第55話 せめてゲームの中では

 色々不愉快な出来事は起こったが、俺達はゲームを始める準備が整った。


 いよいよ全てを決める戦いが始まる。


「では、早速始める順番を決めるかの。ほれ、この数字の書かれた棒を各々引くがよい」


 棒を引いた結果、順番はアテナ、パラス、ヴィディ、神、俺、ベルとなった。


「はっ! やはり一番は俺だな! 早速始めるぞ!」


 アテナが意味はないが力一杯ルーレットを回した。すると数字が五の所で止まった。アテナは自分の駒を数字分のマス目に動かす。


「えーと。いきなり天国か地獄の分かれ道! ルーレットを回して七に止まれば所持金が五倍! それ以外に止まれば所持金全額没収! 挑戦しますか? しませんか? ……だと」

「おい、アテナ。いきなりこんな勝ち目の薄いギャンブルをする必要は――」

「よっしゃー! いきなり大チャンスじゃねーか! いっくぜー!」

「ちょっ! お前何言ってんだ! 始めたばかりの少ない所持金を五倍にしてもたいして……って人の話を聞けー!」


 ルーレットの針は無事に二の所で止まった。


「ふむ、ではアテナの所持金は全額没収じゃな」


 有無も言わさず、神はアテナの前から疑似紙幣を全て取り上げた。


「…………幸太! どうしてこうなった!?」


 今ならこいつが何故何十連敗をしたのか、何の疑いもなく納得できる。


「じゃあ、次は僕の番だね。いったい僕にはどんな花道が用意されてるのかな?」


 次にルーレット回したパラスの針は三で止まる。


「何々? 新しく出来た恋人の為に三十万ゴッド使う。ははっ、いきなり誰かのハートを撃ち抜くなんて、僕はなんて罪作りなんだろう」

「何で始まっていきなり恋人出来てんだよ? ハート撃ち抜くって、思いっ切り貢がされてるじゃねーか」

「パラス、分かってるじゃない。そう、人生の道とは愛の道。愛こそ全て。私もその道を進みますわ! えいっ!」


 針は8で止まった。


「えーっと。片思いの彼に付きまとい、慰謝料を請求される。五十万ゴッド支払。……このゲームは愛とは何か分かってないみたいですわ」

「そーですね」


 なんてことだ……ゲームが始まってこっち側三人とも全然役に立ってねー。いきなりマイナススタートじゃねーか。


「くくっ、まったくお主らはそれでこのわしに勝てるのか?」


 神が笑いながら、なんの力みも無くルーレットを回し、針が七の所で止まった。


「ふむふむ。たまたま助けた人が大富豪だった。一千万ゴッド手に入れるか……くくっ、悪いのいきなり幸運が転がり込んで来たわ」


 俺は後ろにいたハーデス様の顔を見る。するとハーデス様は残念そうに首を横に振った。


 どうやら神は本当に力を使ってないらしい。流石は神と言ったところか。


「何を驚いておる? こんなのわしからしたら当たり前じゃ。こんな日常にいちいち気にするでない」

「そうだな。まだ人生の旅は始まったばかりだ。すぐに追いついてやるぜ!」


 俺は気合を入れながらルーレットを回した。


「四か……俺のマス目は。えーっと、……道中いきなり自堕落な女神につかまり、お菓子やゲームを買わされる。四十万ゴッド支払う……さらにその女神に取り憑かれ、毎ゲームごとに十万ゴッド支払う……」


「おい。何故我の方を恨めしそうに見る? 殴るぞ」


 なんてことだ……現実世界だけでなく、このゲームの中でも女神(疫病神)に取り憑かれるとは……。スタートからいきなりハンデを負ってしまった。


「ったく。お主はいつでもどこでも変わらんの。しょうがない、我が見本を見せてやろう」


 何処から出ているのか分からない自信満々な態度で、ベルはルーレットを回した。


「どうじゃ、いきなり十が出たぞ。これがお主らと我のレベルの違いじゃ」


 ベルは鼻高々に自分の駒をそのマス目に置く。


「さて、何々。なんか疲れたので二回休み? ……おい、我の内容だけなんかてきとうじゃないか?」


 そんな感じで俺達のゲームは進んでいった。


「大逆転のチャンスが来やがったぜ! これで借金は全額返済だ! …………ちっきしょー! 何でだ⁉ 借金が三倍になりやがった!」

「はっはっはっ! また僕の新たなフィアンセが出来たよ! まったくお姫様達にはお金が掛るな。でも、君達の幸せの為なら僕はどんな困難も乗り越えてみせるよ!」

「あらあらあら。ストーカーで逮捕? このゲームは本当に愛ってものが分かってないわ」

「ほう。またまた宝くじが当たったわ。今度はこのあぶく銭で何を買おうかの」

「くそっ! この女神はどれだけ浪費癖があるんだ! こいつの生活費の為にどれだけ稼げばいいんだよ!?」

「なんとなく一回休み……おい、せめて理由くらい書け」


 色々な事が起き、ゲームは終盤へ進む。

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