23.『目覚め』の時

「シルク! 風魔法だ! さっき言った通り私を飛ばせ!」

「『生命の息吹』!」


 シルクが杖を横へと振れば『かつて木漏れ日と共にこの世の生命を育んだ風』が吹く。

『イルマさんを飛ばせ!』というシルクの伝手の通り、それはイルマの身体を巻き取り、そのまま勢い良く天へと飛翔させた。


「シャアアアアアッ!」

「ハアアアアアアッ!」


『かかって来い』と言わんばかりの蛇竜に対し、イルマは『その竜を穿て!』と槍に思いを伝えながら振り下ろす。

 すると、鎧に仕込まれていた防御魔法と同様に、その槍に仕込まれた『雷魔法』がその思いに答える様に発動する。

 高出力の雷魔法。槍の切先が蛇竜の頭へと直撃する寸前に、放たれた雷撃はその一撃の威力を更に高めた。

 筈だった──、


「ッッぐううううううッ!」


 やはり蛇竜には魔法への耐性、それを跳ね返す特性があるのか、いくら一撃を押し込もうにもままならず、雷撃を纏う切っ先は体表の直前で停止し、そこから反発する力に押し返されていた。

 しかしイルマはそれに抗う様に槍を押し込み続ける。


「まだ……! まだだッ! シルク! 雷魔法を私に直撃させろ!」

「んえッ!? イルマさんに当てるんですか!?」

「そうだ! 思い切り当てろ!」

「杖の都合上威力は低いけどそこは勘弁ッ!『天恵の雷』!」


 シルクは『あの無謀な女にその雷を当ててやれ!』と、天上へと杖を掲げ振り下ろす。

 放たれた神の恵み、原初の木漏れ日のその更に原点である天恵の雷は、イルマへと落下した。


「コレで……どうだッ!」

「ギシャアアアアアッ!」


 蛇竜にも余裕があると言う訳では無い。

『どうせはただの槍であろう』と高を括っていれば、槍が直撃する寸前に発動された『直撃すれば自身の弱点』である雷魔法には恐れを隠せず、それを跳ね返そうと力を込め、対してイルマは力を込め、そこへ更にシルクの魔法の援護も加わり『これ程までの攻撃が頭に直撃すれば唯じゃ済まないだろう』と、力を競り合う状況にまで発展している訳だ。

 先ほどの様に『一度吸収し、体内を循環させ跳ね返す事は出来る』故に、蛇竜がそれを跳ね返す為にはその分の魔力リソースや集中力を裂かなければならず……つまり、今はイルマとシルクの合わせ技である渾身の一撃を耐え凌ぐために必死なのである。


「シャアアアアッ」

「あぐ……ぐぐぐ……ッ! シルク! もう一度だ!」

「シャアアアアアアアアッ!」


 凌ぎを削る両者、落とされる雷撃。だが──、


『マズイ……そろそろ力が……!』


 と、イルマの力が少し弱まった途端。


「ッシャアアアアアア!」


『待ってました』と言わんばかりに蛇竜は力を一気に込めた。


「──ッ!」


 その隙を付かれたと言わんばかりに、イルマの体は槍と共に突き飛ばされ──、


「シャアアアアアッ!」

「ッガアアアアアアアッ!」


 イルマの体に、跳ね返された電魔法が直撃した。


「イルマさんッ!」


 ボンッ。と鎧に仕込まれた防御魔法は電撃の負荷に耐え切れず爆散し、煙に包まれたイルマは湖面へと落下して行く。

 そして水面へと着水。唖然とする空気の中、高さと鎧を着た彼女の重さで、その水しぶきは音を当てて大きく巻き上がった。


「ギシャアアアアッ!」

「……あ」


 そして、次はお前達だと言わんばかりに、口を開いた蛇竜の頭がシルク達の元へと迫った。


『貰った』


 蛇竜はその口でシルクを嚙み砕かんと彼女を自身の口に収めようとした時──、


「──!」


 紅一閃の一太刀が、蛇竜の大きな口を横へと割いた。


「シャアアアアアッ!」


 血を吹き出しながら痛みに悶え、身を引く蛇竜。そしてその視線には、一人の少女が大きな剣を片手で振り上げ直立していた。


「──ゴメンみんな、おそくなっちゃった」


 蛇竜の生き血を啜ったその刀身は、まるで臓物の様に蠕動ぜんどうする赤い輝きを放っていた。


 それは正しく生血啜りの魔剣であり、それを今握るのは、その新たな持ち主であった。


『生血啜りの勇者‟プレタ・グライナー”』は、そこに目覚めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る