22. 今、再び『懺悔』を

「どう?」

「……なんなのよ、コレ……」


 溢れ出る涙が、私が彼女だったという事の何よりの証明だった。


「コレがアナタの前世、アナタが魔剣の力を得るための試練であり、勇者である証拠でも前世記憶の全てよ」

「そんな……ッぐ……」

「思い出した? あなたがどうやって前世を生きてきて、どうやって死んだのか?」


 なんて趣味の悪い質問に、私が返したのはただ一つの答えだけだった。


「…………うん」


 ただの平凡な、ちょっと胸が無いだけの一般女性。

 ただたまたま、己が欲で受けた手術の事故で死んでしまった可愛そうな人。

 それが私、プレタ・グライナ―の前世、檜前由衣菜という女性の人生だった。


「どう? まだこの世界にいたい?」

「……帰りたい、帰らせて! まだ私! やり残したことがあるの!」

「でしょうね。でも、解っていると思うけど『死んだから』ここにいるのよ。死んだから、今のアナタがいるの、つまり──、」

「こんなゲームみたいな世界に輪廻転生したのに、漫画みたいな経験してるのに、生き返る事なんてできないって事?」

「……そういうことよ」

「なにそれ……」


 身が震える。恐怖や怒りなんかじゃない、もっと単調な悲しみに似たものが理由だった。


「どうするの? 剣を握って戦い抜くか、それともこのまま死ぬか」

「死んだらどうなるの?」

「私にもわからないわ、しいて言えば、アナタのこの記憶が来世に受け継がれるくらいね」

「……死んでも元の世界には帰れないの?」

「さぁ、私でも分らないけど、きっと無理でしょうね」

「……」


 かつての私の様に、このまま塞ぎ込んでしまいたい。

 なにも考えないで、ずっと、このまま、最後まで生きていたい。


「言い方を変えるわ、アナタは、プレタ・グライナ―? それともヒノマエユイカ? どっちでありたい?」


 けど、それは前世の私がしていた事だ。


『今は違う』


 だとしたら、質問の答えはただ一つだけ──、


「私はプレタ……! プレタ・グライナーだ! 母親譲りの桃色の髪と、父親譲りの銀色の瞳が特徴的で! 身長と顔付きはいたって普通の少女だ!」


 そう。

 私は私。

 たとえ前世の記憶が残っていても。

 前世に名残惜しい事があったとしても。

 プレタは、プレタなのだ。


「このまま前世に後悔し続けるくらいなら! 前世の思いに殺されるくらいなら! 私は今を生きるよ! だからその力を、魔剣を私に貸して!」

「……いいえ、貸し借りなんかじゃないわ、コレはもう、あなたの力よ」

「……え?」


 重みを感じ、視線を合わせた私の手には、既にその剣が握られていた。


「プレタ・グライナ―、アナタをダインスレイヴ・マァニの使い手であり、その持ち主として認めましょう」

「私の……力?」

「そうね、時間が無いし、使い方はアナタの勘に任せるわ。前世の記憶がよみがえった今なら、ゲームとかの知識である程度は何とかわかるでしょ? 幸いにもちょっとはゲームと世界観似てるし」

「え、ちょっと待って! なん──!」


 視線を担い手に向けた頃には、既に彼女のその美しい姿は、溢れる光と共にうっすらと消えかかっていた。

 そしてそれは私も同様で、彼女と同じ様に体が小さな光の粒子に分解され消えて行く。


「血に汚された湖の魔剣。生を啜り、死を生み出す力。確かそっちの世界だと、ランスロットだっけ? が握ってた剣がベースだったはずよ、女好きな所とか、アナタにぴったりだと思うわ」

「待って! まだ聞きたい事だって沢山あるのに! まだ名前すら知らないのに!」

「じゃあ、私の名前より大事な事を教えてあげる──、」


 私の意識が戻る感覚と同時に、その最後の一言が聞こえた。


「前世のアナタは事故で死んだんじゃない、人に殺されたのよ。しかも、あの偽りの勇者、リンダ・ハーモニアの前世にね──、」

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