14. 『歪みの森』へいざ参ろう!

 翌朝。

 宿から出た私達は先日向かった農園の裏手にある森へと向かう事にした。

 私達があれだけ酷い目に遭ったにもかかわらず、ベルの街中は未だにお祭り騒ぎで、普段は年中無休二十四時間営業の冒険者ギルドも臨時休業中であり、パーティ結成の登録や、先日の一件に関する情報集めも一切出来ない状態だった。


「どうやら魔王討伐後に魔物に襲われた人間は、私達の様なごく一部の物好きに限られるらしいな」

「そうらしいね……」

「ですね……」

「あまりこの事は口にしない方が身の為かもしれないな」

「下手に騒いで反逆罪扱いされても嫌だしな」

「私、この歳で監獄区行なんて絶対に嫌です」


『勇者が魔王を討伐しそこなった』なんてことを言えば、憲兵が飛んできて私達はお縄だろうし、私としてもを信じたい。

 今日も朝から喧騒で溢れるベルの街から私達は今日も農園の方面へと向かう。


「にしても、こうやって原っぱを歩いてるだけでも敵意を示してくる魔物と合わないって、なんか新鮮だねー」

「そうですね、わたしもこうして歩いて魔物と出会う度に魔力切れを起こさないかビクビクしてました……」

「そう考えると魔法使いは大変そうだな、私やプレタは剣や槍で何とかなるが、その杖では心もとないだろ」

「いや、この杖は確かに武器ですけど、そんな殴打する様な使い方をする様な武器じゃありませんから……」

「じゃあ、いざって時はどうするんだ?」

「杖で殴ります──! あ……!」

「結局殴打するような使い方してるじゃんか……」


 なんて事を三人で話しながらとぼとぼと歩き続け、農園の近くにまで辿り着く。

 農園がある方向にも勿論、イルマが言っていた森が見えるのだが、何と言ってもその大きさは地上を歩く私達には計り知れない物で、恐らくは、ここから先は確実に別地帯と言っても良い程の大きさがあると見て取れた。


「こんなデカイ森の中にホントにいるの?」

「ああ、今にもその歪み切った生命を感じる」

「そんなにヤバい感じ?」

「ああ、どの魔物よりも感じたことが無い歪みの大きさを感じるとも」


 そのイルマが感じ取れる『生命の歪み』という物は、その感覚が備え切っていない私とシルクには感じ取る事ができない。しかし、森が近づけば近づく程だんだんと眉をしかめて行くイルマの顔を見れば、間接的であってもその森の中に身を隠す存在がどれ程の物かが分かる。

 やがて土蛇から私達を助けた際に魅せたあの清々しそうな顔と比較し、一風変わって怒りに満ちた表情へと変貌したイルマの顔を見た私とシルクは少し身が震えた。


「あの……イルマさん、顔が……」

「ああ、すまない、どうも顔が強張ってしまってだな。いつまた土蛇の様な存在が姿を見せるかもわからないし、兜を被るとするか……」


 イルマが槍に引っかけていた厳つい形の兜を手に取り、次に頭へと覆わせた頃には。街の中や宿で見た彼女とは程遠い、鎧の厳つさや彼女の身長も相まって、たとえ中身を知っていたとしても見ているだけで身体が重くなるような近寄り難い存在がそこにいた。


「……さぁ、行くぞ」

「ああ!」

「行きましょう!」


 そうして私達は、イルマを先頭に森の中へと足を踏み込んで行った。

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