花火大会

日が沈んできたので花火大会に向かう。

川辺には沢山の人がいたので、なるべく端っこの人の少ない方を選んだ。

二人並んで川辺のベンチに座る。

夏特有の渇ききった土のような香りがした。

打上が始まるまで内容の無い会話を続けたが、相変わらず目はあわせられなかった。


まだ花火も上がっていないのに

楽しそうに空を眺める彼女を漠然と見ていたら、


「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」


国語の授業で習ったこのことわざが

湧き出るように頭に浮かんだ。



「打ち上げ開始します。」


と言う機械的なアナウンスと同時が入ると、

それまで騒がしかった川辺から一瞬音が無くなるのがわかった。


静寂、周りには誰もいない。

まるで二人だけの世界に迷い込んだようだった。


アナウンスから少し時間を隔てて、花火が夜空に打ち上がった。

ドカンという爆音と同時に舞い上がる。

咄嗟に横にいる彼女を見たが薄暗くて表情まではわからなかった。

会話をするのも趣きがないと思い、黙って空を見上げる。


どれくらい経っただろうか

やはり我慢できずに彼女の顔を覗くと、その瞬間大きめの花火が打ち上がり

彼女の顔が照らされた。



笑っていた。



濁りのない純枠な笑顔だ


そして、スイセンの花が横にあった。

その佇まいが本当に似ていた。


嗚呼、これが恋と言うやつなのか。

恋やら愛を軽蔑してきた自分だか、今だけは認めざるを得なかった。

花火が俺の恋心の様に、空に浮かんで破裂した。


「これで最後の花火です。」


最後は毎年恒例の枝垂れ柳だったが、それを見たくなくて俯いた。


この時間が終わるのを、認めたくなかった。

花火が散っていくのを、見たくなかった…。

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