最後の夏、最後の花言葉

あの花火大会から二年が経った。


僕は彼女に関係を切られた。


あの花火大会の頃から予想はついていた。

このままじゃダメだと。


「愛」は赤色のイメージ。

「恋」は桃色のイメージ。


「愛」が恥じらいなどで白く濁り、

桃色になったものを「恋」と言うのだと思う。

僕はあの夏、彼女にただただ恋をしていた。

愛をしたら、彼女との楽しい日々が終わってしまう様な気がしていたのだ。


彼女はどこかつまらなそうな表情をする時があった。

本当は愛がしたかったのだろう。


あの花火大会の後も夏に何度か二人で出かけた。


彼女とあの公園で話していた時のこと。

また彼女が例のコミュニケーションを取ろうとしてきた。

今度こそは、と思い勇気を出して

「好き」

と言う気持ちを言葉に出そうとしたが…

やはり無理だった。

自分の不甲斐なさに嫌気がさし、

俯くと彼女の手が少し震えているのがわかった。

驚いて視線を彼女の顔に戻すと

目に薄く涙を浮かべていた。

気の利いた言葉が出ず黙っていると


「…。」


彼女が何か呟いた。

しかし内容は、蝉の声にかき消されてわからなかった。


僕の恋は呆気なく、

あの暑い夏に溶けていった。



彼女は遠いところへ行った。

僕との関係を断ち切って。


そういう潔いところが好きだった。


最後まで「ロマンチック」で格好いい男にはなれなかった。

ロマンチックどころか、素でいることさえできなかった。

そんな僕に痺れを切らして、彼女は遠くへ行ったのだろう。


川辺でみたあの花火が、

笑顔が、

忘れられない。

忘れられる訳がない。




八月二日、彼女の誕生日に渡したラッパスイセンの花言葉が

「報われぬ恋」

だという事は最近知った。

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白濁する純愛は、スイセンと夏に溶ける。 @maton2

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