3.『記憶』という冒険意義
私の知る限りでは『この広大な世界で生まれる、生きとし生けるすべての生命は、前世の記憶を曖昧ながら持って生まれる物』だった。
例えば──、
私の父と母は、前世で多人数の仲間と共にこの世界を冒険し、その最中で魔王の引き起こした厄災に遭いまみえ、命を落としたらしい。
『好き同士』だった互いの気持ちを伝える事無く命尽きた二人はやがて生まれ変わり、その曖昧な記憶のみが今世に残った。
成長した父と母はその記憶を頼りに、お互いに『互いを探す為の冒険』を始め、やがてはお互いを見つけ、前世越しに互いの気持ちを伝えて、今に至る訳だ。
と──、この世界で冒険者として冒険をする者には、大体はこうした前世のやり残しや思い残しを解消する為に、冒険をする者が多かった。
その一方で、こうして引き継がれた記憶は、得意な例を除いては誰もが鮮明な記憶を持っている物では無かった。必ず、少し靄がかかっている記憶だけが引き継がれ、思い出す事が出来るのだ。
それが人々が祝福と呼ぶ『竜の呪い』という物であり、世界に生きとし生ける生命は、その呪いを受け入れていた。
え? 私の『前世の記憶』はどうなのかって?
そりゃ、もちろんある。けれど私の場合、その記憶が文字通り『この世の物では無かった』のだ。
巨大な鉄の柱が背を並べ、その中を群れをなして走る鉄の牛と、巨大な鉄の蛇の腹の中に乗り、移動手段として扱う人々達、そして上を鉄の翼を持つ鳥が空を羽ばたく様。
そんな、現実ですらあり得る筈も無い記憶が、私が持って生まれた前世の記憶だった。
最初はこれが私の前世の記憶だとは思えなかった。なんなら夢だとも思っていた。
けれど生きているうちに、その夢だと思っていた物が、皆が揃いも揃って持つ前世の記憶だという事が解り、私はその事実に困惑していた。
私の前世は特異な物だったのだろう。前世の最後の記憶は……身体が雷に打たれたように、身体じゅうに電撃が走って、肉が焼け焦げて死んだ。と、まるで神の天罰でも受けたかのような前世の最後に、その来世である私が、思わず『どうか安らかに眠れ』と頭を下げてしてしまう程だった。
だからこそ、私はその原因も含めて、自分の前世が、果たして何者だったのかを知りたかった。前世から私に引き継がれた記憶が鮮明な物では無かったからこそ、十五歳の私は、その答えを求める為の冒険へと旅立ったのであった。
そして二年後──、
「遂に魔王が勇者様に討伐されたぞー!」
「「勇者様! ばんざーい!」」
そんな歓声が街中を飛び交う様に、 辺りは『魔王が死んだ事』でお祭り騒ぎだった。
……。
なんで……?
tips:『竜の呪い』には個人差がある。
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