屈折する姿

 赤く小さな手が差し出したのは、一枚のカンバスだった。ナイフで塗り込めた力強い青の上に、微笑みをたたえた男が描かれている。

 私はそれを受け取り、じっくりと細部を観察した。細やかに、緻密に描かれたその絵画はリアリティがあった。恐らくモデルがいるのだろう。

 銀糸の髪や青白い肌はまるで触れられる様であり、たった一点光が射された赤い瞳は、私を見返しているようだ。

 じっと食い入るように眺めていると、赤く小さな手が私のコートを引っ張った。


「どぉ?上手でしょう」


 そう言った無邪気なその瞳は、街灯の薄明かりさえも捕らえて溢れんばかりに輝いている。


「あぁ、上手だよ」


 私は絵を返し、視線を合わせるために腰を落とした。絵を受け取った彼は、不満そうに頬を膨らませ、絵を抱え込む。


「……他になにかない?」


「他に?」


 彼は「もっとよく見ろ」と言わんばかりに絵を押し付けた。また私はじっとみて頭を回す。私は子供を褒める技術も、絵の知識も持ち合わせていなかった。

 私が首を捻っていると、痺れを切らした彼は、涙にその瞳の輝きを増して癇癪を起こした。


「せっかく似てると思ったのに!!」


 彼はそう言って駆け出した。私はその言葉にやっと意図を理解する。

 その絵の男は私と同じコートを纏い、青いバラのブローチをつけていた。青白い肌も、赤い瞳も、きっと私を象徴としているのだ。

 私は絵画を胸に抱き、今にも踊りだしそうなつま先で、彼を追うべく踏み出した。


「そうか、私はこんな顔をしているのか」

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