15.『タイニー・ドレイク』の洞窟
「にしても、案外何にも来ないもんだね」
「ですね……」
やはり魔王の支配から解放され敵意を示さなくなったからか、魔物が攻撃を仕掛けてくるどころか、それ以前に見かける事も無いのだ。
「おかしい……段々と感じ取れる物に近寄ってはいるのだが……」
「その大物は兎も角、他の魔物はどうなのさ? まったく見かけないけど?」
「この森から離れている……と言うのが正しいか? まるでこの森から逃げたかの様に、その大きな歪みだけが一つ残っているんだ」
「まさか、この森にはその大物以外魔物がいないって言うんじゃ……」
「そういうことだ」
「マジで!?」
「マジだ……ん、いやまて、アレはなんだ?」
森の中を縦に並んで葉や枝木を手でかき分けて進む中、先頭に立っていたイルマが何かを見つけた。
「ぷげっ!」と、立ち止まった私の背に顔をぶつけたシルクが声を上げる。
「痛い……ちょうど防具の金具の所が
「これって……洞窟?」
「その様だが、こんな所にあるというのは初耳だな……」
「ちょっとくらい心配して欲しかったですが、どれどれ……って、ホントにいきなり洞窟ですね」
草木を分けて小山の様に大きく盛り上がった土壌と、そこに空いた大きな穴。
一見は何か大きな生物の巣にも見えるその洞窟へ近寄って見てみれば、下へと下り道が続いている用で、明かりの入り切らない奥は見えないが、その暗闇先に何かがあるというのは、イルマのせわしない様子を見るからに見て取れた。
「ねぇ、イルマ?」
「ああ、この先に例の奴がいるかもしれない」
「ですよねー……で、どうする?」
「行こう、トーチを準備してくれ」
「がってん! シルク! トーチ!」
「あいあいさー!」と、シルクは背に背負った鞄からあらかじめ準備していたトーチを取り出し、私とイルマにそれぞれ手渡す。
トーチの先端に巻き付けた油をしみ込ませた布にそれぞれが火打ち石で火を着け、それを片手に持って洞窟の中へと入って行く。
「いつ例の親玉が現れるか分からない、心しておけ」
「……ねぇイルマ」
「なんだ?」
「その親玉も大事だけど、さっきからイルマの方が私達の親玉っぽいんだけど?」
「何を言っている、私達の強張った気を和ませてくれているプレタの方が、私からすればよっぽどらしいぞ」
「そうなのかなぁ……そうだとしたら、荷物持ちをしてるシルクはしっかり子分らしいかな?」
「私自身お荷物みたいな所もありますからね! ちょっと不服ですけど仕方ありません!」
「だってさ、じゃあ、イルマは私を守る用心棒かな?」
「用心棒……うん、悪くない響きだ」
「いいなー、私だって魔法を使えれば主砲とかそんな感じの立ち位置にいられるんですけどー」
「主砲て……アンタ一体何になりたいの」
「もちろん! 頼れる魔法使いです!」
「くれぐれも私やプレタを巻き込まないでくれよ」
「わかってます!」
そうして暗がりを突き進んで行くと、土から変わって堅い岩盤へと洞窟内の形質が変わって行く事に気づく。
「石ばっかり……って事は、ココは少なくとも土蛇の巣とは違うって事じゃない?」
「どうやらそうらしい……となると、私が感じる物の正体は何だ?」
「まさか昨日会ったアレより大きい奴とかじゃ無いですよね……」
「だといいな」と、イルマが曲がり角を曲がった途端。
「……ッ!? 二人とも足を止めろ!!」
「「……!」」
そのイルマの大声が、一瞬にして私とシルクの体の強張りを最高潮にまで引き上げた。
「何だアレは……いや、アレがこの歪みの正体なのか……?」
「イルマ! どうしたの!」
「ま、まままっ魔物ですか?! 何時でもかかってきてください!」
「いいや、魔物ではない……のか? とにかく来てみてくれ」
イルマに言われる通り、私達もイルマが向かった曲がり角の先へと向かう。
「うッわ! 何ですかアレ!」
「明るい……地上と繋がってるの?」
「いや、あの色からしてアレは日の光が差したという訳では無い様だ……そうだとしても青すぎる……」
私達の視線の先、そこには洞窟の中だと言うのにあまりにも明るい、一筋の青い光があった。
恐らくは大きな空間から私達の歩む道へと差し込む光は、その怪しさの中に私を誘い込む様な好奇心を擽る何かを孕んでいた。
「行ってみよう……」
「待てプレタ! 先頭は私が──!」
「あああ! 待ってくださいプレタさん!」
私はその何かに気を取られ、気が付くまでも無く、道幅が広くなったことを良い事に、イルマより前を出てその光が差し込む先へと向かった。
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