第7話 八咫烏

 20人構成の山賊討伐ptは太陽がまだ昼を告げている間に出発した。


「まったく八咫烏ってのはそんなにやばいんかいな」

「一応Aランクの山賊で、全員がAランク以上の50名って話だ」

「それが本当なら相当やばいぜ、こっちはBランクとAランクの構成ptだ」

「あの姉妹を忘れちゃいけねーぜ、神秘のメアと苦行のランラをな、彼女達はSランクだ」

「へぇ、あのかわいらしい少女達がね」

「あまり話しかけないほうがいい、あれでも貴族だ、打ち首にされるぞ」

「まったく、だから貴族は苦手なんだよ、その貴族様が八咫烏に何の用かね」

「八咫烏は貴族から何かを盗んだらしい、話によるとドラゴンの卵をな」

「そりゃすげーな」

「しかもエンペラードラゴンの卵らしい」

「八咫烏もとんでもないものを盗んだな」

「それもそうだと思うぜ、まったく」


 貴族5名に冒険者が15名といった所だろう。

 そのうちの2名が神秘のメアと苦行のランラ。

 神秘のメアの瞳は白目であったし、杖もそれなりのものだろう。

 一方で苦行のランラは首に無数のとげを指している。

 まるで苦行を負うことで強くなってるようだ。


「まぁ、俺には関係ないがね」


 俺は八咫烏さえ滅ぼせればいい。

 そうしないとレイファが危ない。

 あとは国をつぶさないといけねーしな。

 俺は一般人が聞いたら気絶しても文句の言えない事を考え始めていた。

 ちなみに貴族以外みんな歩きとされている。

 

 貴族と同じ高さにいることが許されないとかで、冒険者全員が歩行にさせられた。

 おそらく貴族達でほとんど討伐するつもりで、俺達冒険者は囮のようなものなのだろう。


 平原を歩き続けていると、途中で坂道地帯に入るようになり、灰色の山々が見えてきた。ひたすら山道を歩いていると。

 

「まぁそうなるわな」


 四方を囲まれていた。

 こっちは山からまる見えだったにちがいない。

 それも貴族達の戦略なのだろうけど。


 四方より矢が飛来する。

 冒険者達はそれぞれ盾やら防具で矢を防ぐ。

 だが俺は防具もなければ盾もない、いわゆる服以外なにもないのだ。


「ぎゃああああ、なんかイケメンの人が全身にいいい」


 隣にいた冒険者が俺の全身に突き刺さる矢を見ていたのだろうけど。


「はぁ、なんか日増しに呪いつよくなってるよな」


 これは神呪いの書の3ページ目の呪いで【攻撃されたら相手のもろもろの耐久が減る】


 というものだ。


「まぁ矢じゃなかったら死んでたな」


 俺の全身に突き刺さった矢は俺の体を貫く前に耐久が0になって消滅していたのだから。


「あ、え、えええええええ」


「うるさい黙ってろ」


 俺が威圧をかけると、俺の無敵効果を目撃した冒険者は黙った。


【おめでとうございます。レベルが3612になりました。矢の耐久が0になったので消滅します】

【おめでとうございます。レベルが3613になりました。矢の耐久が0になったので消滅します】

【おめでとうございます。レベルが3614になりました。矢の耐久が0になったので消滅します】


「ふう、レベルが3あがっちまったぜ。まぁいいや」


 あたりを見回すとそこには50名ほどの八咫烏の山賊達がいた。

 彼等は八咫烏というカラスみたいな鳥の文様が入ったマントを着用している。

 山の険しい道をすいすいと走ってくる。

 八咫烏が山賊なだけあると思いつつも。冒険者達はすぐに迎撃モードに切り替わった。


 冒険者と八咫烏が戦闘を繰り広げる中で、貴族の5名も圧倒的な力で八咫烏のメンバーを倒していった。

 特に神秘のメアの氷魔法が恐ろしい程精錬されており、山賊を氷漬けにしてしまい、その氷漬けになった山賊の体を吹き飛ばすのが苦行のランラだった。


 二人とも美人だけとてつもない力を秘めていた。


「まったく、ここまで想定内だとおもしろすぎるんぇえ」


 その声は山の上のほうで腕組みしている男から放たれた言葉だった。

 その両方にはむきむきの男性が2名いた。

 

 3名を鑑定すると。


【リンキンパック:レベル70:八咫烏の頭】

【デスドン:レベル60:副官】

【ラスドン:レベル60:副官】


 レベルからしてSランク級の冒険者である事が分かった。

 デスドンというマッチョとラスドンというマッチョは歩く災害のように走り出した。

 

 山そのものが振動する。

 岩が無数に落下し大勢の冒険者達を苦しめ、足止めされてしまう。

 貴族と冒険者達が分断された時、まるで空を飛ぶように、ふわっと貴族達の前に着地したリンキンパック。

 彼はにこやかに微笑んだ。


「このドラゴンの卵は囮で、本当の目的はあなた達貴族達です。奴隷商人があなたたちを多額のお金で売買している事を知らないのですか?」


「黙れ、山賊、あの卵は我々貴族のものだ」

「だから言っているでしょう、神秘のメアさん、僕の目的はあなたたちの身体を奴隷商人に売るという事です。貴族は高く売れるんですよ、下品な大人や変な趣味をもってるやつらにね」


「リンキンパック覚悟、苦行のランラやって」

「まかせろメア」


 苦行のランラの身体は細めだと言っていいだろう、しかしその右手と左手に宿るパワーは測りしれない、それだけ彼女がどれだけの苦行をうけたのか、恐ろしくて想像できない。


「ランラさん、あなたの身体は売り物なんであまり動かないでください」


 リンキンパックは見た目からして魔術師系統が得意な分類化と思われた。

 しかしそれは違った。


「最強のバフとはね、最強な魔力に宿るんですよ」


 リンキンパックの右手と左手がほんのりと光始めた。

 それは右手と左手にパワーを底上げするバフ魔法をかけたようだ。


「ランラ離れて」

「うん、メア」


「だが離れません」


 どうやらメアが氷魔法を炸裂させようとしたのだろう、その為にはランラを離れさせる必要があった。

 しかし八咫烏のリーダーであるリンキンパックは右足と左足にスピードを上げるバフ魔法を展開したようだ。


 俊敏に動き回るランラを追尾するリンキンパック。

 もちろんメアは氷魔法を炸裂させる事が出来ない。


「あ、これいいんですか」


 リンキンパックは懐から大きな卵を取り出すと、思いっ切り投げた。

 貴族達は絶望の声をあげた。

 なぜかその卵は俺の頭に直撃したわけだが。


「いつつつつつ」


 俺の手元にはなぜかエンペラードラゴンの卵があり。

 その卵は少しずつひび割れてきた。

 心臓が高鳴った。

 いや色々な意味で高鳴った。

 卵が割れると小さなドラゴンの子供が出てきた。

 そいつはこちらを見るといやらしい笑顔を浮かべた。


「待っていたぞ人間、お主が来るのをひしひしと待っていた。神に呪われた哀れでちんちくりんな人間よ、特別サービスで次はドラゴンの呪いにかかってもらおう」


「は?」


 突如生れたドラゴンの子供がすらすらと人語を話す。

 なぜか神に呪われた俺を待っていてくれたらしい、それはありがとう。

 さらにサービスでドラゴンの呪って。


「いらねーわぼけ」

「もう遅いわぼけ」

「うそーん」

「どうした呪いだぞ喜べ」

「喜べるか、本だけで呪いは十分だ」

「あっちの神には悪いがお前を独占するのは僕の呪だ」

【それは看過できないと神様が暴れています。ひとつの惑星が滅びました】

「ほらー呪の神さまだっておこってるぞ、てか惑星って、世界そのものをほろぼしたんか」

「いいではないか、いいではないか、このドラゴン呪いだっていいもんだぞ」

【神様は提案します。ドラゴンの呪と本の呪を併用してはと】

「いいねそれ」

「俺抜きで話をすすめるなあああ」

【エンペラードラゴンいやゴッドドラゴンよそこの馬鹿を一緒に幸せにしましょうと神さまが笑いました】

「だな」

「てめーらがやってる事は俺を不幸せにしてんだよ」


【ドラゴンの呪:殺した生物を使役する事が出来る】


「以外と普通の呪だな」

「いらないやつも使役するから呪なのかもな」

「なるほど、確かに……」


 こちらを見ていた1人の貴族がこちらに話しかけてきた。


「な、なんという事だエンペラードラゴンが孵ってしまった。若様に献上するはずが、そこのものドラゴンをこちらに渡してくれんか」

「いやです」


「貴族に逆らうのか」


「あ、いえ、俺が言ったんじゃなくてこいつです」

「はじめまして、エンペラードラゴンのドラゴンで」


「な、なぜ言葉を」

「そりゃゴッドですから」


「はぁ? もういい、そのドラゴンを殺してくれよう、メアとランラ、こいつを殺せその主人になったこの人間もな」


「はぁ、やっぱこうなるのね」


 俺はゆっくりとドラゴンの赤子を地面においた。

 よーく見ると黒と白のまざった灰色のとても美しいドラゴンの赤子だなと思った。


「まぁお前なら楽勝だろう」

「お前今日からペラーね」

「ふ、悪くない名前だ」


「とりあえずさーそこの八咫烏ファミリーと貴族達まとめてお仕置きしてやんよ」


 

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