下のものだろう、君を鑑定しても????としか表示されないのも君が特殊な力をつかっているからで、3000人の配下のおかげで、魔王と竜王の大軍を倒してきたのだろう、はったりもはなはなしいわ、まぁ、私事としてはとても慎重でね、確実にそこのレイファという娘を私事が殺さないといけないのさ、ギルドマスターよ眼の前の冒険者2名を殺害しても罪には問ませんね?」


 チェロロスはとてつもなく長いセリフを口から吐き出した。

 途中から俺とレイファの耳では受け止める事ができず、あくびと頭をぽりぽりと掻いていた。


「はい、チェロロス様のおっしゃる通り、沢山の村と街と国が壊滅しているのはこの2人のせいです。それもふまえて、チェロロス様がこの2人を殺害してもなんら問題はありませぬ」


「よろしいよろしい、では、私事がお相手いたそう」


 俺はとりあえずチェロロス(通称若様)をもう一度鑑定した。

 次はレベルやステータスを意識して。

 レベルは90であったし、人間ならとても強い部類にはいるだろう。

 ステータスは色々な加護が沢山ある程度だった。

 彼は右手と左手を構えた。

 それは明らかに剣と盾を掴むポーズであった。

 と言う事は透明な剣と盾と言う事だろう。


「この武器は【人間殺し】と呼ばれている。人間を確実に殺す為の武器だ」


「あれはまずいぞ」


 そう発言したのは幼いドラゴンのペラーであった。


「まったく君は我が物になる予定だったのに部下の至らぬ失態だな」


「僕はフレンダイサーと友達になれてよかったんだ。お前なんかのペットにはならないよ」


「安心してくれていい、そこの2人を殺したら、次は君だドラゴンの子供よ」


 俺はペラーに問いかける。


「つまり、あの透明な剣の斬撃を浴びなければいいのだろう、ペラー」

「その通りだ。一撃必殺の武器だと思ってくれ」


「了解だ。レイファは後ろにいろ」

「後頼むよ」


 チェロロスは不気味なほほ笑みを永遠と浮かべている。

 こいつはレベル1億になって神様になりたいらしい。

 こんな奴が神様になったら色々と問題が起きそうで少し嫌だ。

 一撃必殺の攻撃に対応するのは、斬撃を振るわせなければいい。


 心の中に意識を集中させ【全神達人】のスキルをイメージしている。

 このスキルはこの世界にある全ての武術の達人になる事が出来る。

 100万通りの武術でもってチェロロスを再起不能にする方法をイメージしていく。


 あらゆる攻撃パターンがイメージの中だけで繰り返される。

 数万通りの攻撃パターンが成功するイメージをキャッチし、次の瞬間には体が自動的に動いていた。


 次の瞬間で倒れているのはチェロロスのはずであった。

 しかしそこに倒れていたのは俺であった。

 口から大量の血を吐血する。

 早すぎるスピードは俺の体をギルドマスターの部屋の壁に叩きつけた。

 

「誰が、誰が【人間殺し】の剣が1本だけと言った」


 その言葉を聞きようやく理解した。

 あいつは空中に剣を浮かばせていたのだ。

 それは念力のような力のようだ。

 数は分からないが、すごい量の【人間殺し】の剣だったのだろう。

 俺の体は深く斬り刻まれている。


 レベル差を補うのはチート武具のようだ。

 意識が暗闇に入っていく中で、頭の奥深くでぽつりと水滴が落ちる音が響いた。

 ここで死ねばレイファが死ぬ。

 俺は自分が死ぬ事は許せる。

 自己犠牲なのかもしれないが、俺以外の大事な人が死ぬ事だけは納得できない。


「さて、レイファさん、私事に殺されるのだ、私事は神様となりこの世界を統治してやろうではないか」


 レイファの声は聞こえない。

 

 ぽちゃんとまた頭の奥深くで水滴が落下する音が聞こえる。


【おめでとうございます自分自身の耐久が0になりました。ヒットポイントも0になりましたので消滅します】


 どうやら【人間殺し】の武器には耐久を0にする力もあるようだ。

 てか俺は死体にならず消滅するんかいと突っ込むと。


【ようこそ【何もない世界】へ】


 油断なんてしてなかった。

 それは言い訳にしかならなかった。

 それでもそれでも、悔しかった。

 結局とんでもないレベルになったのに、騙しうちで死ぬ運命。

 ああ、なんてむなしいのだろう。


 死後の世界はきらきらと光っていなかった。

 何もない世界だった。



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