1.私という『人間』
N.A.1536年 6月23日
「プレタ! 大丈夫か!」
「プレタさん! 早く起きてください!」
洞窟の最深部。大きな空間に不思議と造り上げられた大きな湖。
恐らくは魔法の類であろう光が天井から降り注ぐ空間の中、その腰程までしかない深さの湖の中心にある小さな陸地の上に、三人の冒険者がいた。
一人は、大きな長槍を両手に持ち、紺色の鎧に身を包んだ群青色の髪の女騎士。
二人目は、大きな赤い宝石がついた一本の長杖を両手でで抱え持ち、赤色のローブを纏った金髪の魔法使いの少女。
そして女騎士と魔法使いが駆け寄った先にいたのが、三人目。
銀色の胸当てを着け、一本の長剣の傍で一本の大きな両手剣を抱えたまま倒れる赤髪の少女だった。
「早く目を覚ませ! このままじゃやられるぞ!」
「そうですよ! このままじゃコイツにやられておしまいですよ!」
二人に声をかけられていても全く目を覚ます事のない少女の目には、目を閉じていたとしてもいつにない程の涙が溢れ出ていた。
後悔か、懺悔か、悔しさか、止めど無く流れる涙の理由は、それを流す彼女本人しか判らない物だった。
「ダメだ! 私達で何とかするしかない!」
「ああああッもう! わかりました! やったりましょう!」
女騎士と魔法使いが目を覚まさない少女の前に並んで立ったその視線の先には、自身らがいる陸地をその長い身体で囲む、巨大な翼の生えた大蛇の頭が、ピロピロと二股の舌を動かしながら近付いて来ていた。
「「はああああああッ!」」
「シャアアアアアアアアッ!」
互いに目が合った途端に各々の武器を掲げた二人に対して、蛇は大きく口を開け、湖面の上で相対するのであった。
******
『私という人間は、いかにも体たらくな人生を送って来ました』
と、この期に及んで、懺悔する。
まさか人生の最後が『豊胸手術中にショック死』などとは、二十三年間生きていて思いもしなかった。
動画配信サイトで、動画と動画の合間に流れて来た電子公告のグラビアアイドルの傍に書かれた『胸がデカい女はモテる』という言葉に諭され、広告元が開くサロンにも興味本位で参加し、気が付けば、サロン推奨の美容外科に予約の電話を入れ、手術当日、満を持して手術台に身体を乗せた途端、それこそ『電撃が走った』と言わんばかりの激痛が全身を襲い、それで『死に至ると』言った所だった。
『騙された』だの『手術が失敗した』だのをまず、無い様で有る意識で私は思ったが、『いつまで経っても判らない結果』に『いつまで続くか分からないこの思考回路に意志が巡る今を使うのは勿体ない』と思い、こうした懺悔に暮れていた。
死に際の神頼みというヤツだった。
まぁ、もう死んだっぽいけど。
しかし『欲に駆られて死んだ』と言う意味では、私は至極全うな人間だったのかもしれない。
強いて言えば、手術が成功して、大きなった乳房をたゆませ、それを自分と同じく胸に悩みを抱えた友人達へと見せびらかしたい所だった。
『豊胸手術、イイよ!』ってね。
が、それももう叶わぬ夢と言った所らしい。
もはや天なのか、地なのか分からなくなった目前に見える一閃の光に、私は手を伸ばした。
『あぁ神様、どうかこの懺悔が許されるのであれば、生まれ変わる時には、今と違って胸のデカいイイ女にしてください』
最後の最後にそんなふざけたお願いを頼んでみた。
するとたちまち、その光は強さを増し──、
「あぁ──」
訳も分からぬままの私の全ては、その光へと包まれた。
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