11. 少女は見た! 『覗きの魔(物)』を!
お父さんへ、お母さんへ、お元気ですか?
そして神よ、日々をいかがお過ごしでしょうか?
私は元気です──、主に心中にある私のイチモツがねッ!
「(ふんふんふふーん……)」
私は神への讃美歌を鼻で歌いながら、浴室の外側からイルマがいる浴室を覗き見ようと、その背を伸ばしていた。
『一緒に入るのがダメなら、覗き見をすれば良いじゃない!』という考えに至ったのは、あまりの心のショックで嘔吐し、その拍子で酔いが醒めてからだった。
先ほど浴室を見た際に部屋に小窓があるのを知っていたので、私はイルマが風呂に入るタイミングを見計らい、私が背を伸ばしてやっと目が届く高さにある小窓から覗く事にしたという訳だった。
「(さて……私の計算が正しかったら、イルマの背丈は高いからその上半身が見やすい筈……)」
と、イルマが浴室に入るのを文字通り首を長くして待っていると──、
「(あ、なんだよ、もう先客が来てるのかよー)」
そんな男の声が後ろから聞こえた。
「──ッ!」
私は慌てて後ろを振り向き身構えると、そこには私と同じ慎重程の大きな鼻が特徴的な男が立っていた。
酒を飲んでいたのだろうか、酒気を浴びた顔は赤く火照り、そうして腫物の様になってしまった大きな鼻からは待ちきれんとばかりに荒くなった鼻息が溢れ出て来ていた。
つまり『同業者』である。
「(おいおい、そんな顔するなって……俺達はお互い覗きに来たんだろ……? もし揉めたらバレちまうし、憲兵にもバレたら俺たちゃ監獄区行きだぜ?)」
私の前世の記憶に『赤信号、皆で渡れば怖くない』という言葉があった。
確か『一線を越える事でも、一人ではなく、皆でやれば怖くは無い』という意味を含んだ言葉だった。
「(じゃあ、一緒にどうぞ)」
その言葉を思い出し、私はその男と共に覗きを──!
「(わかってるじゃねぇか! 兄ちゃん! それでこそ男の──」
「誰が男だああああああああッ!」
「ぶげらあああああああああっ!」
おっといけないッ♡ 乙女の右手が容赦なく相手の顔面に飛んで行っちゃった♡
男は体を回転させながら、その衝撃で茂みへと吹っ飛んで行った。
「その声! プレタか!」
覗こうとしていた浴室からイルマの声が聞こえて来る。
恐らくはタイミング良く、その事が外で起きている時に入ろうとしていたのだろう。
「助けてイルマ! 魔物がいた!」
「魔物!? こんな所にか!?」
「覗きの魔物がいたの! 助けて~っ!」
「わ、分かった! とりあえず服を着てシルクと共にそっちへ行くぞ!」
「早くー!」
******
覗き魔、もとい、覗きの魔物の件から暫くして──、
「──で、覗きが怖いので、一緒に入って欲しいと?」
「そういう事だ、ほら見ろこの顔を、酷く脅えているぞ……」
覗きが怖いという理由を口実に、私は念願の裸の付き合いをする事に成功した訳だ。が──、
「まったく、仕方ないですね……ちょっと狭いですけど、私は後でもう一度入るとしますし、良いでしょう」
「そうだな……それに、案外こうして三人で湯船につかるのも悪くは無い……少し狭いが、な?」
「ですね、にしても、プレタさんの体が震えてますね……そんなに怖いことがあったんですか? 大丈夫ですか?」
違うんよ、そうじゃないんよ。
「ハハハハ、ダイジョウブ」
狭い湯船の中、私はその二人に挟まれていた。
右にはシルク、左にはイルマと、嫌でも目に入って来るそれに私は圧倒され。
「ハハハハ……」
その虚しさに、心に傷が付いていたのだった。
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