ロマンチックと公園

胸の高まりを抑えながら待ち合わせ場所の公園へ向かう。

あの日と同じ、揺れないブランコの横に彼女は居た。

彼女はこちらを見ていたが、恥ずかしさで目を合わせることはできなかった。


「ごめん。待った?」


「大丈夫」と言う趣旨の返答は全てを聞き終える前に頭から抜けていった。

とてつもない緊張のなか、動揺を悟られないようにこう言った。


「誕生日おめでとう。これ…」


間を置かずに彼女は、


「綺麗、ありがとう!」


と言い、少し不思議そうな顔をしながらスイセンの花を受け取った。


「どうしてスイセンを選んだの?」


恥ずかしさを隠すよう、口籠もりながら説明する。


「花屋の端っこの方にあって、目立ち過ぎないのが素敵だなと思って…」


赤面していると、彼女が笑窪を浮かべてこう言った。


「なんか、ロマンチックだね。」


眩暈がした。

どうにかなりそうだった。

自分が避けてきたと思っていた道を、実は意識的に真っ直ぐ突っ走っていたのだ。

自分ではそう思わなくても、彼女には悟られてしまった。

恥ずかしさと情けなさで燃えそうだったが、目の前ある彼女の笑顔を見ると不思議と


「ロマンチックも悪くないな」


なんて思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る