廃墟に共食い
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廃墟に共食い
かつては水草が茂り、綺麗な空気で満たされていたこの楽園は、いつしか己のヒレもまともに見れないほど泥と苔に塗れていた。
楽園に住まう仲間たちと、優雅に泳いでいた記憶が遥か昔のもののように感じる。
かつての仲間たちは、もうその姿を確認出来ない。飢えて死んだもの。病にかかって死んだもの。苔むした硝子にぶつかって死んだもの。
私は彼らの死肉を食らって生きてきた。泥の中で彼らの顔を見なくて済んだのが救いだ。
だが、それも今日で終わりだろう。水草も死肉も、この水槽にはもうなにもない。私の尾ビレは病で腐りはじめていた。
ゆっくりとその身を沈め、枯れた水草に身を任せた。
「まだ、息があるのか」
目を閉じ、そのまま泥に帰ろうとしたとき、泥中から声がかかる。姿をはっきりと捉えることはできなかったが、彼はこの水槽の中で最も美しかった彼に違いない。
「あなたこそ」
弱々しく私は答える。私は彼が生きているとは思っていなかった。彼はこの水槽の中で最も体が大きかったから、既に死んだと思っていた。
「私は、もう泳げもしません。病でヒレが腐ってしまった」
泥の中に語りかける。彼がそこにいるのかわからない。だが、聞いているような気がしてただ続けた。
「あなたがまだ泳げるのなら、私を食べて生きながらえて。私は仲間を食べて、生きながらえてしまった。だから私も死ぬのなら、誰かを生きながらえさせて死にたい」
私がそう続けるとゆらりと水流が生まれた。私はその水流に包まれ、意識を手放した。
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