第54話 製作者に天誅を
俺達はボードが置かれた机の周りにある椅子にそれぞれ腰を下ろした。
「さて、このゲームの参加人数は最大で六人じゃの。そっちは誰が参加するのじゃ?」
「俺とベル様、ヴィディ、アテナ、パラスだ」
「ほう。ハーデス、お主は参加せんのか?」
「私は幸太君のセコンドに就かせてもらおう」
「そうか。それはいいが、お主がそこの人間の為に力を使う事は禁止じゃぞ。もしわしが感知したら、お主らは即失格じゃ」
「もちろんだ。私はただ助言をするだけの存在だ」
「よかろう。それと、この勝負にもう一つルールを設けよう」
「ルール?」
俺は神のいきなりの言葉に首を傾げる。
「なに、そんなに身構えんでいい。これはお主らにとっていい話じゃ」
「俺達にとっていい話ってなんだ?」
「このゲーム、もしお主らの中で誰か一人でもいい。わしより順位が上ならお主らの勝ちにしてやろう」
「なっ、なんだって⁉」
いきなり、こっちに対しての大きく有利な提案に、俺は驚いた。いや、そこにいる全員が驚いた。
「なあに、お主らの様な者たちを相手にするのにこれくらいのハンデがあった方が面白いからの」
そんな余裕な態度を見せている神に対して、ハーデス様は高らかな笑い声を上げた。
「はーっはは! やったぞ、幸太君! これで我らの勝利は固くなった! あの傲慢神の泣きっ面が目に浮かぶぞ!」
この人黙っていると威厳があるけど、口を開くと小者っぽく見えるな。
そんなハーデス様の野次にも眉一つ動かさい神は、依然としてその余裕に満ちた態度を変えなかった。
また、俺の周りにいる女神達もその条件を聞いても、浮かれるそぶりが無い。それ程、神と言うものの存在の力は凄いのだろう。
「では、早速始めるかの。お主ら、各々これを持て」
そう言って神は俺達の前に小さな人形を置いた。
その人形は何の表情も無く、ただ人間の形を模しただけの物だった。
「何だこりゃ? 最近のおもちゃのくせに、なんかしょっぺーな」
アテナがつまんなさそうにその人形を持つ。
すると、アテナの手の中にあった人形が光り出し、その造形を変化させていった。
そして光りが収まると、そこには力こぶを作ったポーズをしているアテナそっくりの人形が出来上がっていた。
「おお! なんだこりゃ! すげーじゃねーか!」
その光景を目の当たりにしたゲーム参加者はそれぞれ自分の前に置かれた人形に手をやる。
パラスが触った人形は白のタキシードに身をまとい、何故か周りにバラを咲かせてある、何処かの劇団員の様な物になった。
「ああ、なんて美しいんだ! この僕を忠実に表現しているよ!」
次に触ったヴィディの人形は、見た目がヴィディそっくりでゴスロリ衣装に身を包んだものだった。しかし、何故かその周りには黒い霧が漂っていた。
「あら、あら。私のは何か故障でもしているのでしょうか? 私の周りにはたくさんのハートマークが出ているのかと思ったのに」
なるほど。このおもちゃはかなり高品質らしい。
そんな事を思いつつ隣に目をやると、そこには自分の人形をじっとりした目で見ているベルがいた。
「おい。他の者の人形は曲がりなりにもちゃんと立っておるな?」
「……はあ」
「なら何で我の人形はこんな物なんじゃ?」
ベルの人形を見ると、そこには呆けた顔で横になり、スナック菓子をむさぼり続けるベルがいた。
「このおもちゃの製作者は天才かもしれない……」
いつものごとく、ベルがポカポカと殴ってきた。
俺はそんなベルをやり過ごし、自分の人形に手を伸ばす。
こんな俺でも、こっちに来てから様々な困難を乗り越えてきたんだ。過度な期待はしないが、それなりに逞しい物になって欲しい。
そんな願いをしつつ、光り輝いた自分の人形に目をやった。
『はぁ~、不幸だなー。どうせ良い事なんて起こらないよ……』
そこには額に汗をかきながら、みすぼらしい服で愚痴を言いながらリヤカーを引いている俺がいた。
「何でこうなるんだよ!? 何で首に『犬』って書かれた札下げているんだよ!? 何でスタート前なのに疲れ切った表情してるんだよ!? 何で人形なのに、所々ネガティブなセリフが出てきてるんだよ!?」
「はーっはは! まさにお主に似合った人形じゃの! わしの崇高な分身を目にするがいい!」
神がこっちを見ながら自分の人形に触れる。そして、そこには一年生と書かれてある名札を胸に付け、ランドセルを背負った神がいた。
「…………これを作った者には神罰を与えてやらねばいけないようじゃの」
「神よ、その任務ぜひこの私めも参加させてください」
「駄犬もたまにはいいことを言うわ」
こうして俺達三人が、この製作者の元へ天誅を加えに行くのはまた別のお話で。
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