星に願いが届くなら

禎波ハヅキ(KZE)

第1話

「見つけた!あれがデネブだ!」

今日のデートは展望台での天体観測だ。

「夏の大三角の左下にある一等星を見てるなら、そうだね」

彼はちょっと回りくどく答える。このものの言い方に最初は慣れなかったけれど、それにはなるべく正確にものごとを表そうという意識が働いてるのだと気づいてからは気にならなくなったし、彼のことが好きになった。

それで私から告白をして、お付き合いをはじめるようになったのだ。

「どうせならデネブに願い事しようかな?見つけるの難しかった分ご利益ありそう」

そう深く考えずに呟いた。

「その願いがデネブに届くには光速でも1400年かかる」

彼の言葉に冷や水をかけられた気分になった。彼の言うことはきっと正しいだろう。こういう理系分野に造詣の深い人なのだ。

「夢のないことを言うなぁ」

私は彼にそう返した。

まぁ、ものごとに正確であろうとする分こういうこともサラッと言ってしまうのが玉に瑕かもしれない。だけど。

「願いが叶わないとは言っていない」

「え……?」

彼が言った予想外のひと言に驚いた。

私の驚きなど意にも介さず彼は続ける。

「君の願いは1400年後に叶うかもしれないし、1400年前の誰かの願いが今叶ったかもしれない」

星を見上げながらそう言う彼の横顔は、いつもと同じで何ら変わらぬ表情をしていた。

つまり、このひと言は彼にとっては全くの普通に出てくる発想で、その普通さを彼自身は疑ってないのだろう。

それがとても可笑しくて、私は思わず笑みを浮かべていた。

そして彼に言う。

「まったく、ロマンチストなんだから」

彼はそれを聞いた瞬間、なかなか不満そうな顔をした。

「僕をそう評価するのは君だけだ」

不満げな顔のまま言ってくる。

うん、きっとそうだろう。彼の中では自分はデータで判断する人間だと思っているはずだ。彼の自己評価からはロマンチストなんて言葉は程遠いはず。

それでも、さっきの様なひと言を言ってしまう。

私は、そんな彼が大好きなんだな。

だから、1400年後に叶うかもしれない願い事にはこう頼んだ。

彼の素敵な言葉を覚えておいてください、って。

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