白馬の王子様は側にいる

 世の中、異変というものは前兆はない。災害、犯罪、交通事故など、前触れもなく唐突に訪れる。

 しかし、人類最強の力を持つ少女の場合は少し事情が違った。流石というべきか前触れはあるのである。

 ただし、その結果訪れる異変もた、普通のモノとは違っていた。


「アーサー、悪いんだけど一戦お願いできる?」

「もちろん、昼だって夜だっていつでもいいよ」

「……ありがとう」

 僕が初陣を決めてからしばらくの放課後。普段は顧問の立ち位置で指導している有希が、唐突に試合を申し込んできた。僕としては有希は目標なので全然構わないのだが、何故か有希は浮かない顔をしている。軽く混ぜたジョークにも無反応だ。

「では、勝負始め!」

 結衣さんの号令により試合が開始される。僕はエクスカリバーを構えて有希を見た。


 あれ? 今日は一段と慎重だな。


 僕は、有希がしっかりと構えていることに違和感を覚える。初めて戦ったときも、リラックスして構えを取ることはなかったのに。

 まあいい、その真意は戦って確かめよう。僕はそう決心して有希へと向かっていった。もちろん全力である。

 まっすぐ行くと見せかけてフェイントを入れ、後ろから攻撃を仕掛ける。ここまで有希は僕の動きに気づいていない。

 そのコンマ数秒後、僕の動きに気づいた有希が両手で僕の攻撃を振り払った。その動きには精細はなく、弾き返すのがやっとという感じだ。

「有希?」

「いいから……続けて」

 有希はいつになく真剣に頼んでくる。わかったよ。そういうことなら遠慮しない。

 僕はそのまま連続攻撃を仕掛けていく。有希はその動きに必死に喰らいつくように対応していた。ガンガン後退もしている。おかしい。今日の有希は──

「あっ」

「勝負あり!」

 なんて考えごとをしていたら、僕は有希の胴に一太刀を浴びせていた。その瞬間に結衣さんが勝敗を決する。僕は有希に勝ってしまった。やっぱりそうだ。


 今日の有希は──弱い。


「有希さんが負けた?」

 結衣さんは目の前の出来事に驚く。他のメンバーも、起こったことが受け入れられずにいた。

「有希、手加減してたの?」

「いや、そんなことはないよ。私は真剣。けど、全然調子がよくないのよ」

 有希も困惑しているようだった。それもそのはず。なにせ昨日までは元気満々に僕をボコっていたからだ。

「まさか、……ですか?」

 結衣さんが心配そうに言った。

「またってどういうこと?」

 僕は結衣さんに尋ねる。過去にも同じことが起こっていたのか?

「はい。実は有希さんは、アーサーさんが転校してくる前日にも、同様に体調を崩していたんです」

「それは本当かい⁉」

「本当よ。そうでなかったら、あなたが吸血鬼に襲われる前に助けることができたはず」

「そうだ。言われてみれば……」

 僕はここで、あの日の有希の行動がおかしいことに気づいた。有希は未来視を持っている。その力があれば、事前に吸血鬼の襲撃を予測することができたはずなんだ。

 それに有希と初めて登校した時、結衣さんは『もう身体は大丈夫なんですか?』と聞いていた。そして、そもそもの転校初日の欠席。

「と、とにかく一度明美さんに見てもらおう。もしかしたら、本当に調子が悪いだけかもしれない」

「それならいいんだけど……」

 僕は一縷の望みをかけて、明美さんの検診を受けることを進めた。



「わからん。原因不明だ」

 しかし一縷の希望は、明美さんの診断によってあっさり潰えた。

「簡単な診察をしただけだが、現段階では健康体としか言いようがない。どうする? 前回同様もっと診察してみるか?」

 明美さんは有希に尋ねる。前回休んでいたのはそれが原因だったのか。

「一応受けてみる。もしかしたら、今度は何かわかるかもしれないし」

 有希は明美さんの提案を承諾する。その言い方や表情から、あまり期待しているわけではないようだが。

「わかった。すまんが明日の午前中にやる。学校に連絡を入れておいてくれ」

「じゃあ僕も!」

「そ、それはダメ!」

 有希は突如、顔を紅くして拒否した。

「なんで? 僕は君の白馬の王子様。こんな時ぐらい一緒にいたっていいじゃないか?」

「でも……」

「でも?」

「でも、まだアーサーに裸を見られるのは恥ずかしいから」

 僕は肩の力が抜けそうになる。えっ? それが拒否してた理由?

「明日は精密検査をするからな。有希には下着姿で受けてもらうことになる」

 明美さんも賛同する。ゆ、有希の下着姿……くっ、僕にそれが直視できるとは思えない。

「でだ、有希も恥ずかしいと言ってる以上、君は検査室の外で待つことになる。違うか?」

 明美さんは冷静に分析する。有希の嫌がることはできない以上、僕はそれを拒むことができない。

「なら別に、わざわざ休んでまで付き合う必要はないだろう。有希の体調は責任を持って私が診断する。君は学生の本分を果たせ」

 僕は、何も言うことができなかった。



 そして次の日。僕はポーカーフェイスを気取っているが、内心では心配で気が気でなかった。昼食もあまり喉を通らない。『分からない』ということがこんなにも辛いとは。

「ちょっとは落ち着け」

 落ち着かない僕を真人が窘める。それに対して「わるい」と言って謝罪する。

「それにしても原因不明とはな。しかもここ最近に連続……もしかしたら、アーサーが原因か?」

 真人は真剣な面持ちだ。

「やめてくれ。そしたら僕は死なんといかんくなる」

「そうじゃなくてさ。要は恋煩いなんじゃねえのってことよ。お前にドキドキしてるから、力が上手く使えねえんじゃねってこと」

 真人は極めて真面目にふざけたことを言う。でも、もしそうだったらいいな。

「ありそうな話だね。最近の武藤くんはとても楽しそうだから。とにかく、何かしら理由を作っておくといい。『わからない』ことへの対策は、わかった気になることさ」

 響也も真人の意見の肩を持つ。

「ならいいけどさぁ」

「まっ、どっちにしろお前は側にいてやれよ。こういうのは慣れだろ? もし恋煩いならそれで治る」

「そうだな。そうするよ」

「頼むぜ。白馬の王子様!」

 真人はそう言って思いきり背中を叩いてくる。コイツは本当は自分がそのポジションにいたいだろうに……いい奴だな、ホント。



 なんて少し楽観的になってみたものの、事態はそう上手くはいかなかった。

 有希は昼休みの後、予告通りに学校へとやってきていた。しかしその最中に高熱を出して、そのまま保健室に直行してしまったのだ。

 急遽明美さんが診察をするが原因不明。熱は出ているがそれ以外に身体に以上は見当たらなかった。

 僕はそれを6時間目の最中に聞いた。今すぐにでも飛び出したかったが、授業中故に教師に止められてしまった。辛い、早く有希に顔を見せてあげたい。



「悪い響也、今日は同好会は休む。他のみんなにも言っておいてくれ」

 そして放課後。同好会へ向かう響也に僕は言った。

「わかったよ。武藤くんによろしくな」

「ああ、頼む」

 そして僕たちは、お互いに託された役目を全うするために教室で別れた。



「あの、アーサーさん!」

 僕が保健室に向かっていると、待ち伏せていたのか結衣さんが立っていた。どうやら僕より先に保健室に来ていたらしい。

「有希の体調はどうだった?」

「とても辛そうでした。どうもアナタが学校に行ってから徐々に体調が悪くなってきたそうです」

「そうなのか?」

「はい。それに私は、アナタなら有希さんの病気を治せる気がするんです。前に体調が悪くなったときも、アナタが現れたら途端に治ったんです」

 そうだ。僕が有希の体調を尋ねたとき2人はとても驚いていた。僕と会って、有希の体調は確かに良くなったのだ。

 ならなんでだ? なんでずっと近くにいたのに体調が悪くなったんだ?

「アーサーさん。私たちの分まで、有希さんを守って下さい」

 そう言って結衣さんは頭を下げた。彼女の本気の気持ちを無下にすることはできない

「ありがとう。僕にできることはなんでもやるよ」

 僕は結衣さんの期待に応えるように宣言した。



「みんな、私のこと心配してくれてるのね」

 帰りの車の中、僕の隣に座った有希はそう申し訳なさそうに言った。

「それで、検査結果はどうだったんだい?」

「やっぱり原因不明。明美もお手上げだって……」

 やっぱりか。残念だ。

「それで真人が言ってたんだ。もしかしたら有希は恋煩いなんじゃないかって」

「恋煩い? 真人もまた珍妙なことを。それで私が熱出してたら馬鹿みたいじゃん」

 有希は呆れ気味に返す。けど、少しいつもの調子に戻った。

「でもアーサーが関係あるのはホントかも。実際、少し体調がよくなった気がするし」

「本当⁉」

 僕は有希の言葉に喜ぶ。本人のプラシーボ効果かもしれないけど、それでも役に立てているなら嬉しい。


 しかし、そんなほんのりとした喜びはすぐさま絶望へと染め上げられた。


「有希様。火急の報せが入りました」

 突然、前川がシリアスな口調で会話に入ってきた。

「どうしたの?」

「屍人が出たとのことです。場所はネオン。その数、なんと200」

「200⁉」

有希は数字の大きさに驚愕する。僕としても、その数は一度に、しかもデパートで発生するには多すぎると思った。

「前川さん。さすがにそれは誤報では?」

「ねえ前川。それどこ情報?」

「残念ですが警察からです。目視でも確認済みとのこと。現在、警察主導による避難が行われています」

「くっ、それじゃあホント見たいね」

 有希は前川さんの情報に歯噛みする。なんてこった、このタイミングで屍人が出るなんて。しかもこんなにたくさん。

 通常、屍人が集団発症することはない。だからコレは過去に例を見ない出来事だ。

 それが有希が体調の悪いときに発生する。気持ちの悪いぐらいの不幸の連鎖だ。これじゃあまるで、世界が有希を殺そうとしているみたいじゃないか。

「ねぇ有希。僕以外に同業者っていないの?」

「いるけど日本にいないわ。それに、こんなに大量発生してたら待ってる余裕なんてないでしょ。早くしないととんでもない被害になりかねない」

「ならせめて、僕が戦うよ。まだ本物の屍人と戦ったことはないけど、有希を戦わせるよりは全然いい」

わたくしもそう思います。しかし申し訳にくいのですが……アーサー様、武器はどこに?」

「しまった! 今は学校にあるんだ!」

 僕はここで大事なことを思い出す。いま手元には何も武器がない。こんなことになるなんて思わなかったから、武道場に置いてきていたのだ。

 今いる場所はちょうど学校とネオンの間ぐらい。このまま戻ってネオンに行くには30以上掛かってしまう。

「で、でもそれは有希も同じじゃ……」

「それが私は大丈夫なのよ。私の刀は何故か伸縮できるから、常に懐に忍ばせることができる」

 そう言って有希は腰から小刀を取り出した。こんな小刀じゃあ……と思ったら、気がつくと有希の刀は普通の日本刀のサイズまで伸びていた。

「い、一体何が?」

「それが私にも分からなくて。この刀は私が3歳のときに拾ったものなんだけど、エクスカリバーと同じで不思議な力があるのよ」

 有希は刀を仕舞いながら溜息をついた。なんてこった、有希の武器だけはしっかりあるなんて。

「で、でも、せめて僕が武器を取りに行くまで待った方が……」

「追加の報せです。避難は完了したものの、混乱があったため逃げ遅れの方がいるそうです。しかも、屍人が突如として発狂し、大暴れを始めています」

「前川さん、冗談じゃあ……」

「この状況で言うほど、私は悪趣味ではありません」

 前川さんは冷静に断言する。最悪だ。どんどん事態が悪い方へと動いていく。

「有希に行ってもらうしかないのか……」

 僕は躊躇いがちに呟いた。なんでだ? なんで有希を殺そうとする? まったく意味がわからない。

「そうみたいね……」

 有希も諦めるような口ぶりで同意した。

「無茶だよ。有希は体調がよくないんだ。みすみす死にに行かせるようなこと、僕にはできない……!」

 しかし僕は引き止める。理屈では分かっていても、今の有希を一人で向かわせることは到底できない。

「でも、この状況で体調を理由に見殺しにできるほど私は非情にはなれない。それに、こんな時が来るのをローレンスは見越してたんじゃない?」

「というと?」

「ずっと不思議に思ってた。こんなに強い私を守る存在を、ローレンスが用意していたことに。でも今はっきりとわかった。ローレンスはこうなることを予想して、アーサーを育てたのよ」

「まさか、ここで君を助けるための白馬の王子様なのか?」

「あくまで予想だけどね。でもピンチの私を助けるってロマンチックじゃない? ……だからアーサー、少し中2チックだけどお願いがあるの」

「なに?」

「私の、この死の運命から救い出して。アーサーは私の白馬の王子様だから、きっとそれができる。私はそれまで死なないように頑張るから」

 有希はそこまで言った後、恥ずかしそうに顔を逸らした。



 僕たちがショッピングモールの前までやってくると、辺りは厳戒態勢が引かれ封鎖されていた。僕たちはその中を、有希の顔パスで入っていく。屍人の把握と処理は警察の仕事だから、有希とは面識があるようだ。

「じゃあ、行ってくるわね」

 そうしてデパートの前までやってくると、有希が車から降りる。現場には僕ら以外は誰もいない。しかしその周辺には、こべりつくように血なまぐさい匂いが漂っていた。

「有希……頑張って」

「ありがとう。なんとか上手く逃げ延びるわ」

 有希は最後に冗談めかしくそう言うと、デパートの中に入っていった。

 取り残された僕はショッピングモールを見つめる。僕としては何もできない自分が恨めしかった。

「アーサー様。有希様が心配なのは分かりますが、今は待つときです。警察から許可を頂き、超特急で椿を向かわせています。この調子ならば、10分でこちらにやってこれるでしょう」

 前川さんは冷静に状況を伝える。流石は本物の執事、こんな時でも落ち着いていられるなんて。僕も見倣わなければならない。

「わかってます。……有希、少しの間待っててくれ。必ず助けに行くから」

 僕はビルの中の彼女に向けて約束した。


 拝啓お父さんへ。

 私は今、首切り台を歩いています。


 ネオンの中に入り、逃げ遅れを探す中で私はそんなことを考えていた。こんなの未来視を使わなくても分かる。いや使えなくなったからこそ分かる。


 明らかに、世界が私を殺しにきている。


 一体なんでか分からない。ここ最近まで別にそんなことなかったのに。

 なんでアーサーと再開して、幸せの絶頂にいた所からこうならないといけないのか。

「ホント、ムカつく」

 私は理不尽が嫌いだ。自分に理由のある不幸ならまだ飲み下せるけど、いきなり押し付けられる不幸は我慢できない。なんとしてでも、その理不尽を跳ね返したくなるのだ。

「なんて、言ってもしょうがないんでしょうけど」

 私はイライラする気持ちを抑えるように切り替える。自分の不幸を嘆くよりも、今はできることをやらなくてはならない。

「どこにいるのかしら」

 私はネオンの中を警戒しながら歩く。建物の中は異様に静かで、本当に屍人がいるのか疑わしかった。

 私は少しだけ警戒を解き体調を確認する。間違いない。アーサーが近くにいた時よりも体調は悪くなっていた。プラシーボ効果じゃなかったんだ。


 調


「愛の奇跡ね」

 アーサーにどうしてそんなことが可能なのかは分からない。けど、アーサーに原因不明の症状を打ち消す効果があるのは確かだった。もしかしたら、アーサーの愛が私の未来を変えるために作用したのかもしれない。ちょうど、ケイコの結末が変わったように。

「ならアーサーが来れば勝確ね。上手く合流できればだけど」

 私は淡い可能性に希望を託す。もしそうなってくれれば私は死んでも──

「ってダメダメ。今はそういうこと考えるのは禁止」

 私は自分の悪癖を正す。言葉にしていなくても、思考が言霊に変化するかもしれない。その少ない可能性を潰すためにも、今はそういうことは言わない方がいい。


「ママ〜、パパ〜」


 私が自分の思考をぐるぐる回していると、少女の声が聞こえてきた。多分、逃げ遅れの一人だ。よかった、まだ怪我なんかはしてな──


「まずい!」


 私は持てる力をフルに使って少女へと駆ける。

 少女の背後に、いつの間にか屍人が現れていた。大きな斧を振りかざして今にも斬り殺そうとしている。

「伏せて!」

 私は飛び蹴りを屍人に喰らわせる。顔面に綺麗に入った一撃は、屍人を地面にぶっ倒した。


 くっ、普段なら瞬間移動で動けるのに。


 私は改めて、自分の力が満足に発揮できないことを実感する。おまけに今回の屍人は一味違っていた。いきなり現れた上に殺傷能力のある武器まで持っている。普段の2割増しで危険な状態だ。

「逃げるよ!」

 私は少女の手を取って走り出す。少女は何が起こったのか分からずただ呆然引っ張られていた。大人しくて助かる。

 ひとまず、彼女を連れて屋外に出よう。そうすればアーサーたちが保護してくれる。

 私はそう考えて少女を出口まで連れて行こうとする。しかし


「おかしくない? さっきまでそんなにいなかったでしょ?」


 私たちの行く手を阻むように、屍人の群れが立ち塞がっていた。しかも、必然か偶然か一番近い入口付近にである。


 どうする? 彼女をどうやって避難させる?


 私は一瞬それを考えてすぐに案を出した。狙いが私であるのならば、上手く私と切り離せれば彼女は助かるはずだ。

「ねえ、自分で走れる?」

 私は少女に呼びかける。少女は怯えるばかりで反応がない。

「行けるなら首を縦に、ダメなら首を横に振って」

 私は声が出せないならと少女に行動を指示する。すると少女は首を横に振った。


 仕方ない。先に逃げる道を作ろう。


 私は居合の構えを取る。アーサーとの対決では一点集中だったが、今度は広範囲を標準に撃つ。

「終の居合・炎華!」

 私は刀を抜いて火花を起こした。然気には稀に属性を持つ。私は、自らの炎属性で奴らを焼き払ったのだ。

 辺りは業火に包まれる。屍人たちは炎に焼かれて身動きが取れない。よし、今がチャンス!

 私は炎の中を一部だけ斬り裂いて空間を作る。この中なら安全に逃げれるはずだ。

「さあ早く! あの隙間を抜けていって!」

 私はちょっと強引に少女の背中を押す。驚いた少女はこちらを振り返って中々進まない。

「早く!」

 私は少女を怒鳴りつける。怒られたと思ったのか、少女は今にも泣きそうだ。

 私だって本当はこんな風に言いたくない。でも、そうしないと彼女が死んでしまうのだ。彼女を死なせてしまったら、私は罪悪感で幸せになれない。

「いい⁉ ここから逃げないとアナタは私と一緒に死ぬことになるのよ! お父さんやお母さん、好きな人に会えなくなってもいいの⁉」

 尚も動けない少女に叫ぶ。その必死の叫びに、ようやく覚悟が決まったのか、少女は炎の中を駆け抜けていった。


 よし、ひとまずはこれでいい。


 私は少女が炎を抜けるのを確認すると、刀を横に降って炎を吹き飛ばす。

「ねえ? どう考えても数が増えてるよね?」

 私は自分の目を疑った。炎が晴れたら全部丸焦げになってる算段だったのに、丸焦げの奴よりもピンピンドロドロしてる奴の方が多かった。

「ねえ神様? 私、何か癪に障ることしましたか?」

 私はいるかどうかも分からない神様に尋ねる。ここまで本気で来られたら文句の1つも言いたくなるよ。

「はは、ははは!」

 なんか楽しくなってきた。ここまでくればヤケだ。やるだけやって派手に死んでやる!

 開き直った私は、刀を大太刀サイズにして屍人たちに振りかざす。しかし、最初の居合で大きく体力を消耗してしまったらしく、満足に太刀を振り回せなくなっていた。なので小太刀サイズにまで縮小して、最小限の回避と一撃必殺のスタイルで進人たちを切り刻んでいく。


 それから、5分ぐらいが経った。


 私の身体は未来視が使えないせいで容赦なく攻撃が掠れていく。まだ被弾はしていないが時間の問題だ。

 そろそろアーサーは中に入れただろうか? アーサー、カチューシャの子を頼むわね。あの子は私のとばっちりで死んでいい子じゃないから。

「はあ、はあ」

 まずい。もう息が切れてる。まだ30体も倒していないのに。

「うっ!」

 遂に、私は屍人の凶刃に触れてしまった。痛みで身体が熱い。

 負けじと柔肌に傷をつけた愚か者を一刺しで葬る。しかし、その間に他の屍人から3回ぐらい斬られてしまった。

 血がダバダバと流れてくる。今までこんなに血を流したことなんてなかったなぁ、と他人ひとごとのように私は自分の血を眺めていた。

 傷はどんどん増えていく。この身体はアーサーに捧げるものなのに。このままじゃ一生キズモノだ。

 アーサーはそんな私も愛してくれるだろうか? いや、それは愚問だった。彼ならそんな有希も好きだって言ってくれるだろう。

 私は藻掻く、私は足掻く。アーサーのことを思い出したら少し元気が出た。恋する乙女は強いのだ!

 なんとか頑張って50体くらいは片したかな? 既に周りは薔薇のニオイでいっぱいだ。

 でも後150体か。私が本調子ならもう終わってるのになぁ。


 アーサーは逃げ遅れた人を助け出せたかな?

 カチューシャの……少女は生きてるかな?

 ア……サーは……来てくれるかな?

 私…………生きて……れるか、な?


 まずい。疑問が頭の中でグルグルしている。思考が上手くできなくなってきた。


 どたっ


 あれ、目の前が真っ暗になって何も見えなくなった。鼻をぶつけたのか顔が痛い。……ああそうか、私、倒れちゃったのか。早く起き上がらないと。


「うっ、ぐほっ、ごほっ」


 うえっ、口から血が逆流してくる。喉の奥が鉄の味で気持ち悪い。身体からどんどん、熱いものが広がっていくのを感じる。

 ああヤバい。なんか少し気持ちよくなってきたかもしれない。死ぬ前にはとんでもない快感が得られると聞いたけど、そろそろお迎え来ちゃう感じ?

 これはダメかもしれない。ごめんねアーサー、あなたの顔をもう一度見たかったんだけどなぁ。

 私ってメンタル弱いなってつくづく思う。もう色々と諦めちゃってる。アーサーだったら何かしら理由をつけて決して諦めないんだろうなあ。

 吸血鬼の件なんて、一人で危機的な状況を切り抜けてるし。私がおんなじ状況だったらそんなことできない。

 ケイコのときだってそう。私は端からあんな考えを持ってなかった。ケイコをアーサーの糧にできればいいとすら思っていたのに、アーサーのおかげで私の糧になってしまった。


──すごい……とってもかっこいいよ! 僕もそんなふうになりたいな!


 懐かしい。私が初めてアーサーに会ったときのことだ。そうそう、このときの私って父さんを殺したばかりで落ち込んでたんだよね。


──そんなことない! その力はみんなを守る力だよ!


 で、自分の力を否定する私をこうやって励ます。心の底から本気で言ってるんだもんなぁ。参っちゃうよ。しかも今も健在だし。今の私を見てもすごいすごいって言うんだから筋金入りだよね。


──次に会ったら結婚しようね。約束だよ!


 まだ4歳とかなのに会って間もない私にこういうこと言うんだもんな。アーサーって本当にズルい。それもきちんと有言実行。まあ、初手プロポーズは流石にびっくりしたけどね。

 この約束が無かったら、私はきっと何処かで死んでしまってただろうな。父親を殺したり、いじめられたり、母親が自己破産しかけて自殺未遂したり、未来視のせいで強姦される予知夢を見たり……語ったらキリがないほどツライ思いをしてきた。あまりに辛すぎて、一時は生きていられればそれだけで幸せって本気で思ってたぐらいだ。

 それに比べれば、こんなのまだまだ耐えられる。あはは、アーサーって過去の言葉だけでも私を守ってくれるんだ。


 やっぱり、アーサーは私の白馬の王子様だよ。


 ……ああでも、私にはしてもらいたいことがあったんだ。あのヘタレ王子! それをやってもらうまで、死ぬわけにはいかないぞ!


「もう少し、頑張ろう」


 私は血を滴らせながらなんとか立ち上がった。屍人たちは立ち上がる私を見て、ユラユラと近づいてくる。

「アーサー、待ってるからね」

 私は屍人たちの群れに向かって歩み出した。


 白馬の王子様が迎えに来るまで、私は諦めない。


 有希がショッピングモールに入ってから5分が経過する。その間状況は好転も悪転もせず、まんじりと膠着状態が続いていた。

 僕はその間、警察に協力を頼んで逃げ遅れた人たちの確認をしていた。

 その情報によると、逃げ遅れは現在1人のようだった。名前は千聖ちさと。黄色いカチューシャをしている女の子だそうだ。

「そうですか。分かりました」

 前川さんは警察とやり取りしている。何が分かったんだ? もしや逃げ遅れが見つかったり?

「前川さん、何かあったんですか?」

「逃げ遅れの追加情報です。三十代の男性と十代の少年とのこと」

 僕は拳を強く握り締める。まだ逃げ遅れがいたか。

「千聖さんは?」

「そっちは何も」

「……そうですか」

 僕は悪化する状況に唇を噛む。ここまで無力を感じたのは初めてだ。頼む、早く来てくれ椿さん!



 すると、遠くから鋭いエンジン音が響き渡る。赤い塊が、ショッピングモールの駐車場を猛スピードで突っ込んできた。僕はあの塊に見覚えがある。あれは武藤家うちの車だ!


 来た!


 猛スピードで突っ込んできたNSXは僕と前川さんの前で急停車した。ワイルドスピードもかくやの運転技術だ。

「アーサー! お待たせ!」

 そして、中からメイド服の椿さんが剣を携えて降りてくる。

「ほいこれ、お待ちかねのエクスカリバー! それからこれ! ユキナミン!」

「ユキナミン? なんですかそれ?」

「有希の然気を濃縮した液体よ。くっそ不味いけどめちゃくちゃ効果があるわ! これを使えば有希のバフと同効果が得られるの!」

 なんと! そんな便利なものが。

「ありがとうございます! ちなみに何本あるんですか?」

「残念ながらこれ一本だけ。有希の体調改善に使ってたから残ってないみたい。だから大事に飲みなさい」

「わかりました」

 といいつつ僕は一気に飲み干した。確かに不味い。けどめちゃくちゃ効果アリだ。

「アーサー、白馬の王子様の活躍期待してるわ!」

 椿さんはそう言って僕の背中をバンと叩いた。妙に怪力なせいで背中がめちゃくちゃ痛いが、おかげで活が入る。

「はい! それじゃあ、行ってきます!」

「アーサー様、よろしくお願いします」

「頼むわね」

 前川さんと椿さんが頭を下げる。その様子は、紛うことなき本物の執事とメイドだった。

 僕は2人に見送られながら、ショッピングモールに入っていった。



 ショッピングモールには4つの出口が存在している。東口。西口、北口、そして、南側にある中央口。僕はその中の東口から中へと入って行った。

「さて、これからどうする?」

 僕は行き先を決めあぐねる。まずは逃げ遅れの確保が最優先だ。そうでなくては有希が命を賭してる意味が無くなる。ただそうでありながら、その手掛かりが何も無いのだ。

 それに、有希がどこで戦ってるかも分からない。できれば有希と合流してから戦いたいが……


(アーサー、聞こえるかい?)


 すると、脳内に声が響き渡る。コレは吸血鬼のときと同じ!

「聞こえるけど、アンタは何者だ?」

 僕はあのとき聞きそびれたことを声の主に尋ねる。

(それは後で。まずは武藤有希の場所を教えるよ。彼女は1階の中央広場で戦っている。そこに過半数の屍人が集まっているんだ。

 だから先に、逃げ遅れの人を救出に行った方がいい。君に逃げ遅れの場所を教えるよ。1人目は三階東トイレ、2人目は屋上ーーーーの中、3人目はーーーーーーーだ)

「待ってくれ! 1人目以外がよく聞こえない!」

(その理由は走りながら。すぐに三階東トイレに向かいなさい)

「くっ、わかった!」

 僕は誰かさんの情報を信じて走り出す。



「まず教えてくれ。アンタは何者なんだ?」

 僕は非常階段を駆け上がりながら誰かさんの正体を尋ねる。

(聞いて驚かないでほしい。僕は──神様だ)

「神様? 一体どこの?」

(そんなことはどうでもいいだろう? 君の信じる宗教のでいいよ。とにかく、僕はある理由から君やローレンスにテレパシーで話しかけている)

「ローレンスに⁉ じゃあまさか、彼の予言じみた発言は……」

(そう。僕が彼に話していたんだ。これから起こる未来のことをね。そして、その対策のために色々と手を打ってもらっていた)

 そういうことだったのか。

「でも、なんの為に?」

(話はここで一旦終わり。来るよ!)

 僕が非常階段から中に続く扉を開けると


「屍人か!」


 その先には屍人がたむろしていた。その数は5体ほどで、おかしなことに武器を握っている。

「ブラッド・パージ!」

 僕は呪文を唱えると素早く屍人たちに襲いかかる。僕の接近に彼らは気づかない。

 あっという間に目の前の屍人を片付ける。理性もなく、数もこの程度ならば恐るるに足らない。僕はすべてを斬り裂くと、すぐさまブラッド・パージを解いた。


 そういえば、コレは一体何なんだ?


 今も当たり前のように使ったけど、コレも神様が用意したものだ。

(それは神の力だよ。君がローレンスと食べていた食材には、こっそり僕の血と肉が混ざっていたんだ)

「さらっと気持ちの悪いことを言いますね」

(仕方ないだろ? 君は秀才でどうしても然気を使えるようにならないんだ。然気は限られた天才のみに許した力だから)

「……容赦ないな」

(さあ、急ぐよ)

「分かってますよ」

 僕は大急ぎで近くにある東トイレに向かった。まだ近くに屍人がいないとも限らない。その前に逃げ遅れた人を確保しないと。

 トイレに到着すると個室に隠れているだろう某を探していく。すると、男子トイレの1つに締められたドアがあった。

 僕はその扉をノックする。反応はない。きっと屍人が来たと思って声を殺しているのだ。中にいる人を安心させねばならない。

「助けにきました! ここを開けて下さい!」

 僕は大声で呼びかける。人間の声を聞けばノックの主が救助に来たと伝わるはずだ。

 そして、僕の期待どおりに恐る恐るドアが開けられた。中にいたのは小学生ぐらいの男の子だった。ガタガタ震えてこちらを見ている。まずは1人目。

「さあ、もう大丈夫。一緒に避難しよう」

「う、うん」

 僕は少年の手を取ると、片手で抱きかかえて非常階段へと向かった。


「う、うわあ! 屍人⁉」


 しかし2階から1階に降りる所で屍人と遭遇してしまう。数は3体。流石に片手で抱えながら戦うのは分が悪い。

 仕方ない、と僕は少年を地面に降ろして

「そこでじっとしててくれ!」

 と少年に呼び掛けて進人に向き直る。

「ブラッド・パージ!」

 そして呪文を唱えて進人を蹴散らしていった。両手が開けば倒すのは造作もない。

「倒したの?」

 少年は目の前に起こったことが飲み込めずにポカンとしている。

「さあ、行こう!」

 僕はそんな少年を抱え上げ、急いで階段を駆け下りた。

 そうして一階まで降りてくる。サッと周りを見渡すも近くに屍人の存在は確認できない。これなら大丈夫だろう。

「あそこに出口がある。行けるかい?」

「うん! ありがとうお兄さん!」

 少年はそういって出口へと向かっていった。

 これで一人目は大丈夫。次は屋上の2人目だ。



「2人目と3人目のときはアナタの言葉にノイズが混じってました。アレはどういうことですか?」

 屋上に向かう最中、僕は神様にさっきのジャミングについて尋ねる。神様であるならば、あんな不完全なテレパシーにはならないはずだ。

(それは世界が、武藤有希を殺そうとしているからなんだ。僕が作り上げたシステムの癖に言うことを聞かない)

「……神様にもとうしようもないことがあるんですね」

(人間のシステムだって、バグがあれば予測不能な動きをするだろう? それと原理は同じなんだ。武藤有希というバグに対して、世界が僕の意志に反した動きをしているんだ)

「有希がバグ? どういうことですか?」

(彼女の強さは、神の考えた仕様を大きく逸脱しているんだ。世界はそんな彼女の存在を許さずに排除しようとしている)

 確かに、有希の力は僕よりも遥かに上だ。僕の力が神の力だと判明した今、その異常性はさらに高まる。

「だから、弱体化させたり不自然なまでに追い込んでるのか」

(そういうこと。今ここに発生した屍人だって、彼女を殺すために全宇宙からテレポートさせて、あまつさえ武器すら握らせている)

「スケールがデカすぎてついて行けないんですが。やっぱり宇宙人っているんですね」

(君の知る現実は世界の一端を見ているにすぎない。この世界には、神も天使も、悪魔も魔族も、宇宙人だって存在するんだ)

「似たようなことを吸血鬼も言ってましたね。……アレもアナタの差し金だったんですよね?」

(その通り。ああしないと君は屍人になっていたからね。そして、武藤有希に殺される予定だった)

「なんて露悪的な。ありがとうございます」

(礼は彼女を助けてからだよ。屋上は戦闘になる。気をつけて)

 僕が屋上駐車場にやってくると、何十人という屍人が一台の車に集結していた。そして、中を壊そうと仕切りに武器で攻撃している。

 調べるまでもない。あの中に逃げ遅れがいるんだ。さっさと排除するぞ!

「ブラッド・パージ!」

 僕は神の力を開放する。そして、すぐさま屍人の排除に掛かった。

 屍人をバッサバッサと斬り倒していく。一体一体は苦じゃないが流石に数が多いとしんどい。僕でもしんどいんだから有希がどれだけ大変か。そう考えると嫌でも力が湧いてくるよ!

 そして時間にして1分くらいだろうか? 屍人を倒し切ると僕は窓ガラスをコンコンとノックした。中を確認すると男性が目を瞑り、耳を塞いで蹲っていた。

 僕は窓ガラスを強く叩く。しかし男性はビクつくだけでこちらを見ようともしない。


 仕方ない。手荒な真似になるが許してくれよ!


 僕はエクスカリバーでクルマを真っ二つに斬り裂く。そして素早く中に入り込んで男性を救出した。

「いやだぁ! 死にたくない!」

 男性は突然の出来事に半狂乱になる。くっそ、抱えたいのに暴れ回って上手くいかない。

(とりあえず気絶させて)


 トン


 僕は神様の指示を実行するため首トンをする。実はけっこう危険らしいが、ここで暴れられるより危険なものは無いのでご容赦願いたい。

 静かになった男性を背負うと、僕は近くにあった非常階段を駆け下りていく。

 これで二人目の救出が完了。残すはあと一人だ。



 男性を前川さんや椿さんに任せると、僕はすぐにデパートに取って返す。しかし戻ったはいいものの、最後の一人である千聖さんにはなんの手かがりもなかった。

 とりあえず3階から探してみたが、どこにも姿は見当たらない。

 まずいな。救出した2件はいずれも屍人に囲まれていた。あの状態になっていたらタダでは済まないぞ。

(僕の作った世界がゴメンね。武藤有希を引き寄せるために、逃げ遅れを優先的に攻撃するようになってる)

「ホントに人の心理に聡いですね。実に利口なシステムだ」

 僕は思い通りにならない現状に八つ当たりを試みる。

(口じゃなくて脚を動かそう。次はーーーー階だ)

 しかし神様の指示は、妨害されたのか聞き取ることができない。

(くっ、さり気なく正解を言ったのに)

 神様は自分の思惑を読まれたことに苛立っている。神様すら欺くなんて、本当によくできてるな。

 さてどうする? ネオンは4階建てだ。三階までが店内で4階と屋上が駐車場になっている。

 僕は沈思黙考して勘に頼ることにした。そして


 まずは1階を探そう。


 と方針を決定して、東非常階段から1階へと降りていく。

 そしてウニクロ近くまでやってくると、角のショーウインドウへと身を潜めた。

(かなりたくさんの屍人が徘徊してるね)

 神様がその様子を端的に表現する。どこもかしこも屍人だらけで、千聖さんがどこにいるのか判断がつかない。

 これは失敗だったか? 先に2階を探した方がよかったかもしれない。ただ降りてきてしまった以上は戻る時間が勿体ない。先に有希と合流するのも手だ。

「ブラッド・パージ!」

 僕は呪文を唱えて進人たちの前に躍り出る。そして、中央広場へ続く道を正面から突き進んだ。

 僕はエクスカリバーで彼らを屠りながら、隠れられそうな所を虱潰しに探していく。女子トイレ、物陰、お店の死角、そんな場所を探していった。

 道中で何度も屍人が道を阻む。これじゃあ捜索することもままならない。

「くっそ、1階にはいないのか!」

 段々と焦燥感が燻ってくる。判断ミスだとしたらこんなに痛いことはない。

(ーーーーーーーーーーー)

「ごめんなさい! 何も聞き取れません!」

 神様が脳内にジャミングを流し込んでくる。善意なんだろうけど、はっきり言って今は邪魔だ。

「はあ、はあ、はあ」

 最悪だ。ブラッド・パージの反動がきてる。こういうのは知覚するのが一番まずいのに。ずっしりと身体が重くなるのを感じた。

 まだ止まってくれるな。僕が有希を助けるまでは、寿命を削ってでも動き続けてくれ。

 重たくなる身体を引きずって捜索を続ける。せめて有希の顔が見えればと中央広場へを見てみるが、絶妙に弧を描いてるせいで姿を確認できない。

 頼む、一時的でも良いから疲れを忘れさせてほしい。アドレナリンだ、アドレナリンよ分泌しろ!

 僕がそんなことを考えていると、その分泌は最悪な形で訪れてしまった。


「きゃあああ!」


 疲れの溜まった僕の耳に、小さな女の子の悲鳴が届く。

「まさか!」

 僕は文字通り疲れも忘れて全力で走る。声のした方はユニクロの店内。頼む。無事でいてくれ!

 僕はユニクロに到着すると店内を必死に探し回った。そして、試着室に屍人の集団ができているのを発見する。

「どけ! 邪魔だ!」

 僕は気合で屍人を薙ぎ倒していく。まずい、力があんまり入らない。


 でも、これで千聖さんを助けられる!


 などと安堵できたのもつかの間。僕は目の前に広がった光景に絶句した。


「そんな……千聖さん」


 試着室の中には千聖さんがいた。肩からざっくりと斧で斬り裂かれ、赤い血を流している。

 なんで……なんで僕は真っ先にユニクロを見て回らなかったんだ! 試着室なんて御誂おあつらえ向きな場所まであったのに! どうして!

(今は自分を責めても仕方ないよ。早くここから連れ出すんだ)

 判断ミスを責める僕を神様は叱咤する。そうだ、ここで動きを止めてはいけない。急いで病院に駆け込めばまだ助かるかもしれないのだ。

 僕は倒れた千聖さんに駆け寄ると、千聖さんの身体を慎重に抱き起こす。そして、僕はことここに至って幸運に恵まれていることに気づいた。

 確かに千聖さんから血が流れている。しかし斧が身体に食い込むことで、一気に血が噴き出すのを免れていたのだ。もしこれが抜けていたら、噴き出すように出血し千聖さんは絶命していただろう。

 ただしこの状態で放置していたらダメだ。すぐに手当てを受けて貰わないといけない。

 僕は千聖さんを丁重に抱きかかえて走り出した。

 走り出して自分の力がほとんど残っていないことに気づく。こっちも限界が近いようだ。

 ユニクロの店内を抜けて出口を目指す。ここから一番近い出口は、ユニクロから100メートル先にある東口だ。

 僕は東口に向かって突き進んでいく。しかしその道筋には、何十体もの屍人が待ち構えていた。

 僕は千聖さんを抱えて両手が塞がっている。このままでは奴らを仕留めることはできない。

「ええぃ洒落臭い! 中央突破だ!」

 僕は千聖さんを両手でラグビーボールが如くホールドすると、屍人たちの中を突っ切っていく。屍人たちは僕たちを仕留めようと、死肉に群がるハエのように吸い寄せられてくる。

 そして、刃物で僕を斬りつける。理性のないヘロヘロの攻撃でも、僕の身体を傷つけるのに十分な威力を持っていた。

 だが返ってありがたい。痛みのおかげで目が冴える。僕は斧が食い込んでも槍が刺さっても構わずに突き進んだ。

 まるでタッチダウンを決めるように、僕は屍人たちを掻い潜って出口まで駆け抜ける。

 外に出ると、そこには前川さんと椿さんが待ち構えていた。

「早く、千聖さんを病院に!」

「とうに呼んでいます! 後はお任せを!」

 前川さんは千聖さんを受け取ってそう宣言した。

「それじゃあ、僕は戻ります!」

 僕はそう言って入り口へと踵を返す。

「アーサー、こっからが本番だからね!」

 椿さんは大声で発破をかける。

「はい! もちろんです!」

 僕は椿さんの発破に応えると店内へ入る。逃げ遅れた人の救助は完了した。

 後は、有希を助けに行くだけだ!



「ブラッド・パージ!」

 店内に戻ると、僕はすぐに入口付近にいた屍人を薙ぎ払う。まだ身体は動く。一時的に疲れを忘れることができたみたいだ。

(急ごう! 時間がない!)

 神様が僕を急かす。その通りだ。今は自分の身体はどうでもいい。

 僕は身体に鞭を打ち、ユニクロを通り抜けメインロードを走る。さっきの大立ち回りで屍人はほとんどいなくなっていた。これなら30秒で到着できる。

 しかし中央広場まであと少しという所で、一体の屍人が立ち塞がっているのが見えた。しかもソイツは通常の個体のように腐敗した身体ではなく、熊のような身体をしていた。

(気をつけて。彼は時の番人だ)

 神様が深刻な口調で僕に告げる。

「時の番人?」

(そう。アレは君を阻む妨害装置だ。君を倒すためだけに存在する、時の意志の化身)

「つまり奴を倒さないと有希のもとには行けないということですね」

(そう。だから君にアドバイスをする。ここから先は僕は何もしてあげられないから、それを心に刻んで戦ってほしい)

「アドバイス?」

(時を超えるために必要な力。それはーーーだ)

 しかし、肝心な部分が僕には聞こえなかった。くっそ世界め、ここでも妨害してくるのか!

(聞こえなかったのか。ならーーーーーー)

 そこから先はジャミングによって聞こえなかった。これ以上のアドバイスは期待できそうにない。

「ありがとう神様。後はなんとかしてみます」

 僕はここまで導いてくれた神様に感謝すると、目の前の熊男に聖剣を向ける。

 時の番人は動かない。ただじっと、こちらを鋭い目つきで見つめていた。

 これは野生の熊と同じだ。見定めているのだ。僕が捕食対象かどうかを。

「そこをどけ! 白馬の王子様のお通りだ!」

 僕は番人に宣誓すると剣を正眼に構える。

 相変わらず番人は動く気配はない。こっちから仕掛けないとダメか。

 僕は最大限に警戒しながら、少しずつ距離を近づけていく。

 そうしてあと一歩、一足一刀の間合いに入る所で


 熊の進人が、突如として視界から消えた。


「っ!」

 かろうじで奴の一撃を防ぐ。丸太で殴られたような重たい一撃は、僕の身体をそのままはじき飛ばした。

 地面に身体を跳ねさせながら態勢を立て直す。番人は元いた場所に戻るように移動して、再び立ち尽くしていた。


 コイツ! めちゃくちゃ強い!


 奴の一撃の速さ、重さに驚愕する。これは勝てるかどうか五分だぞ。体力はもう残っていないが、全力の一撃で攻撃すれば倒せるかどうかって所だ。

 僕は剣を片手で上空へと持ち上げる。そして残る力のすべてを聖剣に注ぎ込んだ。黄色い光に包まれたエクスカリバーは、光を伸ばして大剣へと変化した。

「仕留める!……⁉」

 そこまで言って僕は踏みとどまった。いいのか? これで本当に撃ってしまって。それで勝てるのか?


 時を超える力、それは──


 神様の言葉が脳裏に蘇る。ここまでの展開を神様は分かっていたはずだ。そしてその上であの言葉を託したのだ。ならば、僕がアイツに勝つにはその答えを見つけ出す必要があるはずだ。

 なら考えろ。その答えはなんだ! 時を超えるために必要なものはなんだ!

 僕は必死に頭を回転させる。記憶の海馬を航海して必死にヒントを探し回った。



『はっきりと言えるのは、愛が未来を変えたということね』



 僕の脳内に、何時ぞやかの有希の言葉が蘇った。

「なるほど! そういうことか!」

 なんだよ、恐ろしく単純なことじゃないか。もう何度もコレに助けられて来ている。

 僕は単純明快な答えに思わず笑みが溢れる。そう、時を超える力とは──


「愛じゃないか」


 それは確かに形のあるものではない。けど手を握って、抱き締めて想いを伝えるように、見えなくても確かにその力はあるのだ。


 ならそれを、同じように剣に込めればいい。


 僕は有希への愛を最大限に聖剣に込める。すると僕の身体から力が漲るのを感じた。

 それに付随するように、聖剣の大きさや長さが増していく。結果として天井の壁をぶち抜いてしまったのはご愛嬌だ。


「聖なる裁断!」


 僕は、有希との手合わせで作った必殺技を放つ。時の番人は動かずにただ愛の光を眺めていた。

 そして、為す術もなく愛の光に呑み込まれていく。心を持たぬシステムでは、心を持った愛には敵わなかった。

「急ごう。有希が待ってる」

 僕は番人の死を確認するのも惜しみ、中央広場へと駆け出しだ。


「はあ、はあ、はあ」

 アレからどのくらい戦いを続けたのだろうか? 私は気がつくと屍の海に立っていた。

 私の周りには無数の薔薇の花びら。屍人の血で作った手向けの花が散っていた。茎のないお花畑はなんて醜いんだろう。

「やっぱり、私って強いな」

 私はどうやら生き延びることができたらしい。無心になって戦っていたから気づかなかったけど、周りの屍人をすべて蹴散らしたようだ。自分でも余りに強くてびっくりする。

「けど、もう無理」

 安堵した私は容赦なく地面に倒れる。なんとか肩からいってダメージを軽減したが、それでも結構痛かった。

 横を見ると私が咲かせた花びらがあった。その花びらたちに、私は自分の死を悟る。

「白雪姫よりも、シンデレラの方が私は好きなんだけどなぁ」

 なんて言いながら私は瞼を閉じた。



 中央広場は、気持ちの悪いぐらいの静かさに包まれていた。屍人の姿は影も形もなく、あってもすでに死体になったモノのみだった。

「有希……」

 僕はその中から有希を見つけ出す。彼女は自ら作った薔薇の絨毯に横たわり、手を組んで目を閉じていた。その光景の美しさに、僕は不謹慎にも見惚れてしまった。今にも彼女の死を称えるように、賛美歌が流れてきそうである。

(一応言っておくけど、僕は彼女を迎えるつもりはないよ。白馬の王子様として、彼女を眠りから覚ますんだ)

 神様は有希の昇天を拒否する。

「分かってます。僕もまだ死ぬつもりはありません」

 僕は有希を抱え起こす。始めて触れる彼女の身体は、とても華奢で弱々しかった。よく見ると身体中に傷があり痛々しい。今すぐにでも起こさないと、起こ、起こ……

「あの、その、キスはやっぱり恥ずかしいんですが……」

 しかし僕は、ことここに至ってヘタれるのだった。目の前の顔が美しすぎて直視すら難しい。

(おい! そこでヘタれるなよ!)

 神様が関西人も顔負けのツッコミを入れてくる。でも! 恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!


「ねえ、知ってる? 白雪姫って実は死んでないんだよ」

「え? 何を言って──」


 瞬間、唇に暖かい感触が伝わってきた。


─────────⁉


 僕は自分の身に何が起こってるか悟ってパニックになる。

 突然目覚めた有希が、僕の唇を奪ってきたのだ。


「ちょっ! いきなり何を!」

 なんとか有希を引き離した僕は咄嗟に抗議を入れる。

「なにってキスだけど? アーサーってさ、口は達者だけどめちゃくちゃ初心だよね」

 僕に抱かれた有希は悪びれることなく元気な姿を見せてくれる。だが少し顔が紅いから、照れがないわけでもないようだ。

「まったく、アーサーがキスしてくれるのを期待してたのに、最後の最後にヘタれるなんて……私を抱いてくれたからまだ良かったけど、白馬の王子様として落第よ落第」

「有希がなんかすごい元気なんだけど! 心配して損した!」

「アナタが抱いてくれるまでは瀕死だったわよ。けどアナタが私に触れた瞬間、一瞬で元気になっちゃった」

 ああもう! せっかくかっこ良く決めれるチャンスだったのに! ……まあ、でも

「有希が無事でよかった。その調子なら心配いらなさそうだ」

「おかげさまで。アーサーありがと、流石は私の白馬の王子様ね!」

「どういたしまして」

 有希の感謝の言葉に、僕は少しだけ胸を張って応えた。


 それからの顛末を少し。


 僕たちの闘いの舞台となったネオンは、一時的に閉鎖されることになった。進人の死体や、僕と有希の血が至る所に散乱しているからである。

 次に、僕たちはその日のうちに千聖さんの容態を確認しに行った。手術は無事成功。斧はきちんと摘出され縫合もできたそうだ。

 ただ腕については、満足に使えないだろうという診断が出たとのこと。あそこまでバックリいってればそう診断されるのも仕方ない。

 有希は千聖さんの病室まで行くと、千聖さんの額に手をかざして処置をした。帰りに何をしたのか聞くと、行った処置は2つだと言っていた。1つ目は、千聖さんの傷が完治するように自然治癒力を高めること。2つ目は腕が完治するまでの間、千聖さんが打ちのめされないように、腕が治る夢を見せて希望を抱かせること。

 この二点の処置によって千聖さんは、少し時間はかかるが腕を完治させられるようだ。本当はすぐに完治させることもできるらしいが、あまりに不自然だからそれはしなかったらしい。それに、その経験を経た方が千聖さんは立派な人間になれるんだとか。有希の未来視って本当に便利だね。



 そして僕と有希もまた、明美さんの所で検査を受けることになった。有希による手当があったとはいえ、僕たちは全身が傷だらけになってしまったのだ。検査が必要なのは間違いない。

 幸いにして、僕のケガも有希のケガも完治していた。治療の為に自然治癒力を高めたせいで疲労が凄まじいけど、五体満足で生きていられるのだから文句は言えない。

 有希については、なんと自然治癒力を高めることなく完治したとのこと。有希には血が流れた箇所はどこであれ、それ以前に完全修復できるんだとか。6歳のときに20針を縫うケガをしたらしいけど、その傷跡が完全に消えているのがその証拠と言っていた。僕も確認させてもらったが、実際、有希の腕にはなんの傷跡もなかった。


「有希の身体はこれだからおもしろい」


 明美さんはこの結果に満足そうに呟いていた。けど僕には分かる。彼女もまた、有希の体調を心配していたのだ。だから、有希が元通りに戻ったことが嬉しいのだ。

 それから、有希の謎の体調不良も治っていた。有希曰く、僕に触った途端に元気になったんだとか。こちらはやっぱり原因不明。困ったものだとつくづく思う。


 以上が後日譚として特筆すべきことだと思う。



「こんな感じのことがありました」

 僕は真っ暗な闇の中で、見えない誰かさんに話しかけていた。分かってるくせに、何があったか説明しろとか意地悪なことをする。

「その代わりに君の質問に応える条件だろ?」

 そう、僕は後日談を話せと神様に呼び出されたのだ。けど物理的に呼ばれたわけじゃない。精神だけが呼び出されたらしいのだ。流石は神様、なんでもありである。

「それで、君の質問はなにかな?」

「教えて下さい。アナタはどうして有希を助けようと? 有希がバグであるのなら、排除した方が都合がいいでしょう?」

 僕は一番初めに聞こうと思って、結局最後まで聞けなかったことを尋ねた。だって、神様の行動は矛盾しているもの。

「それか。知ってるかい? 神様は全知全能だからとても退屈なんだよ。君たちが偶然と言い張るモノも神様にはすべて必然。高度な演算によって成り立ってるんだ」

「つまり、退屈しのぎだと?」

「そういうこと。武藤有希を救うために手を尽くすのは久しぶりに頭を使ったし、君が運命を変えるのには手に汗握ったよ。こんなにおもしろいモノはないじゃないか。あっ、今呆れただろ」

「ええ盛大に。なんとまあ人間くさい理由かと思いましたよ」

「でもそのおかげで、君も武藤有希も死ぬことなく世界を生きている。呆れるのは勝手だけど、感謝の1つもしてほしい所だよ」

「感謝はしてますよ。アナタがどこの宗派の神か知らないけど、教えてくれたら宗派替えしようと思うぐらいには」

「だからどれでもいいって。それよりも、これからも僕を楽しませてくれ」

「こ、これから⁉」

 まだ有希は死ぬ可能性があるのか?

「もちろん。武藤有希がこの世からいなくなるか、世界が彼女を受け入れてアップデートをするか。そのどちらかが達成されるまで危機は続くよ。

 今度は宇宙人が攻めて来るかもしれない。魔族が彼女を祀り上げようと企てるかもしれない。いきなりVRMMOの世界に飛ばされるかもしれない。君はこれから、そういった脅威から彼女を守るんだ」

「簡単に言ってくれますね。見返りはないんですか?」

「見返りは『白馬の王子様』の称号。そして、彼女自身さ。君にとってこれ以上のモノはないだろ?」

「ないですね。聞くだけ野暮でした」

「そうだろ? 期待してるよ。白馬の王子様」


 最後に神様がそう言うと僕は目を覚ました。



「とまあ、こんなことを言われました」

「随分と愉快な夢ですね」

 神様のあまりの言い分に腹が立った僕は、すべてを有希に打ち明けた。そしてその感想がこれである。

 現在、僕はベットの上でグロッキー状態になっていた。神の力は反動が大きく、限界以上に力を使ったのでまともに動くこともできなくなっていたのだ。対して、有希は元気一杯である。あれ? 僕がお姫様だったかな?

「嘘じゃないんだ。どうも僕は、このために用意された存在らしい」

「まあ、色々と筋が通るからね。私だってアナタがそんな盛大な嘘をつくとは思ってないよ」

「それはよかった」

 僕は安堵するように息を吐く。信じてもらえたようでよかった。



「改めてアーサーにお願いがあるんだけど、いい?」

「なに?」

「アーサー、今度こそは私のこと抱き締めてほしいな。キスまでしたんだし、今更これくらいなら大丈夫でしょ?」

 有希はそう言って大きく腕を広げる。僕はそれに応えようと有希に身を乗り出すも、あのときの有希の感触を思い出して身体が硬直する。

「あはは、アーサーのヘタレっぷりはまだ治りそうもないね」

「いいや、今度こそは頑張るよ。君も言ったけど、キスだってしたんだから」

 僕はゆっくりと時間を掛けながらも、なんとか有希の身体を抱き寄せた。有希の身体はどこにでもいる少女のように華奢で温かい。僕は改めて、有希がお姫様であることを実感する。

 そのまま僕たちは、しばらくの間離れることなく抱き合っていた。

 まあもっとも、それができたのは椿さんがパパラッチをしに突入してくるまでの、僅かな時間だったけどね。

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【小説大賞応募用】愛は時を超えるのか? 安達尤美 @snown0ki4

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