6.『油断大敵』はすぐ側に

「ええッ!? アルケル村って! あのアルケル村ですか!」

「うん、あの勇者の生まれ故郷のアルケル村」

「はぇー」


チマチマと頼まれた仕事をこなしながら私が話すのは、“シルク・ペーパーウッド”という魔法使いの少女だった。


「じゃあ、あの人と同じ歳って事は──!」

「うん、会った事もあるし、遊んだこともある」

「わあああ! すごいです! 感激です! 握手してください!」

「なんで私……?」

「何となくです!」


 仕方なく私はシルクの手を取る。

 彼女の歳は私より二つ下で、冒険暦がまだ半年ほど、出身はベルの街の近郊よりさらに離れた場所にある田舎村らしく、都会慣れしていないその性格には若干の天然っぽさがある。が、それを置いて何より私が特徴としたいのはこの可愛らしさだ。両手で木の実を持った姿とか正に愛玩小動物! ンンンンッ素晴らしい!


「ところで、プレタさんは一体どうして冒険者に?」

「ああ、それ聞いちゃう?」

「あ、すみません……もしかして聞いちゃダメなやつでした?」

「いいや、ただちょっと複雑な事情で──」


 と、私はシルクに記憶の事と冒険者になった理由を伝えた。


「──って、訳なんだけど」

「なるほど、世の中には不思議な事もあるもんですね」

「意外と質素な反応だね……」

「魔法使いとしては、それくらいの不思議は織り込み済みです」

「そうなんだ……で、シルクはどうして冒険者に?」

「私ですか? 私は──」


 彼女の前世の記憶は自身が魔法使いだったという事と、その時の知識のみで、他はこれっぽちも受け継がれていなかった。

 しかしその分、彼女は魔法使いとしての腕に秀でていて、将来は勇者のパーティに入れて貰える様な一流の魔法使いを目指して、適年になった彼女は半年前に満を持して冒険者として冒険を始めたらしいが──、


「ご覧の通りですよ……」

「……ドンマイ」

「ええ……好きなだけ言ってくれやがれください……」


『なんて可愛そうな娘っ……!』と思わず同情したくなって来る。

 私と違って冒険意義が魔物の討伐実勢依存なだけあって、境遇としては私よりは残念な目に遭っているのだろう。


「にしても、前世からの魔法使いかー(通りで歳の割にデカい訳だ)」

「え? 今なんか言いました?」

「いいや『魔法が使えるのがうらやましいなー』って」

「ええ? 使えないんですか?」

「いやほら……その……まぁ、触ってみ?」


 私は胸元を差し出す。


「えっと……」

「別に女の子だし、いいから、ほら」

「……はい」


 シルクは恐る恐る。その小さな手で私の胸を優しく触ると──、


「え”、え”え”え”え”え”え”っ”!”?”」と眼をかっ開いて驚嘆した。

「どう?」

「な”、ななななななんという虚無ッ!?」

「ハハハハ、昔っからこうでさ……魔法、これっぽちも使えないんだよね」


 この世界で前世の記憶の次に重要な事。


 それは『胸の大きさで、体に蓄えられる魔力の多さが変わる』という事だった。


 故に胸の大きさは、魔法を扱う事にも関わって来るし、女性冒険者と言えば、魔法使い等の魔法を扱う事を主にした役職に就くのが一般的であり、逆に胸に実りの無い男性冒険者は、その逆の戦士職などの筋力を重視した役職に就くのが一般的であった。

 一方で、私はそこらの男冒険者よりも胸板という物が無く、女性なのに魔法が一つも使えないという欠点を抱えていながらも、小さいころからの父の手伝いで身に着いた筋力を頼りに、冒険を続けて今に至るまで盾戦士としての役職に就いているのであった。


「それに胸当てとかも、特注の奴じゃないと男用は大きすぎて使えないし、女用は胸元がスカスカでしっくりこないのよねー」

「な、なんと……」

「ま、最初はちょっと悔しかったけど、別に今は納得して気にしたもんじゃないし『なんなら前線なら任せろ!』って感じ!」

「そのポジティブシンキングが私にもほしい……ッ!」

「まぁ、それももうお役御免って感じなんだけどね」

「ですよね……」


 冒険者という物に抱いていた感情をしんみりと振り返る。


「なんか、二年間も続けてるのに、未だに自分の前世の事、これっぽちも解ってないなって……」

「私も、まだ半年で低位階級の魔物しか倒してません……」

「もっと冒険したかったなぁ……」

「もっと魔法使いたかったなぁ……」

「ねぇ、シルク」

「なんですか?」

「このまま二人でここで暮らして、私の前世を一緒に探ったりとかどう?」

「そうですね……考えときます」

「てかさ、シルク」

「なんですか?」

「今思ったけど、別に前世の事探るのも魔法行使するのもさ、別に冒険者じゃなくてもできるんじゃね? 私は適当に職探して、シルクは魔法執行官とかになれば勇者の護衛にも就けるようになるんじゃね……?」

「そうですね……」

「……」

「……」


「「それだあああ!」」と、感極まった私達は木の実の入った木籠を地面に置いた。


「どうしてこんな簡単な事に気づかなかったんだ!」

「そうですよ! 別に魔法使うくらいなら他の事で使えばいいじゃないですか!」

「そうだよ! もとから冒険者になる理由なんて──」


 と、感極まりお互いに抱き合っていると、傍の地面がモゴモゴと大きく盛り上がった。アハハ、モグラかな?

 しかし、盛り上がりが最高潮に達したかと思えば、そこから大きな影を飛び出させ、その影の主は浮かれ切っている私達をその大きな巨体から見下ろした。


「「え──?」」


 モグラなんて可愛い物じゃない、見るからに大きい、巨大な土蛇クレイ・スネイク

 人里離れた場所にある畑や洞窟などで多く発見、遭遇するとされるその準上位階級のは、正しく私達が此度の依頼を受けた時にその討伐対象とされていた魔物であり、なによりその魔物からは私でも分るほどの、ありとあらゆる邪気というものが放たれていた。

 そう──、魔王が勇者に討伐され、もう自身らを襲う魔物はいないと浮かれ切った私達冒険者の目の前に、を奪わんとばかりに、は姿を現したのだった。


「「ギィエ”エ”エ”エ”エ”エ”ッ”!?!?」」





tips:胸が大きければ大きい程、強力な魔法を扱う事ができるぞ!

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