16.『赤錆』の大剣

「何……ここ」


 洞窟とは思えない様な大きな空間。

 その中心、というか部屋全体に広がっているのは何かって? そう! まさかの湖! 超きれい! 天上の光も相まってめっちゃ幻想的!


「急にそんな走ってどうしたんですかプレタさ──、てなんここ! めっちゃキレイ! すご!」

「確かに綺麗では一体この場所は……」


 私の直ぐ後ろに追いついたシルクとイルマも、その光景を見て心を奪われる。


「ってか、この光、なんなの……」


 先程から目を奪う光は一体何なのだと見上げれば、そこには天井一面に散りばめられた光を放つ魔石ませきが綺羅星が如く輝いていた。


「ま、魔石です! しかもあの輝きのがあんなにも!」

「すげー、アレ売ったらいくらになるんだろ」

「私の勘が『そうじゃなぁ、戦湯付きの宿を借り続けても困らんのぉ』と言っとります!」

「マジか! イルマ! 昨日みたいに大ジャンプして取ってよ! パーティの資金にしよう!」

「はぁ……二人とも気を抜きすぎだ。それに、私の技でもあの高さにまで飛ぶのは無理だ」

「「えー」」

「えー、じゃない」

「「はーい」」


 改めて辺りを見渡せば、不思議が過ぎる場所である。

 森の地下にこうした空間が広がっているというのにも驚きを隠せないし、何よりあの魔石が光り輝く事で照らされたこの部屋に一体何があるのかというのがまた不思議だ。


「で、イルマ、どうなの?」

「わからない」

「え?」

「恐らくあの天井にばら撒かれた魔石のせいだろう、魔力というのは生命が起源であり、魔石は魔物が死した際に余った魔力が結晶化した物だ。シルクが持つ杖に付いたものもそうではあるが、その数も純度も違い過ぎる。あの天井に散りばめられた魔石の全てから、まるで今も生きている魔物と同じ生命を感じ、そして何より──」

「歪んでるって?」

「──ああ、あのすべてが『歪んでいる』……私自身で話している間にもあの光の正体が掴めて来たが、あれはきっと石内に孕んだ魔力より生命力の純度が高すぎるが故に放たれる光、魔法使いが魔法を行使する際に身体の表面へうっすらと光が浮かび上がる物と同じ物だ。確かに美麗ではあるが、魔石の性質としては歪んでいるな」

「……イルマが今までに感じていた生命とその歪みってのは、今ココの部屋の天井一面に散りばめられた魔石が原因かも知れないって事?」

「そうだと楽でいいのだが……」


 イルマがこの天井一面の魔石を察知しているとしたら、果たして昨日のあの土蛇が私達の元に来たことと、森から魔物の気配が全くと言って無いのは一体どうしてだ?


「あの! アレを見てください!」

「……ん?」

「どうした?」

「真ん中のアレです! アレ!」と、シルクが指を差す先にあったのは──、

「なんだあれ? 剣?」

「剣だな、それもなかなかに大きい」


 湖面の中央、これまた不思議と創り上げられた小さな陸地の上に、一本の剣が生身のままに地面へと突き刺さっていた。


「渡ってみます?」

「どう、イルマ?」

「何か分かるかもしれない、行ってみる価値はありそうだが、どう渡る?」

「湖の割にはめちゃくちゃ浅いっぽいので、足元さえ気を付ければ大丈夫そうです!」

「だってさ」

「なら行こう、この明るさと湖の透け具合と浅さなら、途中で堀が深くならない限りは足元を確認するのであればトーチでも十分そうだ。もしそうなれば引き返そう」

「「りょーかい!」」


 私達は湖に身体を膝まで浸らせ、その中心にある小島の上へと向かう。


「うげー、自分から言っててなんですけど、足だけ濡れるのめちゃくちゃ気持ち悪いです……」

「「我慢しなさい」」

「二人にそう言われたらそうするしか無いじゃ無いですかー、まぁいいですけど」


 しかし本当に浅い。

 刺さっている剣の事も考えると、一体何のためにこの場所があるのかが余計に不思議に思えてくる。


「よいしょっ……と、シルク、手ぇ貸しな」

「ありがとうございます!」


 私達はその小島にたどり着き、よじ登り、その剣へと近寄った。


「うお、遠くで見たから気にしなかったけど、意外と大きいしめちゃくちゃサビてるね」

「そうですね、大きいしめちゃくちゃサビてますね」

「それなりに振りがいがありそうだが、めちゃくちゃサビてるな」


 三人揃ってほとんど同じ感想。だが、実際にそうなのだ。

 地面へと生身のまま突き刺さった大剣はその剣身どころか柄の隅々までもが、赤錆に包まれていた。


「見るからに片刃の剣だが、この大きさであれば恐らくは大剣だ。肩に担いで使う前提で鍛造されたのだろう」

「うへー、この状態で私の首元までの大きさがあるなら、抜けばどれくらい……」

「じゃあ、ひっこぬいてみちゃうか?」


 と、私は両手をその剣の柄に触れさせた。


「どうせ抜けませ──、あれ? プレタさん?」

「どうした! プレタ!」


 どうしたって、ちょっと力入れただけ──、え?


「プレタ! オイ! プレタ!」

「プレタさん! 大丈夫ですか!」


 何で、声出無いの? 私、いつの間に地面に膝を突いて──、力が、入らない──。


「……! ……!」

「……!」


 だめだ、声も聞こえなくなって来た……なんで……。

 やがて朦朧とし始めた意識に私という物は飲まれて行き、その瀬戸際に少女の声が聞こえて来た。


『──あら珍しい、前世が異世界の記憶を持った人間なんて初めてよ』

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